第四十一話 彩芽くん、贈り物を選ぶ
秋分の日。この日僕は女装して一人で外出していた。体育祭の打ち上げという名の女子会が我が家で開かれるため、空気を読んで出て行った――ということにしている。実はこの女子会、百合さん達に頼み込んで開催場所をうちにしてもらったのだ。
(かえちゃんの誕生日プレゼントを買いに行きたいからって言ったら二つ返事だったね)
出て行く代わりにかえちゃんの足止めをお願いしておいた。誕生日パーティーについても協力してくれているので大丈夫だろう。駅前で待ち合わせていた心節と合流し、男二人のプレゼント選びを始める。
「つーかオレはもう選んでるんだが」
「そうなの? じゃあなんで打ち上げに参加しないの?」
「男一人で女の集団といるのは居心地が悪いだろうが。それに大分先だがクリスマスや、芹の誕生日プレゼントを選ぶ参考にしたいってのもある」
なるほど。確かにそのときになって慌てるよりは、事前にある程度目星を付けておいた方がいいかもね。だけど、今から向かうお店はどっちにも微妙かもしれない。
「僕とかえちゃんの趣味のお店だから、そこまで参考にならないかもしれないよ?」
「別にそれでも構わねーよ。どのみちプレゼント選びのときはお前を連れ回すからな」
男一人で入りにくいお店に入る際、僕が一緒なら事実はどうであれぱっと見偽装になるからだそうだ。まあ、わざわざ付き合って貰ってるからそのくらいはするけど。
「で、どこに行くつもりだ?」
「とりあえず行きつけの画材店に行こうかなって。あそこの店員さん、趣味で木工製品色々作ってるから、よさそうなものがあったら買ってみようかなって」
「いや、どんな店だよ。つかこの辺に画材店なんかあったか?」
「それがあるんだよ。ついてきて」
笹野さんの画材店を訪問する。意外にも心節は知らなかったらしい。地元の人間が知らなかった店を知っていたということが、ほんのちょっぴり嬉しかった。
「いらっしゃい、彩芽さん。そっちの子は彼氏かな?」
「笹野さん、わかってて言ってますよね?」
「冗談だよ。今日は何か用かな?」
「かえちゃんの誕生日が近いので、何かよさそうな木工製品を探しに」
「あの、一応この店画材店なんだけど。まあ手作りのマグカップとか扇子なら置いてるけど」
「いやあるのかよ」
写真を印刷するためか、プリンター用の用紙とインクを物色していた心節がツッコミを入れたが、笹野さんは気にせずペアのマグカップや箸、さらには扇子などを持ってきた。
「ここはやっぱりカップかな? 扇子は季節的にちょっと」
「なるほど箸か。手作りなら彫刻とかもしてくれるのか?」
「追加料金をいただくのと、それなりの期間がかかるけどね。一ヶ月はかからないけど」
「だったら、今度近いうちに来たときに頼みます」
「毎度あり」
僕は木製のマグカップにしたけど、心節は心節で箸が気になったようで、自分の買い物ついでに頼んでいた。うんうん、一緒の食器とかって共同生活って感じが出ていいよね。
「これで終わりか?」
「もう一カ所、付き合ってくれないかな?」
お揃いのカップだけでもよかったけど、かえちゃんへのプレゼントならあれはやっぱり外せない。そう思いアーケード街へと足を伸ばし、店の前に辿り着くと心節がものすごく嫌そうな顔をしていた。
「おい、本気でここに入るのか?」
「うん。別に変な店じゃないよ?」
「それはわかるが女性用靴下専門店なんて、普通男二人で入る店じゃねーだろ」
僕を連れて女子の多いお店でプレゼント探しするといっても、さすがに難易度高すぎたか。でも行くのは変わりないけど。
「僕は一人でも来るけど?」
「それはお前がおかしいだけだ。まあ四の五の言っても始まらんし行くしかねーか」
色々諦めた心節を連れ店内に入ると、珍しく蓮沼さんが出ていて僕達に応対してくれた。
「彩芽ちゃんじゃない。夏休みに撫子さんから連絡あったわ」
「それはよかったです。忙しくて返事が遅れますけど、連絡くれたら嬉しいと言ってましたよ」
「ところで、男の子と買い物なんて珍しいけどどうしたの?」
「かえちゃんへの誕生日プレゼントを選ぶために、友達に付き合って貰ってるんです。そういうわけでいつものかえちゃん用をお願いします」
大抵これで通じるようになるくらい、かえちゃんはよく靴下を買っている。心節、変なものを見るような目で見ないでよ。
「そっちの彼は何か買わないの?」
「芹の足のサイズ知らねーから下手に買ってもな。悪いがまた今度だ」
「ふーん、いい彼氏してるのね。今度その彼女連れて来てくれたら、ベストな靴下探してあげるわ」
大凡年上に対しての態度じゃなかったけど、蓮沼さんは心節の返答がお気に召したのか、そちらは気にしていなかった。
「ベストって、そんなに靴下だけで変わるのか?」
「あっ、心節待って――」
「ええ。そもそも靴下はある意味下着の一種で、第二の心臓と呼ばれている脚を包み込み、足裏も守っているのよ。ファッションにおいても個性を出すのに重要な衣類なの。男の人は蔑ろにしがちだけど――」
心節の迂闊な発言でスイッチが入ったのか、蓮沼さんは靴下について熱く語り始めた。こうなると気が済むまで止まらないので、新人が入ってくる度に熱弁が振るわれるそうだ。なんとか三十分で気が済んだらしく僕達は解放された。
「すげー人だな」
「いろんな意味でね。とりあえず買い物終わりだから、お礼に何か奢るよ?」
「いや、また今度にしてくれ。今は帰って休みてーから」
「わかった。お疲れ様」
疲れていた心節を見送り、持ち帰ったプレゼントは当日まで机の中にしまい込むことにした。なんかもの足りない気がするので、絶対に想い出に残るアレで補おうと考えている。
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