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第三十四話 彩芽くん、お疲れ会を開く。その一

 八月三十一日のお疲れ会当日、心節達をリビングに通しグラスを行き渡らせた。事前にリサーチし、飲み物はコーラとアイスコーヒー、麦茶の三種類を用意している。麦茶は僕とかえちゃんの好みだけど。


「ちゃんと冷えてるな。オレはコーラ貰うぞ」

「アタシもそうするわ」

「私はアイスコーヒー、ブラックで」

「あたしはミルク入れてね」

「わかりました」


 飲み物を注ぎ終わり、主催した僕が乾杯の音頭をとることになった。長々とするのもどうかと思ったので、手短に終わらせた。


「夏休み中に宿題を終わらせた自分自身にお疲れ様を伝えて、明日からの学校生活に弾みをつけるために乾杯しよう。乾杯!」

「「「「「乾杯!!」」」」」


 乾杯のかけ声とともに、お疲れ会が始まった。まず僕とかえちゃんはこのあとのイベントのために携帯をテーブルの上に置き、全員に見えるようにしておいた。


「どうしたんだ、二人とも携帯置いて?」

「ちょっとね。ときにみんな、他の人が夏休みどう過ごしてたか、気にならないかな?」


 僕の問いかけに、反応の差はあれど全員が興味を示した。そう来なくちゃ面白くないよね。置いた携帯を操作し、かえちゃんが電車内で読書している写真を表示する。


「まあこんな感じで撮った写真を見せながら、この夏の想い出を語り合おうか。もちろん最初は僕達からだけど」

「別にいいが、オレは基本勉強会で特筆するネタは......いや、一つだけあったな。それしかねーから最後でいいか?」

「アタシは帰省のときのでいいかしら?」

「じゃああたし達はダブルデートで旅行行ったネタで」

「あれが一番盛り上がった。二人きりのデートは彩姫達には刺激強いから」


 一部気になる発言はあったけど、みんな乗り気なので話を続けた。


「この写真を撮ったのは、行きの電車内だね。車内販売とか、外の景色とか楽しみにしながら、しばらく読書してたんだけど」

「結局わたしもあやくんも寝てしまって、ほとんど堪能できなかったんです。起きたときには目的地まで一時間切っていました」


 余談だけど帰りも同じことをしてしまい、腹ぺこの状態でファーストフード店に寄ってたりする。


「うわー、もったいないよねそれ」

「そういえば林間学校のときもそうだった。彩姫達は乗り物に乗るとすぐ寝る」

「自覚してる」


 気を取り直して次の写真を見せた。リンとなずなちゃんが駅に迎えに来たときの写真だ。誕生日のとき幼馴染がいると話していたので、写真の男女が何者かみんなすぐに察してくれた。


「コイツらがお前の幼馴染か」

「うん。ちなみに二人は義理の兄妹でもあるんだよ」

「そうなのね。年齢差いくつなの?」

「二つだよ。確か桐次さんと同い年のはず」


 この発言で、百合さんと牡丹さんの視線の色が変わった。考えてみれば年上と付き合ってる百合さんと、中学生と付き合っている牡丹さんからすれば、シンパシーを感じても別におかしくないか。


「桐次君と同じかー。その割には大人っぽいね」

「うん。顔立ちもそうだけど、かえちゃんはもちろん僕よりも背が高いんだ。多分百合さん以上芹さん以下じゃないかな?」

「会ってみたいわね。中学生でこれなら将来が楽しみ」

「向こうまで遠いから中々。でも多分来年のゴールデンウィークにはまた来るんじゃないかって思ってる。もし来たら紹介するよ」


 さらに別の写真に切り替えた。それは夏祭りのときの、僕とかえちゃんの浴衣姿の写真だった。それを見た瞬間心節はもちろん全員が噴き出し爆笑した。


「ぷっ、ははははは!! お前女物の浴衣似合いすぎ!」

「そんなに笑わないでよ」

「楓たんの浴衣も、ふふっ、子供用よね?」

「はぅぅ」

「でも、色合いが対比で柄はお揃いね。よく用意できたわね」

「母さんが昔着てた浴衣なんだ。サイズもちょうどよかったから」

「そういえば彩姫のお母さんってどんな人?」

「真面目で熱心な人かな? 見た目はこんな感じ」


 母さんの写真を見せると、何故かどよめきが起こった。確かに身内びいきを抜きにしても若い見た目だと思うけど、そんなにかな?


「いや、若さもだけどすごい美人だから驚いたんだって」

「本当に彩姫に似てるわ。姉妹って言われても信じられるくらい」

「さすがに持ち上げすぎだよ。姉妹っていうならかえちゃんのお母さんの方だよ。これ見て」

「うわー、外見だけならオレらと同世代にしかみえねー」

「最大限上に見積もっても大学生よね」


 それは僕も同意する。本人も居酒屋で年齢確認させられて困ると話していたので、多分知り合いじゃないとわからない。まあ紅葉義母さんの話はこのくらいにして、他の写真を見せようか。次の写真は遊園地での一幕だった。


「ねえ、これってどう見ても観覧車の中よね?」

「しかも夕日に照らされてる」

「最高のシチュエーション。キスした?」

「はぅぅ、出来ませんでした」

「もったいない。彩姫も楓たんもヘタレだよね」


 非難がましい目で僕達を見る百合さん。まあ状況的にはどう考えてもキスすべきだと思うし、実際にヘタレたから出来なかったのも事実だけど、それでも最終的にはしなくてよかったんだよ。


「いやいや、そう言いたいのはわかるけど最後まで聞いて。かえちゃん説明よろしく」

「はい。実はその、わたし達の乗ったゴンドラにはキスすると別れるという都市伝説があったらしくて」

「彩姫、その都市伝説って有名なの?」

「中学時代、クラスで孤立してた僕でさえ知ってると言えば、どれだけ有名かわかるよね?」

「うわぁ、ガチじゃないのそれ。ごめんね彩姫」


 でもキスさえしなかったら問題ないので、あのゴンドラには普通にカップルも乗ってるらしいけど。と、これで主要なエピソードは語ったので、携帯を手に取りって締めにする。


「これで僕達の帰省の話は終わりだよ」

「あとはあやくんのご両親に婚約の報告をしたりしましたけど、特に断られることもなかったです」

「そうか。ところでもう昼だが、飯はどうするんだ?」

「すぐ用意します!」

「楓、ちょっと待ちなさい! アタシも手伝うわよ!」


 時計を見て、かえちゃんは慌ててダイニングに向かい、それを芹さんは手伝うために追っていった。残された四人のうち、百合さんと牡丹さんは話すネタの打ち合わせを行っていて、僕と心節は手持ち無沙汰になってしまった。


「せっかくだからお前らの撮った写真を見てやる。ついでにいい写真を撮る方法も教えるぞ」

「じゃあお願いしようかな?」


 お昼ご飯が出来るまで僕は心節から、携帯で上手に写真を撮るコツを伝授されたのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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