第二十七話 彩芽くん、遊園地に行く
なずなちゃんに採寸された翌日、僕とかえちゃんは朝から丸一日デートすることになった。実は前からしてみたいとは思っていたけど、これまではどうしても家事があったため出来なかった。
「それここれも、紅葉義母さんが家事を引き受けてくれたおかげだね」
「そうですね」
家から出発してまずは駅まで向かい、それから電車に乗った。目的地は二駅先にある遊園地だ。その遊園地はそれなりの規模を誇り地元カップルの間では定番のデートコースになっているそうだ。何故伝聞系かというと、僕はほとんど来たことないから。
「遊園地って何年ぶりだろう? 下手したら小学生以来かも」
「あやくん、中学校の修学旅行で行きませんでした?」
「うん。そもそも中学では修学旅行に行ってないし」
「あっ......」
入院したのは三年のときだけど、その前から体調を崩していたので参加を見送ったのだ。もっとも、たとえ参加したとしてもリンともクラス違ったからボッチ確定だったから、楽しめなかったと思うけど。
「だから今日は思いっきり楽しみたいんだ。かえちゃんも楽しもう?」
「はい♪」
デート開始早々、重苦しくなった空気を払拭して電車を降り、手を繋いで遊園地の受付を済ませ入園した。入園料の支払いの際、かえちゃんが子供と勘違いされたけど。
「はぅぅ、何とか大人料金で入れて貰えました」
「律儀というか真面目というか、不器用だよね」
ここで節約のためと言って自身の容姿を有効活用しないのが、かえちゃんらしいのだけど。ともかく、敷地内に入ったのだから細かいことは置いといて遊ぼうか。
「よし、まずどのアトラクションから行く? デートの定番ならジェットコースターだけど」
「でしたら、それにしましょう。お化け屋敷の次に苦手ですけど、最初の一度くらいは乗っておこうかなと」
「わかったよ。でもそれならちょっと調べとかないとね」
かえちゃんが身長制限に引っかかっているものを除外しておかないと、順番が来ても僕一人だけで乗ることになりかねない。リン達や心節達と遊ぶときならまだ笑い話になるけど、二人きりのデートでは洒落で済まない。しかし、手元にあるパンフレットには身長制限までは記載されていなかった。
(パンフレットに書いてないなら、スタッフさんに聞くのが一番だよね)
そうしてスタッフに聞き込みんだ結果薦められたのは、身長制限ギリギリのループコースターと、制限がほとんどない子供用コースターだった。安全面を考慮すると子供用がいいと考えたが、あまり過保護なのもどうかと思ったので、本人に判断を委ねた。
「どっちにする?」
「そうですね、現地で見てから決めようと思います。案外ギリギリの方もそこまで怖くないかもしれませんし」
「かえちゃんがそう言うなら、近いループコースターから見に行こうか」
慎重なかえちゃんらしい決断に従い、まずはループコースターが見える場所まで行ってみた。
「あれがそうみたいだけど......うわぁ、見なきゃよかった」
「はぅぅ!?」
高さ二十メートルを超すループの頂点でコースターが逆さになったまま一時停止している様を見て、僕はドン引きしかえちゃんは固まっていた。このループコースターは人気らしく、一時間待ちと電光掲示板に表示されている。
(僕はあんまり乗りたくないって思うけど、かえちゃんはどうだろう?)
目線で乗るかどうか尋ねると、かえちゃんは小刻みに震えだし青ざめた顔で全力で首を振った。怖がっているのがハッキリ見て取れたので、その場を離れ子供用のコースターの行列に並び、三十分程待った後で乗ることになった。
「はぅぅぅぅ!!」
「ひゃぁっ!!」
子供用とはいえ絶叫マシンのため自然と悲鳴が出た。降りたあと僕はなんとか大丈夫だったけどかえちゃんは少し疲れた様子だったので、近くのベンチに座り膝枕してあげた。
「また動けるようになったら次に行こうか」
「はぅぅ、すみません」
膝枕しながら、僕はプランの見直しを迫られていた。かえちゃんはもちろん、僕自身もここまで苦手だとは思わなかったからだ。絶叫系は全滅、お化け屋敷は完全アウトとなると、遊べるアトラクションが大分狭まってくる。
(さて、どうしようかな?)
パンフレットを眺め探していると、ティーカップというアトラクションを見つけた。自分達で速度を調整できるこれなら、そうそう大惨事にはならないだろう。復帰したかえちゃんを誘い、大きなティーカップに二人して座り、中央のハンドルをゆっくりと回した。
「回り始めましたね。なんだか紅茶に入れられた砂糖になった気分です」
「もしくはコーヒーに入ったシロップだね。どちらにせよ僕達にはお似合いだと思うけど。何せ――」
「二人合わさると、メイプルシロップですからね」
「それ僕が言おうと思ったのに」
「たまにはいいじゃないですか。あやくんはいつもわたしの言いたいことを言ってくださいますから」
そんなどうでもいいことで盛り上がりながら、僕達のカップはのんびりと回っていた。周囲のカップが激しく回っているのとは対照的で、外から見ると僕達だけ浮いているように映っただろう。それでも、僕達にとってはこれが楽しいので、特に気にならなかった。
「こういうのも楽しいですね」
「そうだね。お昼には少し早いけど、今のうちに行っておこうよ」
カップから出た僕達は、早めの昼食を取るため近くのレストランに入店した。食べ終わる頃には店の前に行列が出来ていたので、この選択は正しかった。今度はどこに行こうかな?
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