第三十七話 楓ちゃん、雨に降られる
楓視点です。
新学期が始まり一週間が経ちました。台風が近付いていた影響で二日間ほど雨が降っていたのですが今日は朝から雲一つない快晴で、降水確率も0%だったので安心して洗濯物を干しました。
「とってもいい天気です」
「今日こそはきっと、生乾きの洗濯物も乾くよね」
「はぅぅ、ご迷惑かけてすみません」
生乾きの洗濯物のほとんどがわたしの靴下のため、言い訳の余地がありません。平謝りするわたしの頭をあやくんは少し乱雑に撫で、気にしないでと声をかけてくださいました。
「ありがとうございます」
「お礼はいいから、早く用意して学校行こう?」
どうも焦っているみたいなので時計を確認すると、いつも出る時間に比べ十分ほど早い時刻でした。電池切れの可能性も疑い念のため携帯の時間も見ましたが同じでした。
「あの、時間まだ余裕ですよ?」
「暑いから早く教室に着いて涼みたいんだよ。ギリギリだと呼吸と汗が落ち着くくらいに授業が始まるから」
言われてみると納得いったので、出来るだけ早く準備して家を出て、あやくんの狙い通りに涼むことが出来ました。しかし、今日の幸運はここまででした。お昼前から雲が出始め、最後の休み時間には雲行きが怪しくなっていました。
「あー、これは夕方、下手したら放課後には一雨来るかも。授業終わったら急いで帰ろう」
窓から空模様を見たあやくんは、隣に立っていたわたしにそう告げました。そして、あやくんの懸念は現実のものとなり、下校中に大雨に見舞われることになりました。
「はぅぅぅ!!」
「折り畳み傘じゃカバーしきれない! ゲリラ豪雨と言ったって限度があるでしょ!! とりあえず鞄を濡らさないようにして、急ぐよ!」
「は、はいぃぃ!」
折り畳み傘を持っていたものの、あまりの雨足の強さに家に辿り着く頃にはわたしもあやくんも全身びしょ濡れになってしまいました。はぅぅ、靴がぐしょぐしょです。
「酷い雨だったね。教科書は濡れてない?」
「なんとか大丈夫みたいです。あっ、洗濯物見に行きませんと!」
「僕も行くよ!」
庭を確認するといくつもの水たまりが出来ていて、干していた洗濯物もぐっしょりと濡れていました。地面に落ちていなかったことだけが不幸中の幸いでした。
「はぅぅ、洗濯物が......」
「洗濯物は僕が回収しておくから、かえちゃんは体拭いてお風呂の準備してて」
「そ、そうですね」
ひとまずお部屋で濡れた制服や下着を脱いで体を拭きます。ちょっと寒気がしましたので、わたしは急いで服を着て、一階に降りてお風呂にお湯を張って、そのあとあやくんのお部屋に入り着替えとタオルを用意しました。
(これで少しは、お風呂の用意が早く出来ますね)
その間に大雨の中であやくんが洗濯物を回収しました。カゴに入れた洗濯物の水気を切っていたあやくんにバスタオルを渡し、体を拭いてあげました。バスタオルも濡れるほどに雨に打たれたあやくんの体は、少し冷たかったです。
「ありがとう。やっぱりこれ全部洗い直しだね。洗濯機フル稼働しないと」
「その前にあやくん、お風呂出来ましたから先に入ってください。お片付けの間ずっと雨に濡れていたわけですし、風邪引いちゃいますよ?」
残暑といっても、あれだけ激しい雨に打たれ続けたせいで、明らかに体温が下がっているので早急に温まるべきです。
「いや、僕はあとでいいよ。それよりかえちゃんが先に入ってよ。あんまり体強くないんだから、拭いただけだと夏場でも風邪引くよ?」
「はぅぅ、わ、わたしはすぐ拭いたから大丈夫です。あやくんはずっと濡れたままだったじゃないですか」
「僕はこんなだけど割と頑丈だから......これ以上口論して両方風邪引いたらバカみたいだから、もういっそのこと一緒に入ろう」
お互いが相手に先に入るよう促した結果、言い争うみたいになってしまいましたが、あやくんの放ったとんでもない一言で決着がつきました。
「はぅぅ! い、一緒ですか?」
「うん。別に体を洗う必要ないし、温まるだけだから水着着て入ればいいかなって。ちょっと狭いプールだと思えば恥ずかしくないよ」
そう言ってあやくんはお部屋に戻り、水泳で使っていた上下セットの水着に着替え、手には着替えを持っていました。
「ほら、かえちゃんも着てきなよ」
「ほ、本当に一緒にお風呂に入らないといけないんですか?」
「もちろん。かえちゃんと一緒にお風呂やプールに入ったの、何年ぶりになるかな?」
「お風呂は入ったことないですよ~!!」
「そうだっけ? とにかく、待ってるからね」
楽しそうにお風呂に入っていったあやくんの様子が、なんだか子供みたいだったので、そのノリに引きずられたわたしは、あやくんと一緒に入るための水着をお部屋から持ってきたのでした。
(入る前に、先にお洗濯しておきましょう)
脱衣所で着替えるついでに、洗濯機の中に洗濯物を入れスイッチを押します。これでお風呂の分時間を短縮できるでしょう。そう考えながらわたしは服からスクール水着に着替え、あやくんの待つお風呂へと鼻歌を歌いながら向かうのでした。
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