第四十二話 なずなちゃん、距離に悩む
なずな視点です。
アヤにいとカエデちゃんがあっちに戻って一ヶ月半が経ち、もう来週末にはカエデちゃんの誕生日がやってくる。最後に祝ったのが十年近く前になるので、今回は是非とも祝いたい。
(プレゼントは......うん、大丈夫)
カエデちゃんだけでなく、アヤにいにプレゼントする服も完成している。二人にさせたいことの関係上両方完成しないと意味がなかったので、なんとか間に合ったのでよかった。
(カエデちゃんの服の方は、比較的楽に出来た。逆にアヤにいの服は簡略化しても装飾が多くて苦労したから、スケジュールがギリギリになったけど)
そうなるのはあれを作ろうと考えた段階ですでに覚悟はしていた。だからリスク回避のためカエデちゃんの服はあえてもう一つの方を選んだのだ。まあそれはいいとして、これをどうやって渡すかが問題だ。
(前に行ったときの片道の時間を考えると、そこまで余裕がない)
電車で行くと滞在可能な時間が少ないため、渡せたはいいけど二人が着ている姿をこの目で見られないかもしれない。多分画像は送ってくれるだろうけどそれではわざわざ行く意味がない。極端な話、宅配で送ったとしても結果はそこまで変わらないのだ。
(どうにか滞在時間を長めに出来ないの?)
そう思ったものの、かなり厳しいものがある。電車は朝、昼、夕方の三便あってそれぞれ夕方、夜、翌日の朝に到着するのだけど、カエデちゃんの誕生日の前日は昼までとはいえ授業があるため、どんなに急いでも夕方便にしか乗れない。そして、誕生日の翌日は普通に学校だ。つまり、向こうに朝に着いてから昼には出ないと間に合わないのだ。
(向こうで何かするには、どうしようもなく遠すぎる......せめて前の日の夜に着ければ違うのに。いっそ学校サボる?)
物理的な距離の遠さにワタシは嘆息し、不穏当な方法が頭に浮かぶほどだった。もっとも、リンにいが許してくれないだろうけど。そのリンにいだけど、夏休み以後もアルバイトを頑張っていた。それこそ、電車の往復料金以上に稼いでいるくらいだ。
(前に聞いてみたけど、旅費は意外とかかるってはぐらかされた)
確かに理由としてはわからなくもないけど、それが全てではないだろう。理由を説明してたときのリンにい、嘘ついてるときの特徴が出てたから。
(荷造りを手伝うついでにもう一度聞いてみよう。今なら教えてくれるかも)
そう考えたワタシは早速リンにいの部屋に突撃し、今に至るまでまったく進んでいない様子の荷造りを手伝った。実はリンにいってしっかりしているようで片付けや収納が苦手だったりするのだ。こういうところは、可愛いって思う。荷造りが一段落して、リンにいはワタシに笑顔を向け、お礼を言ってきた。
「ありがとうなずなちゃん。助かったよ」
「別にこのくらい当然。そんなことより旅行のスケジュール決まった?」
「もちろん。一目で分かるように行程表も作ったから、これ使って説明するね」
リンにいが数枚の用紙を取り出し机の上に並べた。学校で貰う修学旅行のしおりよりも丁寧に作られていて思わず感心したのだけど、到着予定時刻に不備を見つけたので遠慮なく指摘する。
「リンにい、夜着くのは物理的に無理」
「待ってなずなちゃん、指摘する前にまず出発時刻も見て」
「出発時刻?」
ワタシの追及は予想していたのか、即座に反論を行うリンにい。確かにそっちは見てなかった。早く着いたらいいのにという、願望がどこかにあったからかもしれない。そうして確認した出発時刻は、多少無茶だけど不可能じゃない時間だった。
(けど、こんな時間に行く便ってあった? そもそも移動時間も短い。リンにいは何を見て予定作ったの?)
見れば見るほど疑問符が浮かんでくる行程表の謎に、ワタシが首をかしげているとリンにいが別の紙を取り出して見せてきた。それには空港から出る飛行機の離発着時刻と、空港までの経路が書かれてあった。
「つまり、今回は飛行機で向こうまで行くことになるんだよ」
「えっ、本当に大丈夫なの?」
確かリンにい、飛行機に乗った回数数えるほどしかなかったはずだけど。手続きとか問題ないだろうか?
「大丈夫だって。少なくともこっちを発つまでの所要時間は、この間実地で調べたから」
「......こっちを発つまで?」
「向こうに着いてからは、さすがに行ってみないとわからないんだ。でもまあ、電車で行くよりは早いはずだよ」
若干の不安が残る返答だったけど、そうであってもリンにいの立てたプランなら時間に余裕が出来る。つまり、カエデちゃんの誕生日を直接祝える上に、ワタシの服を二人が着てるところを生で見られるのだ。
「なら、これで行く。それとリンにい、飛行機に乗るのならもっと大きな鞄でもいい。今から買いに行く」
「今から?」
「時間がもったいない。急いで」
「はいはい、わかったよ」
そうしてワタシはリンにいを連れ、作った服が入る大きさのトランクを買いに行くのだった。なお、帰りにイツキさん達にバッタリ会って、カエデちゃん達へのプレゼントを託されることになった。
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