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第十一話 楓ちゃん、回想する

新章です。今回は楓視点です。

 幼馴染のあやくんがわたしの家に住むようになり、辛い過去を告白してくれた日から数日が経ちました。


 アヤメくんはちゃんと大切に、あやくんとわたしの写真と並べて飾っています。


 どちらも見ていると心がぽかぽかして、一日頑張ろうって気持ちになれるのです。


 元々、一日の始まりにあやくんとわたしの写真を見るのが日課だったのですが、それにアヤメくんを抱きしめることが加わりました。


(あやくんに見られてなければいいですが......あれ以来よくお部屋に来るようになりましたから)


 どうもあやくんの中では、同居人よりも友達の方が距離が近いみたいで、その......わたしに構ってくる時間が明らかに増えました。


 わたしとしては嬉しいですけど。


「それにしても、いろいろありました」


 最初はお料理が口に合うかおっかなびっくりだったんですけど、あやくんに美味しいって褒められて、今ではお料理を作るのが楽しいです。


「楽しいといえば、お話も楽しいです」


 あやくんが過去を告白してから、ご飯を食べるときはお互い対面に座り、好きな物や嫌いな物などを教えあったりしておしゃべりするようになりました。


「あやくんって、意外と猫舌なんですよね。わたしも同じですけど」


 お鍋をした日は、二人してふーふーして、タイミングも被ったのでお互い笑ってしまいました。


 でも、なんだかこういうのって一緒に暮らしてるって強く思えるので、思い返すとお胸が暖かくなるんですよね。


 ......手を当てると、ぺたんこなお胸を自覚してヘコんじゃいますけど。


 はぅぅ、背も伸びませんし、わたし大人になれるのでしょうか?


 いけません、暗くなっては。


 あやくんに余計な心配させたくありませんし。


 そうです、他のことを考えましょう。


 えっと、家事のことですね。


 あやくんは家事を積極的にしてくださるので、とても助かります。


「ただその、責任を負いすぎている気もします」


 例えば過去を告白した日の翌日。


 この日、洗濯物を片付けてアイロンがけとたたみ方を教えたのですが、着替えをたたまずに仕舞っていたらしく、全部たたみ直しているうちに夕食の時間になってしまい、手伝いが出来なかったと嘆いていました。


「毎回手伝わなくても、充分分担出来ていると思うんですけど......」


 それでも、自分のミスで手伝えなかったので、埋め合わせとして何でもすると言われました。


 家事を手伝うとかそういう意味で言ったと思うんですけど、わたしは当然別の意味に捉えました。


(えっ、あやくんが何でもするって!? どうしましょう!?)


 わたしの一番の願いは、あやくんに幼馴染として扱ってほしいというものですが、あやくんがわたしとは別の幼馴染のことで苦しんでいたので、これは無理と分かっています。


(ですけど、家事をして貰うというのも......)


 女の子として、男の子のあやくんに任せすぎるのはさすがにどうかと思います。


 そうして悩んでいたわたしに、あやくんが「大丈夫、桜井さん」と声をかけてきました。


 仕方のないこととはいえ、あやくんに名字で呼ばれるのは、距離を感じて寂しいです。


 そこで、して欲しいことをひらめきました。


 名字ではなくて、名前で呼んで欲しいと。


 あだ名は駄目でも、名前ならいいですよね?


 これから先あやくんにお友達が出来て、名前で呼ばれることがあるかもしれません。


 そのとき、わたしが佐藤さんと呼んでいたら、距離を感じて離れていくかもしれません。


(そんなの、嫌です......せっかくまた会えたのに)


 そう考えるといてもたってもいられず、聞き返してくるあやくんに名前呼びを推しました。


「わかったよ。ただ、楓さんも僕のこと名前で呼んでくれたら嬉しいかな?」


 はぅぅ、自分で頼んでおいてなんですけど、すごくこそばゆいです。


 しかもあやくん、特に照れたりもせずサラッとわたしのことを名前で呼びました!


「はぅぅ......あ、あやめ、さん......」


 わたしの方はまともに呼べませんでした。


 はぅぅ、わたしだめな子です......。


 と、最終的にはわたしが恥ずかしいことになるんですけど、出来なかったら埋め合わせをしようとするくらいに気負い過ぎているのは、ちょっと問題だと思います。


 ただその一方で、わたしが分担以上に家事をすると、お仕置きという名のご褒美をわたしにしてくれます。


「ほっぺたぷにぷには、あやくんの綺麗なお顔を見ながらほっぺたを触られるというご褒美ですし」


 つい昨日追加されたお仕置きは、お風呂上がりにあやくんがわたしの髪にドライヤーをかけてくださるというものです。


 とても幸せです。


 確かきっかけは町を案内している途中で、あやくんがナンパされちゃったことです。


 その時、その男の人が『そんな地味でブスな女と付き合うより、俺と付き合えよ』と言ったことで、あやくんが本気で怒って、いきなりその男の人にビンタしたんです。


 さらに、『地味とかブスとか、あなたは人のことを言えるんですか? いきなり初対面の方を悪くいう人は、たとえ見た目がよくても心が腐っています。これ以上腐臭を漂わせる前に、汚物入れに還ったらどうですか?』と、とても冷たい顔と声で言い放ちました。


 すごく格好良かったですけど、同時に怖かったです。


 その帰り道、わたしがあやくんに『わたしなんかのために怒ってくれて、ありがとうございます』って言ったので、お仕置きが決まりました。


 髪を乾かされていたときのわたしのお顔は、多分すごく緩んでいたと思います。


 前髪で隠れていてよかったです。


(ですけど、どうしてこれがお仕置きなのでしょうか?)


 もしかして、わたしを甘やかして、あやくんから離れられないようにするお仕置きでしょうか?


 それならドンドンお仕置きしてください。


 幸い、わたしはちょっといけない子ですから。


(るーずそっくすって、不良さんが履く靴下ですし)


 見た目が気に入って買ってみたら、そういうものだったのでお外では履いていません。


 お父さんやお母さんからは何も言われませんが、多分あやくんには言われるでしょう。


 そうしたら、またお仕置きしてくださるはず。


(お仕置きされたいわたしは、いけない子です)


 でも、あやくんにされるお仕置きが嬉しくて。


 どうして嬉しいのかはわかりません。


 その理由がわかる日は来るのでしょうか?

お読みいただきありがとうございます。

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