第三十三話 楓ちゃん、荷物を片付ける
楓視点です。
夏休みも終盤に入ったある日、あやくんの実家からお荷物が届きました。大きな段ボールが一箱、小さめの段ボールが二箱の合計三箱でした。それらの荷物を見てあやくんは、ここに来てすぐのことを思い出し懐かしんでいる様子でした。
「懐かしいね。あのときは荷物だけ先に着いてんだっけ。迷惑かけてごめんね」
「いえその、そのおかげであやくんが近いうちに来るとわかりましたし」
「しかも、電車の指定席の券を事前に買ったまではよかったけど、その便が夜中に出発するやつでね」
「だからカラスさん達と違ってお昼に着いたんですね」
「うん。本当、あのときの僕はどうかしてたよ」
そう自嘲するあやくんですが、もしあやくんがまともな状態だったら、きっと撫子お義母さん達はあやくんの一人暮らしを許していて、わたしとこうやって暮らすことはなかったと思います。
「そうかな? 一人暮らしを止められた理由が家事だったから、関係なかったと思うよ?」
「お料理出来なくても外食や店屋物でもよかったわけですし、普通に考えればそれは方便ですよ」
「言われてみれば確かに。気付いてたら認められてたのかな? まあかえちゃんとの生活が楽しいから、今さらそうしたいとも思わないけど」
「そう言っていただいて嬉しいです。わたしも、今の生活楽しいですよ」
出来れば、このままずっと続いて欲しいと願うほどには。少ししんみりした話になってしまったためか、その空気を払拭するかのようにあやくんが勢いよく立ち上がりました。
「よし! じゃあそろそろ荷物の片付けをしないとね。大きい方は衣類って書いてるから、ひとまず後回しにしよう」
「あの、大きい方が衣類なら、小さい二つはなんでしょうか?」
「一つは食品って書いてあるけど、とりあえず開けてみようか」
食品と書かれてあった段ボール箱に入っていたのは、缶詰などの非常食でした。意図がわからず首を傾げながら中を検めると、手書きで『紅葉が非常食のことを心配してたから、こっちから送るわね』とメモが入っていました。お母さんと撫子お義母さんのお心遣いに感謝です。
「母さん、お節介だよね。まあ必要なものだし、あとでお礼伝えておくよ」
「一緒にお伝えしましょう。あと一つには何が入っているのでしょう?」
「多分だけど......ああ、やっぱり家庭向けの医学書だ。怪我や病気したとき応急処置をどうするかって。それと市販の薬とガーゼ、それに包帯だ。こっちは父さんと一咲義父さんが用意したっぽい」
両親の体に気をつけて欲しいという願いが、これでもかというくらい感じられます。それに感謝しつつ、わたし達は非常食をダイニングキッチンの引き出しに、お薬と本をリビングにある三段カラーボックスの中に片付けました。
「これでよし。あとは服を僕の部屋に運んで整理すればいいだけだ」
「あの、お手伝いします」
「じゃあ部屋に先に行って、押し入れ開けててくれないかな?」
あやくんのお部屋に行き、言われたとおりに押し入れを開けると、上段にはお布団が畳んで重ねてあり、下段にはプラスチック製のケースに春物の服が収納されていて、服の上に防虫剤を置いていました。
(これでしたら、虫食いも起きないですね)
防虫剤を使っていても、衣服を段ボール箱で長期間保管するのは危なかったりします。箱は紙なので、食べてしまう虫がいるからだそうです。酷いときはあの虫が繁殖する――はぅぅ、想像しただけで震えが止まりません。
「かえちゃん持ってきたけど、どうしたの? 顔色悪いけど休む?」
「いえその、大丈夫ですからお気になさらず」
「そう? でも無理はしないでね?」
荷物を持って上がったあやくんに心配されてしまいました。気を取り直して衣類の整頓です。ほとんどあやくんの冬物の衣服でしたので、空のケースに畳んで片付けました。ただ、底の方に一部違うものが含まれていました。
「なんだろう?」
「これは、向こうで洗濯してたわたし達の服ですね。ついでに送ってきたんですね」
「そういえば残したままだったね。でも、それだけじゃないみたいだよ?」
さらに底の方には木箱が入れられていて、箱を開けてみると二人分の女性用の着物が入っていました。うち一つが子供用だったのは、仕方ないと思いましたけど。
「......なんで着物が入ってるんだろう?」
「さあ? 間違って入れたのではないでしょうか?」
「普通こんなの間違って入れないって。多分母さんというか、親四人からの一足早い誕生日プレゼントだと思うよ。これ着て秋祭りでデートしろって。僕のが女物なのは納得いかないけど」
落ち着いた色合いに紅葉が散りばめられた、秋らしい柄の着物を広げてあやくんが嘆息しました。わたしはお揃いに出来るので嬉しいですけど。ただ、浴衣も一人で着られなかったわたし達が、こういう着物を上手く着られるでしょうか?
「何度か練習するしかないね。母さんか紅葉義母さんに電話で聞いたり、ネットの動画見ながらすればそのうち着られると思う」
「でしたら、今から動画を見てみませんか?」
「そうだね。正直どう着ていいのかわからないし、話だけだとわからないからね」
そうして、あやくんと二人で着付け動画を見たり、お母さん達に聞いたりしてから実際に着てみました。もちろん上手く出来ているはずもなく、酷い出来にお互い笑ってしまいましたが、練習し段々それらしく着られるようになりました。とてもお綺麗だったのが印象的でした。
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