第三十二話 彩芽くん、お疲れ会を企画する
実家からこちらに戻ってきてからの数日間、僕達は帰省していたときの遅れを取り戻すかのように宿題を終わらせることに没頭し、八月十八日の午前中で全て終わらせた。最後の問題を解くと同時に、かえちゃんはテーブルへと突っ伏した。
「やっと終わりました~」
「かえちゃん、お疲れ様。それと最後の仕事が残ってるから、もうちょっと頑張って」
「最後のお仕事ですか?」
「うん。やり忘れや抜けがないかのチェック作業だよ」
かえちゃんと一緒に照らし合わせを行い、完全に済んだことを確認し広げた宿題を片付けようやく一息ついたのだった。
「大丈夫、みたいですね」
「うん。完璧に終わってるね。これから何しようか?」
「そうですね、とりあえずお昼寝したいです。家事とお勉強で疲れましたから」
「ならそうしようか。実は僕も疲れてるからさ」
二週間近く勉強しなかったためか、たった数日勉強しただけで体力と集中力がゴッソリ削られていた。かえちゃんの発言に同意し、部屋からタオルケットと枕を持ってきて畳の上に敷いた。
「これで準備出来たよ。あとは寝る前に、みんなの宿題の状況を確認しようかな?」
「そうですね。確認って、お電話でですか?」
「メッセージの方だよ。もし勉強中なら邪魔したくないし、着信音で起こされたくないからね」
宿題の様子を尋ねるため友人全員にメッセージを送ってから、僕達は枕を並べて目を閉じたのだけど、三十分ほどで揃って目を覚ました。眠りが浅かった原因は空腹だった。
「そういえば、お昼ご飯まだでしたね」
「忘れてたよ。一緒に作ろうか」
「はい。手早く食べられるものにしましょう」
そういうわけで二人で分担して素麺を茹で、それを昼食にした。食べ終わってメッセージを確認すると心節と芹さん、牡丹さんはもう宿題が終わっていて、百合さんも多分今日終わりそうとのことだった。
「なるほど、みんな終わってるか、ほとんど片付いてるみたいだね」
「あの、でしたら集まって遊びませんか?」
「いいねそれ。宿題お疲れ会って名目にしてから僕達の家で開催しよう」
そう提案したら十分もしないうちに全員から応答があり全会一致で決まった。ちょっと、みんな反応早すぎない? まあいいけど。ともかく、やるとなったら計画はしっかり立てたい。
「かえちゃん、僕が議長役するから、決まったことをノートに書いていって」
「わかりました」
まずは日程だけど、心節と芹さんは別にいつでもいい、百合さんと牡丹さんはデートと旅行が終わったあと、二十六日以降ならいいそうだ。そのあともデートしないのか聞いてみたところ、
『そこからは菊太さんはバイト入れてる。あたしが夏休みの終わり頃は宿題に追われてるからって理由で』
『桐次君、同級生に宿題教えてるから私は暇してる。たまにその勉強会にも顔を出すけど、毎日だとどうかと思うから』
だそうなので、お疲れ会は夏休み最終日にすることにした。元々その日は勉強会をする予定だったので、特に反対されなかった。次に決めたのは時間だ。いくつかのパターンを示したところ、朝から晩までするか、いっそ前日からの泊まりにするかで意見が割れた。泊まりには女子三人が乗り気だった。
『アタシは元々一人暮らしだから、彩芽君と楓が許可してくれたら泊まりでもいいわよ』
『正直すっごく泊まりたい!』
『楓たんの部屋で女子会もいいわ』
これで意見が通るかと思っていたら心節が反対し、彼が書き込んだ反対意見で全て覆った。
『泊まりだと部屋は男女に分かれるだろうが! オレと彩芽の二人きりで一夜を過ごせとでも言うつもりか?』
この意見を見た女子三人は、心節に同情的になり朝から晩までという時間に決まった。解せない。あとでこのことをリンに愚痴ったところ、
『その心節君とやらの言い分は正しい。ただでさえ君は女子にしか見えないし、その上に抱き癖まであるんだから自重しなよ』
と説教された。そういえば小学生の頃よくリンに抱き付いて寝てたことを思い出し、僕は心の中で詫びたのだった。ごめん、リン。
それはそれとして、日付と時間が決まったので最後に一つ、当日の料理についてどうするかだけ決め、話し合いを終わらせることにした。
『出前でいいんじゃないかな? 作るとなると大変だしみんなの財布に負担かけたくないし』
『お前らの財布に負担かかるだろうが。弁当を各自買ったらいいだろ』
『それなら材料買って作った方が安上がりよ』
『確かにそうだよね。あたし達全員で作れば早く終わるし』
『あの、お料理はわたしがします。みなさんはお客様ですから』
『楓たん一人じゃ大変だからそれは却下よ。あまり時間かけたくないから多数決にするわ。出前かご飯買ってくるか全員で作るか』
多数決の結果みんなで作ることになり、議論は終了した。あとの細かい予定は僕達が二人で相談して決めることになった。
「午前中は撮った写真を見ながら、夏休みの想い出を振り返るなんてどうかな?」
「いいですね。芹さんとか、実家で何をしていたか知りたいですし」
僕達の知らない友達の想い出、逆に友達が知らない僕達の想い出。それらを話すだけでも、きっと盛り上がるだろう。夏休み最後の日なのだから、思い切り楽しむつもりだ。
お読みいただき、ありがとうございます。




