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第二十九話 彩芽くん、墓参りする

 お盆に入って、自宅の庭で迎え火を焚いた。二家族分とはいえ、ちょっとやり過ぎたようで危うく庭が家事になるところだった。迎え火が燃え尽きたあと、六人で集まって明日のお墓参りについて再度確認した。


「お墓参りに行くのはいいんだけど、親族の集まりには参加するの?」

「いいや。来客があるからと断った」

「僕も同じ理由で断ったよ」


 そういうのって、断れるものなの? それ以前にお盆の時期に来客って下手すると常識を疑われるよね?


「何だかんだで実家と折り合い悪いから、今さら平気よ」

「どちらも若い頃の結婚で~、出産も早かったですからね~」

「そういうものなの?」

「それに、樹さんと私は実家からほぼ絶縁されてるから。ほら、あのときのあれこれで」


 そういえば、この数年お盆どころかお正月さえも、両親の実家に行ってなかった。僕の体調のことももちろんあっただろうけど、そっちの理由だったんだね。


「あの、それは寂しいと思います」

「そういうかえちゃんのところだって、引っ越して長いから似たようなものじゃない?」

「そうだね。だから君達が卒業するまでには関係を修復するつもりだよ。樹さん達もそうだよね?」

「ああ。いずれするお前達の結婚式で、参列者が友人と家族だけというのは避けたいからな。とはいえそれは盆が終わってからで、お前達には関係ない」


 父さん達の気遣いはありがたかったけど、その突き放した物言いに、僕は思わず反発した。


「関係ないって、身内のことだよね?」

「身内と言っても、少し離れた親族よ。そのゴタゴタに巻き込まれて、彩芽達の貴重な夏休みを浪費して欲しくないのよ。それにこれは、私達がつけるべきケジメだから」

「ですから~、あなた達がお盆にすることは~、お墓参りだけですよ~」


 親四人にこうまで言われてしまったので、引き下がるしかなかった。ともかく、翌日は墓参りに出かけることになった。でも確かお墓ってそこそこ遠かったよね?


「樹の車なら、六人くらい乗れるだろう?」

「余裕だよ。泊めて貰ってなにも返さないのもどうかと思ってたから、そのくらいはするよ。どうせうちの墓も同じ墓地にあるしさ」

「盆のあとも休みあるなら、実家への挨拶のときもタクシー頼める?」

「いいですよ~。その代わり~、うちの実家への挨拶のときに~、適当な時間に電話してください~」


 そうして、二家族合同での墓参りが行われる運びとなった。なんか別件でも話してたみたいだけど、特に問題はなさそうなので放置した。そして翌日、お墓に供える花を車に積み込み、墓参りのため車で移動した。


「そっちは違う」

「そこは真っ直ぐよ」

「ごめんって」


 一咲義父さんは久しぶりなためか、道を間違えてうちの両親からダメ出しされていた。最終的に辿り着いたので、よしとしたけど。墓地のある場所は住宅地より大分離れた山の斜面にある。途中までは車で上れるくらい広い道で、専用の駐車場も存在している。そこで車を降りて荷物を取り出した。


「ここからは歩きだ。知っていると思うがあの坂を上った先だ」

「もしかしたら苔が生えてて滑るかもしれないから、気をつけて歩くこと」

「わかってるよ。毎年来てるんだから」


 僕達佐藤家の方は問題なさそうだ。恒例行事なので慣れたものだ。問題は桜井家で、お墓の場所にすら不安がある様子だった。


「うちのお墓って、確か樹さんのところの近くだったよね?」

「多分~、少し上だったと思います~」

「はぅぅ、覚えてないです」


 幼かったかえちゃんはともかく、せめて二人は覚えてて欲しかった。坂を上り始めた辺りでどうにか場所を思い出したようだからいいけど。


「かえちゃん、足元気をつけてね。転びそうならしがみついてもいいよ」

「はい。あやくんのお言葉に甘えますね♪」


ときどき苔が生えていて、滑りやすくなっている坂道をかえちゃんと腕を組んで上っていく。傾斜がゆるくなっている辺りに蛇口と大量のヤカンが設置されていたので、一つ拝借し水を溜めておいた。


「重くないですか?」

「大丈夫だよ。それより、一つでいいの?」

「ああ。順番は先に桜井家の墓に行って、次はうちだ。水が余れば道にある地蔵に供えればいい」

「お地蔵さん~、可愛いですよね~」


 坂をさらに上った先にある、桜井家のお墓をまず桜井家と僕の四人で掃除し、次に花と線香を供え水受けに水を差し、最後に手を合わせ一礼した。


(かえちゃんのご先祖様、あなた方のご子孫は元気ですよ。どうか、これからも見守ってください)


 祈りを終え、少し下り次に向かったのはうちのお墓だ。先程と同じようにしたが、こちらは当然うちの家族が主体となり、それにかえちゃんが加わる形で行われた。


(ご先祖様、僕はなんとか元気です。いたらぬ子孫ですが、見守ってくれると嬉しいです)


 祈る内容は変わらなかった。個人的にはお盆は死者を悼むよりも現世に戻ってきたご先祖様への報告の方が大きいと考えているためだ。墓参りを終え、余った水は並んでいる地蔵菩薩に供え、ヤカンを元の場所に返して帰路についた。


「お疲れ様。あとはUターンラッシュの時期を避けて、向こうに戻るだけだね。くれぐれも電車の時刻の確認は忘れないでくれよ。もしも遅れたら大変だからね」


 帰宅したあとで一咲義父さんに労われた。


「送ってはくれないんですか? せめて駅まででもいいので」

「送るのはいいけど彩芽君、烏丸君達に挨拶なしで行くつもりかい?」


 それもそうか。ついでにリンに渡すものもあったんだっけか。とりあえず二人に帰る日を連絡するとしようか。

お読みいただき、ありがとうございます。

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