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第二十六話 なずなちゃん、採寸する

なずな視点です。

 八月十日。ワタシはアヤにいの家を訪れていた。アヤにい達と遊ぶためだ。インターホンを押して出迎えたのはカエデちゃんのお母さん、モミジさんだった。相変わらずカエデちゃんのお姉さんにしか見えない、可愛い人だった。多分制服着ても普通に似合う。


「モミジさん、久し振り」

「あらあら~、なずなちゃんですね~。すっかり大きくなりましたね~」


 会って早々、抱きしめられた。カエデちゃんとは少し違うけど、いい匂いがする。抱きしめられたまま、ワタシは尋ねた。


「モミジさん、どうしてアヤにいの家にいるの?」

「婚約の挨拶ですよ~。それと~、数日後にお墓参りを~。これまで来られませんでしたから~」

「なるほど。カエデちゃんいる?」


 気持ちいいからずっとこのままでもいいとも思ったけど、目的を忘れたらいけない。


「楓ちゃんでしたら彩芽君といますよ~。どうしますか~?」

「なら両方呼んで欲しい」

「わかりました~」


 ワタシを解放し、モミジさんはアヤにいとカエデちゃんを呼びに奥へと歩いていった。待つこと数分、先にやって来たのはアヤにいだった。カエデちゃんは?


「着替えてから来るよ。ほら、かえちゃんって部屋着で外に出られない子だから」

「なら待つ......用事があって訪ねて来たワタシが聞くのもなんだけど、二人ともデートしないの?」

「暑いからね。家の中が一番だよ。そういうなずなちゃんもリンと出かけてないよね?」

「昨日は海でデートした。今日は別行動でリンにいは釣りに出かけてる」


 魚は見るのも食べるのも好きだけど、釣りをしようとは思わない。だから、リンにいが釣りに出ているときはワタシは裁縫をしている。


「そっか。リンはいないのか。じゃあなんで僕も呼んだの?」

「例の衣裳を作るための採寸。でもアヤにいは早く終わるはず」

「まあ男だからね。それなら終わったら家に戻って木彫りでもしてるよ。かえちゃんの採寸が終わったら連絡して」

「それでいい」


 下手に残られると、採寸を覗かれる懸念もある。もっとも、アヤにいは紳士だからそういうことしないはず。リンにいはたまにやらかすけど。ワタシ以外にはしれないからいいけど。


「お、お待たせしました」

「ん、じゃあうちまで来て」


 アヤにいとカエデちゃんを引き連れ家に戻ったワタシは、まず麦茶を用意して二人に振る舞った。暑いから水分補給は大事。次にアヤにいを部屋に通すと同時に、カエデちゃんの前に数冊のアルバムを置いた。


「あの、これらのアルバムって、もしかして」

「カエデちゃんがいたときから、小学校卒業までのアルバム。アヤにいも映ってるから、待ってる間見てて」


 それなりの暇潰しにはなるだろう。カエデちゃんが最初のページを開いたことを確認して自室へと移った。そこではアヤにいが所在なさげにしていた。


「人の家、しかも女の子の部屋に一人でいたら誰でもこうなるって。それで、採寸っていうからには脱いだ方がいいのかな?」

「出来れば。特にウエストは」


 アヤにいの場合男の子のはずなのに女物の服が着られるので、そこを疎かにすると動いたときに脱げかねない。そう伝えると渋々だったけど上を脱いでくれた。


「思った以上に細い。これは女子にも羨ましがられる」

「全然嬉しくないから。もう測り終えたから着てもいいよね?」

「いい。あとは立ったままじっとしてて」


 メジャーで全身を計測し、その都度出た数字をメモしていく。渡す時期は先になるので、特に身長が伸びたときは手直ししないといけないから教えて欲しい。


「数年間伸びてないよ」

「それでも定期的に測って」


 アヤにいに作る服は特に体型に変動があると厳しいから。でも何を作るかは秘密。教えたらカエデちゃんに作る服もバレるから。


「釈然としないけど、一ヶ月おきでいいの?」

「毎月二十五日に測って。とりあえずアヤにいは終わりだから」

「わかったよ。かえちゃんを呼んでくればいいかな?」

「アルバム見てるから、キリのいいところまでは見させたい。それまで待つ」


 一度部屋を出て、カエデちゃんのいるリビングに向かう。カエデちゃんは羨ましそうとも、寂しそうとも見える表情でアルバムのページをめくっていた。あっ、今ちょっと楽しそうにしてた。今見ているのは小学校高学年のアルバムのようだった。


「なずなちゃん、かえちゃんが今見てるのっていつのやつ?」

「小学校高学年のときのアルバム。多分修学旅行でアヤにいがリンにいに抱き付いて寝てた写真が入ってたはず」

「なんでよりにもよってそれを残してるのかな?」

「だって、ワタシも学年違うから行けなかったから」


 修学旅行でリンにいとアヤにいの映ってる写真全部買って貰って、気分だけでも味わいたいって考えたから。今見ているカエデちゃんも、気分は味わえてると思う。


「そう言われると否定できないんだけど。かえちゃんも楽しんでるっぽいし」

「採寸の時間でほぼ全部見たみたい。やっぱりアルバムは一人で見ると早く終わる」

「ああいうのは想い出と一緒に見るから楽しいんだよ」


 アヤにいの言葉に同意する。今度見せるときは、一つ一つ解説しながらしようと思った。


「まあ、これからたくさんかえちゃんと想い出作っていくけどね」

「それならいい。読み終わったからカエデちゃんに声かける」


 その後、カエデちゃんの採寸に移り、それ自体は滞りなく終わったのだけど、アルバムの写真のうちいくつかをカエデちゃんが欲しがったので、保管していた写真を提供した。ほとんどアヤにいの写真だったけど、ワタシやリンにいのもあったので嬉しかった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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