第三十話 竜堂くん、幼馴染を送る
竜堂視点です。これで帰省編は終わりですが、夏休みはもう少しだけ続きます。
送り火を焚いてご先祖様を送った日の夜、俺はなずなちゃんの勉強を見ていた。夏休みの宿題? そんなのもう片付いてるよ。
「正解だよ。この分だと二学期はもっと成績伸びるね。俺の通ってる学校はほぼ確実に通ると思う。まあなずなちゃんが受けるのは一年先だけどね」
「それでもいい。一年でもリンにいと通いたいから。それとリンにい、携帯鳴ってる」
「本当だ。こんな遅くに誰からだろう?」
不審に思いながら相手を確認するとアヤからだった。重要な話かもしれないのでなずなちゃんにも聞こえるようにしてから応答した。
『リン、こんばんは。遅くにごめんね』
「構わないよ。何か用事があってかけてきたんだよね?」
『うん。明日の朝、僕とかえちゃんはこっちを発つから、一応知らせておこうかなって』
「そう、君達の出発は何時で、どういう手段なのかな?」
『七時に家を出て、歩いて駅まで行って電車だけど?』
「じゃあ駅までは一緒に行けるね。送ってあげるから俺の家の前を必ず通りなよ。約束だからね!」
『えっ、リン、ちょっと!』
何か言いたそうにしていたアヤを無視し、一方的に通話を終えた。かなり強引だったが、こうでもしないとアヤは見送りもさせてくれないから。
(早起きさせて迷惑かけたくないとか、あいつなら言いそうなんだよね)
隣で聞いていたなずなちゃんもそう考えていたみたいで、僕に対して親指を立てて何度も頷いていた。さてと、アヤ達を送るとなるとそれなりに早起きしないとならない。
「なずなちゃん、勉強はこれで切り上げて早く寝よう」
「わかった。リンにいも早く来て」
そう言って、ノートを閉じ俺のベッドに寝転んだなずなちゃん。待って、俺の部屋で寝るつもりなの?
「だめ?」
「いいけど、片付けと歯磨きしてからだよ」
「わかった。じゃあすぐにしてくるから待ってて」
なずなちゃんは宣言通り勉強道具を自室に持ち帰り、歯磨きを終えパジャマ姿で再び部屋に来たので、俺達はベッドの上で抱き合って眠った。
翌日、身支度を整え家の前でアヤとサクラちゃんを待っていると、俺達に気付いた二人がキャリーバッグを転がしながら駆け寄ってきた。
「ごめん、待ったかな?」
「そこまでじゃないから大丈夫だよ。それよりも、話すなら歩きながらにしようか」
「話してて電車の時間に遅れたら、本末転倒」
「そうですね。早めには出ましたけど、何が起きるかわかりませんからね」
サクラちゃんに同意し、俺達が先導し駅までの道を歩んでいく。荷物を預かろうかと尋ねるも二人は首を横に振った。わざわざ送ってくれているのに、手間をかけさせるのが申し訳ないからだそうだ。別にそのくらいいいのに。
そうして歩くこと二十分、駅まで辿り着いたので手を振って見送ろうと右手をあげようとして、なずなちゃんに掴まれた。えっ、なんで?
「ここからリンにいにサプライズ」
「リン、一足早い誕生日プレゼントだよ」
「えっ、なんでまた?」
「リンの誕生日が九月だから、先に渡しておきたくて。受け取ってくれるかな?」
「ああ、わかったよ」
アヤから渡されたのは数点の木製ルアーだった。針が付いていないため恐らく手作りだろうけど、一つ一つ丁寧に作られていた。
「ふぅん、見た目はいいね。使い勝手はどうかな?」
「さあ? 試しにお風呂で浮かべてみたら、浮いてるものもあれば底まで沈んだのもあった。まあとにかく使ってみてよ」
「わかった。期待しないで使ってみるよ」
一通り使ってみて、釣れなかったら保管しておくし、もし大物が釣れたら同じものを注文しようと思う。プレゼントって認識してると無くしたときにヘコむから。
「あの、わたしからはこれです」
「ウエストポーチか、シンプルにありがたいね。ありがとう、サクラちゃん」
サクラちゃんから受け取ったのは丈夫そうなウエストポーチで、実用性があるものだった。ひとまずそのウエストポーチに、ルアーをしまい込んだ。今度釣りに行くときにでも使わせて貰おうかな?
「大切に使わせてもらうよ。二人ともありがとう」
「いいって。前に来てくれたときのお礼だから。そろそろ行かないとね。リン、なずなちゃん、また冬休みにね」
「カラスさん、また誕生日には連絡しますね。それでは、また冬にです」
「二人ともまたね」
「んっ、今度」
アヤとサクラちゃんが改札を抜け、電車が発車し見えなくなるまで見送って、俺達は駅に背を向け家までの道を歩き始めた。その道中、なずなちゃんがしみじみと語った言葉に、俺は同意した。
「一週間くらいだったけど、昔に戻れたみたいで楽しかった」
「そうだね。まあまたすぐに会えるよ。そのために、今バイトしてるんだからさ」
そう、実は高校生になってから飲食店でバイトを始めたのだ。と言っても平日は週二回と、そこまでシフトを入れてないのだけど夏休みになってからは多少増やしている。おかげでそこそこ稼いでいるが、目標額にはまだ届いていない。
「わかってる。リンにい、ワタシの分の旅費も頑張って稼いで」
「そのつもりだよ。代わりにサクラちゃんへのプレゼントはなずなちゃんに任せたよ」
「ん、だから二人に渡す衣裳を作ってる。すごく似合うと思うから、楽しみにしてて」
「ああ」
二人の喜ぶ顔を想像しながら、俺となずなちゃんは夏空の下を駆けていった。
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