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第二十八話 楓ちゃん、遊園地を楽しむ

楓視点です。

 お昼ご飯を食べたあと、わたし達はメリーゴーランドで子供達に囲まれながらお馬さんに乗りました。降りたあとで子供達にもみくちゃにされましたけど、楽しかったです。


「子供って元気だよね。あんな小さな体なのにね」

「そうですね。あの、暑くなってきましたね」

「しばらくは屋内で楽しもうか。比較的涼しい時間帯になったら、ちょっと行きたい場所があるんだ」


 屋内で休憩したり、お土産を買っているうちに四時頃になり、あやくんに連れられてやって来たのは、庭園を活かした大きな迷路でした。植物がたくさんあるおかげか、この辺りは空気もよく少しだけ涼しかったです。


「暑いから、少しでも涼しい場所に来たかったんだ。あと涼しくなれそうなのは絶叫系かお化け屋敷だったから。一時間以内に抜けたら記念写真だってさ、頑張ろうか」

「はい」


 あやくんと一緒に庭園の迷路に挑戦しました。どう動いていいかわからないわたしとは対照的に、迷わず先に進んでいくあやくん。あの、ゴールまでの道知ってるんですか?


「そんなの知らないよ。でもなんとなくわかるだけだよ」

「それ、普通は迷いますよね?」

「うん。でももし迷っても助けは来るから、気楽にやればいいんだよ」


 その言葉通り気楽に進めた結果、ギリギリ一時間で抜けられたので写真を撮っていただきました。花の冠がとてもあやくんに似合っていました。


「僕よりかえちゃんの方が似合ってたよ」

「はぅぅ」

「さてと、もうちょっと遊ぼうか」


 涼しくなったためいくつかのアトラクションを楽しんだあと、最後に向かったのは観覧車でした。やっぱり定番ですものね。係員さんに案内され、十五番のゴンドラにわたし達は乗り込み、向かい合わせに座ると、扉が閉められゆっくりとゴンドラが上昇し始めました。


「今日はたくさん歩きましたね」

「そうだね、かえちゃん。お疲れ様」

「お疲れ様です、あやくん。すごく楽しい時間をありがとうございます」

「どういたしまして。家のこと気にせずデートしたのはこれが初めてだったけど、たまにはこういうのもいいよね」

「そうですね」


 密室の中でお互いに労い合います。本来なら帰りの電車か家ですべきことですが、電車の中では寝てしまいそうですし、家では親に見られそうだったので。やがてゴンドラが円周の四分の一を過ぎると、外の景色が一変し、遠くの町が見え始めました。ただ、見えているのはわたしの知らない町でした。


「さすがにここから実家は見えないね」

「意外と遠いですものね。ですけど、たとえ知っている町が見えても、寂しくなるだけだったかもしれません」

「町並みもすっかり変わったからね」


 しんみりしながら、さらにゴンドラは上昇し天辺まで到達すると、日の光にオレンジが混じるようになり、下に見える町並みが夕日に染まっていました。


「ほら、かえちゃん外を見て。綺麗な夕焼けだよ」

「本当ですね。空から見るとこんなに綺麗に染まっているんですね」

「これを毎日見ている鳥の目線が羨ましくなるね。でも、僕達は鳥じゃない。人間だから、こうやって触れ合えるんだ」


 おもむろに立ち上がったあやくんが手を伸ばし、わたしの頬に触れ優しく撫でました。はぅぅ、あやくんとっても素敵です。お返しとして、あやくんの手を両手で包み込み胸元に抱き寄せました。


「これも、人間ですから出来ることですよね?」

「かえちゃん、すごく大胆なことするね」

「えっ!? はぅぅ!!」

「隣、座るよ?」


 自身の行動を指摘され恥ずかしくなったわたしが手を離すと同時に、あやくんがわたしの隣に座りました。残り四分の一を切り、夕焼けの色がさらに濃くなりましたが、わたしもあやくんもそれ以上に赤い顔をしていました。お顔がいつもより近い場所にあるせいでしょう。


(頑張ったらキス、出来るかもしれません)


 そう考えると、視線は自然にあやくんの唇へと向きました。男の子とは思えないほど綺麗な形で柔らかそうな唇。無意識のうちに二人の距離は縮まって――、


「お疲れ様でした」

「はぅぅぅぅ!!」

「うひゃぁぁっ!!」


 ちょうどゴンドラが地上に着いて、係員さんに声をかけられたことにより、わたしとあやくんは弾かれたように一気に離れました。


「どうされましたか?」

「いえ、ありがとうございます。かえちゃん、ほら出るよ」

「はい......」


 夕暮れの観覧車というロマンチックなシチュエーションに背中を押され、あと少しでキス出来そうでした。ですけど、その後は帰りの電車でも家に帰っても、唇どころか頬へのキスすら恥ずかしくなって出来なくなりました。


 蛇足ですけど、この顛末をお母さんに話したところ、何故か乗ったゴンドラの番号を確認されました。


「楓ちゃん~、そのとき乗ったゴンドラは何番でしたか~?」

「えっと、確か十何番だったと思いますけど、そうです、十五番でした!」


 記憶を掘り返しどうにか思い出した数字を出すと、お母さんはすごく驚いた顔をした後、ホッとして優しくわたしに語りかけました。


「それは~、焦らなくてよかったですね~。あそこの観覧車の十五番目のゴンドラでキスしたカップルは~、近いうちに別れるというジンクスがあるんです~」

「ええっ!!」

「昔から~、私が学生の頃から言われてたんです~」


 お母さんから告げられた話は、衝撃的な内容でした。ということはあのままキスしていたら......はぅぅ、しなくてよかったです。


(今回だけは、勇気が出せなかったわたし自身を褒めてあげたいです)


 ちなみになずなちゃんにも確認したところ、今でもその話は伝わっているそうで、実際にそこでキスして別れたカップルも多いとのことです。

お読みいただき、ありがとうございます。ちなみに都市伝説は適当に思い付きました。別れるジンクスも、個人的にはあり得ると思います。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 紅葉さん、ジンクス、先に教えておこうよ~w もしキスしちゃってたら… まあ、多分気絶するから大丈夫だとは思うけど(^o^)
[一言] も、もう少しでっ…!惜しい…と思いましたが、ジンクスの話で、これでよかったのね…と、ホッとしました…。 ある意味、さすが2人だ、と思いました。ラブ回避!
2020/12/02 09:39 退会済み
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