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第四十話 楓ちゃん、月を見る

楓視点です。一応この作品ですが2021年の暦及びイベントを採用しています。

 夏の暑さも落ち着き、外からは秋の虫の声が聞こえてくる九月二十一日の夜、夕ご飯を食べ終わったわたしは、先日にあった体育祭のことを思い返していました。運動が苦手なわたしにとって、いつもは憂鬱な行事でしたけど、今年はお友達やあやくんがいてくださったので楽しかったです。


(珍しくわたしも活躍できましたし)


 運動が苦手なわたしが、借り物競走とはいえ一着を獲れたのは間違いなくあやくんのおかげです。借り物が婚約者という、普通の学生では絶対に借りられないものだったのが勝因でした。ゴールしたあと審議になりましたけど、御影先生の後押しがあり無事認められました。


(二人三脚では、百合さんと牡丹さんが息ピッタリでした)


 幼馴染だからか、お二人は割と身長差があるにも関わらず、他の人をあっさりと抜いていったため驚きました。聞けば昔から得意種目だったそうです。お二人が終わったあと試しにあやくんとやってみたら一歩で転びました。


(はぅぅ、芹さんと心節さんは普通に走っていましたのに)


 そのお二人ですが、運動部の人達と肩を並べるほどに活躍していました。芹さんはリレーのアンカーを勤め上げ逆転勝利しましたし、心節さんは騎馬戦で他の人を圧倒していました。そのため、競技が終わってから下校するまでずっと、いろんな人に囲まれていました。間違いなく、体育祭の新人賞はお二人でしょう。一年生ではMVPです。


(ですけど、わたしが思うMVPはあやくんです)


 あやくんは仮装競走という、コスプレして走る種目に出たのですが、まさかの女装を引き当て、婦警さんの格好で疾走する様は、犯人を追う本職のようでとても綺麗でした。当人は人前で女装することに慣れてしまっていたことに落ち込んでましたけど。どんな格好でもあやくんはあやくんですと、フォローはしましたけど。


(本当に、楽しい体育祭でした)


 想い出の余韻に浸りながらふと自室の窓から空を見上げると、とても綺麗な満月が出ていました。あまりに綺麗だったので、しばらく見とれていました。そして、この気持ちを共有したかったためあやくんの部屋を訪ねてお月見にお誘いすることにしました。


「あやくん、お月様が綺麗ですから、二人でお月見をしませんか?」

「かえちゃん、その誘い方僕以外にしないでね」

「はぅぅ?」


 よくわかりませんが、いきなりダメ出しされました。しかし、お月見自体には乗り気みたいで、今まで予習していたあやくんが手を止め、教科書とノートをしまい込んで席を立ちました。


「ああ、今年の十五夜は確か今日だったね。せっかくだから二人でリビングで見ようか。その方が部屋よりもっと綺麗に見えるよ」

「でしたら、蚊取り線香を焚きませんとね。それもリビングにあったはずなので探しましょう」

「かえちゃん気が利くね。ほら、行くなら急ごうよ」


 あやくんはわたしの手を取って階段を降りました。リビングで準備をしている途中、気になったことを聞いてみました。


「ところで、今日は九月二十一日なのにどうして十五夜なんですか?」

「十五夜って、旧暦の八月十五日のことだから。今の暦で九月の始めから十月の始めまでにある満月の日がそれにあたるそうだよ」


 わたしの疑問にあやくんは丁寧に答えてくださいました。だから毎年十五夜の日付が違ってたんですね。


「うん。でも知識として知ってても、かえちゃんに誘われなかったら気にもしなかったよ。ありがとう、かえちゃん」

「はぅぅ」


 わたしを優しく撫でながら笑みを浮かべるあやくん。体育祭の期間中は忙しくてあまり交流できませんでしたし、体育祭が終わった昨日は疲れでわたしもあやくんもずっと眠っていたので、久しぶりのなでなでの感触です。


「あの、もっと撫でてください」

「うん。なんだったら月を見ながらしてあげるよ」

「えっ、きゃっ!」


 わたしを抱き抱えベランダに出て、自然と膝の上に乗せたあやくん。涼しい風と背中から感じられるあやくんの体温がとても心地よかったです。


「かえちゃん、ほら綺麗な月が見えるよ?」

「はい......」


 あやくんの膝の上で撫でられながら、あやくんと一緒に見上げたお月様は、これまでの人生の中で最も綺麗で印象的でした。急にあやくんのお顔を見たくなり振り返ろうとしますが、どうしてだか途中で阻まれました。


「あの、あやくんのお顔見たいんですけど」

「膝の上から下りて、離れてからならいいよ」


 何故か最近、あやくんはわたしとお顔が近付くのを嫌がります。嫌いになったわけではないそうですけど、頑なに理由を説明してくれません。


「今見てみたいんです。だめですか?」

「......わかったよ」


 渋々ではありましたが許可が下りたため、わたしは振り向きました。部屋の明かりと月明かりに照らされ、夜の闇に浮かぶあやくんのお顔は、ハッキリとわかるほどに赤かったです。もしかして、わたしのお顔見て照れてますか?


「はぅぅ」

「かえちゃん、顔真っ赤だよ?」

「あやくんだって同じですよ~」


 お互い真っ赤になりながら顔を見合わせ、同時に笑い出しました。こんなに綺麗なお月様の下で、わたし達は何をしているのでしょうね?

お読みいただき、ありがとうございます。

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