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第三十八話 彩芽くん、水着でお風呂に入る

 例の悪目立ちするボーダー水着に身を包み、浴室で椅子に座りかけ湯をしてから、僕は湯船に肩まで沈み込んで冷えた体を温めていた。熱いお湯で一気に温めるのではなく、少し温めに設定することでゆっくり時間をかけて温まって欲しいという、かえちゃんの心遣いが感じられる。


(そのかえちゃんはまだ来ないのかな? 心配だな)


 かなり強引な誘い方をしたとは思うものの、判断そのものは正しいと思ってる。ただでさえ体の弱いかえちゃんが、激しい雨に打たれたのだから、体調を崩してもおかしくない。


(とはいえ、一緒にお風呂に入りたいって理由もある)


 かえちゃんがさっき指摘していたように、僕とかえちゃんは一緒にお風呂に入ったことはない。子供の頃から恥ずかしがり屋さんだったから仕方ないといえばそうなのだけど、リンはともかくなずなちゃんとも入った覚えがあるので、入らないのは不義理な気すらしてくる。そんなバカなことを考えていると、浴室と脱衣所を隔てる扉が少しずつ開かれ、ドアの陰からひょっこりとかえちゃんが顔を出した。


「あやくん、いますか?」

「いるよ。着替え終わったんだね」

「はい......失礼します」


 恐る恐る、浴室に入ってくるかえちゃん。不安そうに揺れる大きな瞳と華奢な手足も合わさり、庇護欲をかき立てられる。その小さな体を包みこむのは旧型と呼ばれるスクール水着で、かえちゃんの幼い印象をより一層強調している。プールのときにも見たのだが、これほど近くでじっくりと観察するのは初めてだ。


「あの、どうかされました?」

「ううん、可愛いなって思っただけだよ。今度お風呂用に別の水着も買おうか」

「そのときはあやくんも新調してくださいね。その水着はさすがにちょっとどうかと思いますし」


 ワンピースやビキニも見てみたいという好奇心での発言ではあったけど、どうもかえちゃんも乗り気みたいだ。それにしてもこの水着、かえちゃんはお気に召さないんだね。まあ仕方ないか、今どきこれで泳いでてもギャグにしかならないから。


「それは僕も思う。でもかえちゃん、男の水着って大半海パンで上半身裸だけどいいの?」

「はぅぅ///」


 上半身裸という言葉だけで恥じらい、それを誤魔化すように桶に溜めたお湯を頭から被るかえちゃん。どうもまだ駄目っぽいので、上下セットでデザインがまともなのを探すことにしよう。もし見つけたら学校の授業もそれで受けられるか相談したい。


「かえちゃん、僕の膝の上においで。その方が温かいよ?」

「はぅぅ......い、いくらなんでもそれは恥ずかしいです~」

「あのねかえちゃん。いつも膝の上に乗って甘えてるんだから、着てるものが水着だであっても大差ないと思うけど」

「そうでしょうか?」

「そうだよ」


 強引に言いくるめてかえちゃんを膝の上に座らせた。かえちゃんは真っ赤になって恥ずかしがっていたけれど、特に嫌がる素振りも見せなければ、気絶することもなかった。


「はぅぅ///」

「気絶しないんだ? えらいえらい」

「あ、あやくん!? 子供扱いしないでください~!!」


 頭を撫でると、かえちゃんは頬を膨らませて抗議してきた。こういうところも本当に可愛いよね。さて、冗談はこのくらいにして真剣な話をしようか。


「ごめんって。でも、進歩してるのが嬉しいのは事実だよ。籍を入れるまではプラトニックな関係を貫くつもりだけど、今のままの僕達じゃそうなってからがまた長くなりそうだからね」

「それは......確かにそうですね」


 そもそも僕もかえちゃんもヘタレなせいでファーストキスすらまだ出来ていないのだ。下手すると結婚式の誓いのキスがファーストキスになりかねない。それはそれでロマンチックだと思うけれど、付き合って数年経ってもそんな関係だったらある意味親が泣くだろう。


「そうならないためにも、こういうスキンシップに慣れておく必要があるんだよ」

「そ、そうですね!」


 自分で言っておいてなんだけど、一緒にお風呂や添い寝している僕達がプラトニックな関係に該当するかと問われると微妙だと思う。別に邪念は持ってないので入ると思ってるけど。


「そういうわけだから、温まるまでこうしていようか」

「はい///」


 膝に乗せたスクミズ姿のかえちゃんを撫でる。髪が濡れているためいつもより優しく、指先だけを使って。


「はぅぅ///」


 とろけるようなかえちゃんの口癖を聞きながら、充分に温まるまでのんびりと過ごし、どうも頭がぼんやりしてきたので上がることにした。


「ほら、もう上がろうか」

「はい~、上がりましょう~」

「口調が紅葉義母さんみたいになってるよ。かえちゃん、着替えられそう?」

「大丈夫です~」


 湯船から上がり、少々覚束ない足取りで脱衣所に向かうかえちゃん。とりあえず僕もお風呂から出ないと逆上せそうなので、椅子に腰掛けながらかえちゃんが着替え終わるのを待った。


「あの、お待たせしてすみません。今終わりましたので出ても大丈夫ですよ」


 十分後、かえちゃんからの報せを受け、ようやくお風呂場を後にして着替えたのだった。その後大量の洗濯物を部屋干しすることになり、梅雨の時期と同じように一咲義父さんと紅葉義母さんの部屋、さらには僕達の部屋まで使って、やっと全部干せた。


「あとは一晩干せば大丈夫かな?」

「多分ですけど。ところで、お風呂のお片付けってしましたか?」

「水着で入ったからあんまり洗えてないし、夜もう一回入るつもりで蓋だけ閉めてきた。念のために言っておくけど、夜は別々に入るつもりだよ」

「よかったです......」


 あからさまにかえちゃんはホッとしていた。今になって思うとかなり恥ずかしいことをしていたので、しばらく一緒に入浴することはないだろう。

お読みいただき、ありがとうございます。

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