第三十五話 彩芽くん、お疲れ会を開く。その二
昼食が終わってから、百合さんと牡丹さんの写真を見ることになった。どうやら二人は恋人と車で小旅行に行ったようで、自然豊かな高原で抱き合ったり顔を寄せ合うラブラブ写真をいくつも見せられた。
「はぅぅ、大胆です」
「こんなの序の口だよ。ね、牡丹?」
「そう。キスの写真はあえて外してるから」
「なんで僕の周りにはそういうのを見せつけてくるカップルしかいないんだよ!」
リンとなずなちゃんもそうだし、バカップルしかいない現状に僕が心の叫びを発すると、すかさず心節と芹さんが否定してきた。
「おい、オレらをコイツらと一緒にするな」
「人前でキスはするけど、さすがに写真を見せられるほどじゃないわ」
「キスすらまだの僕達からしたら一緒だよ。普通の写真はないの?」
「あるよ。例えばこれとか」
「こっちもそう」
百合さん達が次に見せたのは、菊太さんが百合さんにメープルシロップを食べさせている写真と、牡丹さんと桐次さんが手を繋ぎながら木彫りの皿を鑑賞している写真だった。普通の写真でもいちゃついてるんだと最初は思ったのだけど、なんとなく違和感を覚えた。
「あれっ、この木彫りの皿見覚えあるというか、作った覚えがあるんだけど」
「えっ!? 本当です。あやくんが作ったお皿です」
「それにこのメープルシロップも見た覚えあるわ」
「ちょっと待て。つまりお前らの旅行先って」
「林間学校で行った山だよ。遊びに行くと意外と楽しかったよ」
「ちなみに彩姫のお皿、かなり目立つところに飾られてた。二学期はもっと美術部に追い回されると思う」
牡丹さんから不穏な一言を告げられ、明日からの学校生活が不安になったところで二人の想い出語りは終わった。
「じゃあ次はアタシだけど、あんまり写真撮ってないのよね。まずはうちの家族写真からね」
芹さんは実家に戻って、のんびりと過ごしたようだった。見せられた写真に映っていたのは、落ち着いていて物静かな印象の男性と利発そうな女性の二人で、一目で芹さんの両親だと分かった。
「いや、両親すさまじいくらいに美形じゃねーか」
「モデルか俳優でもしてるの?」
「普通の会社員よ。ちょっと忙しいけど、家族仲も良好だし。冬休みには心節君を連れて行こうかしら?」
「そうだな。お前には両親を紹介したし、そのうち挨拶に行くつもりだ」
「へっ!?」
冗談っぽく言った言葉に、マジの答えを返され芹さんの口から素っ頓狂な声が出た。
「あのな、お前だけうちの両親のこと知ってるの不公平だろ? だから今度帰るときには言え」
「あっ、わ、わかったわよ。それより、写真の続きよ!」
真っ赤になりながら、携帯を操作し写真を見せ誤魔化す芹さん。その中に一つ、迫力のある滝の写真があり目を奪われた。
「大きな滝だね。観光地になってたりするの?」
「ええ。名前調べたらもっといい写真が見られるわよ。あと地元は温泉も有名よ」
「だから芹ちゃんってお肌綺麗なんだね」
「冬休みの旅行の候補にしてもいいかも」
「ここからはちょっと遠いから、温泉に行きたいなら別の場所にした方がいいわよ」
僕達の地元ほどではないにしろ、芹さんの地元へ行くにはかなりの時間がかかるそうで、百合さん達の旅行計画は頓挫したようだった。残念そうにしている二人を元気づけるように、芹さんは荷物から何かを取り出していた。
「そうそう、お土産があったんだった。温泉まんじゅうと石鹸よ」
「お土産なら僕達もあるよ。ゆるキャラの人形に和柄のハンカチと遊園地で買ったクッキー」
「あとは学校でクラスメートに配る分があります」
芹さんに便乗して僕達も出しそびれていたお土産を出して全員に配る。用意した側の僕達三人はお互いにお礼を伝えた。
「このハンカチ、結構いいものじゃねーか?」
「ゆるキャラって、意外と可愛いね」
「石鹸、使ってみて感想もまとめとく」
一方、突如渡された大量のお土産に困惑する心節達。しかしながらも、最終的には喜んでくれた。そして、お土産を渡したことで芹さんのターンは終わったようで、最後に心節の順番となったのだけど、
「「ええっ~~~~!?」」
心節の見せた写真に、僕とかえちゃんは揃って驚きの声をあげ、不満を口にした。何故なら、
「僕達がいないときに、プールみんなで行ってたの!?」
「はぅぅ、ずるいです」
僕達を除く四人、さらに言うなら菊太さんと桐次さんも入れた六人で、楽しそうにプールで遊んでいたからだ。なんだか裏切られた気分になり、追及せずにはいられなかった。
「偶然会っただけだ。そうだよな?」
「うん。牡丹とダブルデートでプールに行ったら、心節君と芹ちゃんがいたんだもん」
「というか、彩姫がいるときでも誘わなかった」
「「なんでですか!?」」
牡丹さんの無慈悲な発言に、思わず声を揃え抗議した僕達。しかし牡丹さんは淡々と反論してきた。
「彩姫、その見た目でプールに行けると思ってるの?」
「全身水着じゃないと、控えめに言っても通報されるわね」
「それ以前に、更衣室でアウトだと思うよ。心節君、授業のときはどうだったの?」
「うっかり普通に脱ぎやがって、『血に濡れた更衣室』という七不思議が生まれちまった」
うん、あれは不幸な事件だった。飛び散った鼻血を拭き取り切れなくて、次使ったクラスがそれを目撃し拡散されて七不思議が生まれたんだよね。僕もその画像見たけど、予備知識なしでみると恐怖写真にしか見えず、一緒に見たかえちゃんが卒倒した。
「あれの元凶って彩芽君だったのね」
「ほら、下手にプールは使えない」
「う、海ならまだいけるから」
「更衣室に誰もいなければだがな」
「それか、陰でこっそり着替えるくらいしかないよね。可愛すぎるのも困ったものだよね」
「うぅ!!」
震え声で言い返すもフルボッコにされ、僕は撃沈した。うんまあわかってたけど。オチが付いたので想い出の披露は終わり、そのままお疲れ会はお開きになった。
「じゃあみんな、明日学校でね」
「遅刻しないでくださいね」
「大丈夫、あたし達はお互いに気をつけてるし」
「そうそう。最悪自転車引っ張り出すか、菊太さんを頼るから」
「牡丹さん、それはどうかと思うわよ。アタシはいつも通りよ。心配なのは心節君かしら?」
「なら、お前にモーニングコールでも頼むさ。彩芽に楓、お前らこそ気をつけろよ」
心節達を見送り、僕とかえちゃんは夕飯の準備に移り、夏休み最後の日をいつもの休日と同じように過ごしたのだった。
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