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第二十五話 彩芽くん、家族と話をする

少し重い話になります。彩芽と両親は仲が良いにも関わらず、何故入院するまでいじめに気付かなかったのか、これで説明になればいいですけど。

 一咲義父さんと紅葉義母さんの二人を迎え、いつもよりも賑やかな夕食となった。


「美味しいですね~。相変わらず撫子さんは料理上手ですね~」

「残念ながら、これ作ったの私じゃないわよ? ほとんど彩芽と楓ちゃんが用意したのよ」

「そうなんだ。ちゃんと頑張ってるみたいで安心したよ」

「一咲、来るならもっと早く連絡しろ。たまたま彩芽と楓さんが家にいたから対応できたが、いなければ家に入れなかった可能性すらあったぞ?」

「「はい、反省してます」」


 父さんに苦言を呈され、一咲義父さんと紅葉義母さんはしょんぼりしていた。特に紅葉義母さんの顔が、落ち込んだときのかえちゃんとよく似ていたので、見てていたたまれなくなった。


「まあまあ父さん。そのくらいにしてあげてよ。父さん達だって、二人がこっちに来るってわかってて、僕達にどうすればいいか伝えてなかったんだし」

「「すまん(ごめんなさい)!」」

「おかげで空き部屋のあれ、見ちゃったんだからね」

「「本当にすまん(ごめんなさい)!!」」


 薄暗い部屋の、シーツも敷いていないベッドで医療用のマネキンが横たわっている光景は普通に怖い。さらに人体模型や骨格標本が並べられ、壁に解剖図が貼ってあった。


(うぅ、すぐ出たはずなのに脳裏に焼き付いちゃったよ)


 ホラーが苦手な僕なので、多分今夜は悪夢にうなされるだろう。かえちゃんを抱き枕にしたら相殺されると思うので、安眠のため何とか説得するつもりだ。ぼかした物言いになったためか、かえちゃんが質問してきた。


「あの、あれってなんですか?」

「かえちゃんは知らなくていいの。一咲義父さんと紅葉義母さんも、空き部屋のドアは開けないでね。特に夜は」

「ああ、わかったよ」


 念押ししておかないと、二次被害が起きるかもしれないからね。そんなこんなで食事が終わり、一咲義父さんが鞄から書類を取り出し、父さんに見せていた。


「さて、樹さん。うちの娘とあなたのところの息子さんの、婚約の件で少し話そうか。公的な書類ではないけど、契約書作ったから」

「ああ。あとで読ませて貰う。問題なければ撫子と紅葉にも確認させて、最終的に彩芽と楓さんに署名と捺印して貰うぞ」

「そうですね~。それと~、婚姻届の書き方も教えましょう~」

「まだ早いわよ。その前に彩芽の親として、楓ちゃんに言わないといけないことがあるから」

「......そうだな。彩芽も聞いてくれ」


 なんだか大事になりつつある親同士の会話から、急に矛先がこちらへと向いた。父さんも母さんも真剣な顔をしていて、真面目な内容であることが伺えた。僕とかえちゃんは居住まいを正して、両親に向き直った。


「楓さん、この数日間俺達と彩芽の関係を見てて、どう思ったか率直に話して欲しい」

「そうですね。うちと同じですごく仲のいい親子だと思いました。同年代の親子は必要最低限の会話しなかったり、喧嘩もあるって聞きますけど、あやくんのお家はそういうこともなかったので安心しました」


 いきなりの父さんからの問いかけに、かえちゃんはさして悩む様子もなく答えていた。うん、かえちゃんの印象は間違いないよ。でもさ、これは一度崩壊して、再度作り直したからこうなってるんだよ。


「そう評価してくれて嬉しいわ、楓ちゃん。でもね、だとしたらどうして彩芽がいじめられて、体を壊して入院するまで私達が気付かなかったと思う?」

「えっ、それは......」

「結論から話すと、その時期は両親がすごく忙しくて、僕も迷惑かけられないって考えて隠し通してたからなんだ」


 数年前、両親の勤めている病院で発生した疑惑が世間を騒がせたことがあった。もっとも、その疑惑はゲスの勘ぐりだったんだけど。病院の関係者は通常の業務に加え、マスコミの執拗な追及に晒されていた。もちろん、僕の両親も例外ではなかった。というか、僕がいじめられてた理由に、この件も含まれていたのではと今改めて思った。


「彩芽がいじめられていた頃、俺達は家に帰って寝て、すぐに仕事と家庭を省みることが出来なかった。俺達の勤務している病院に、患者として運び込まれたことで、ようやく気付いたんだ」

「情けないわよね。イメージの低下した病院の信頼回復に奔走して、ようやく軌道に乗って休めると思った矢先のことだったのよ」


 僕の治療が終わってからは、家族の時間を取り戻すように両親は休職した。事情が事情なので病院側からもあっさり認められた。


「それから、俺達は彩芽のやりたいようにさせることにしたんだ。彩芽のした復讐も、当然俺達に抗議が来たがすべて受け止めた」

「それがせめてもの罪滅ぼしだったのよ。遠くの学校を受験することに反対しなかったのもそう。さすがに一人暮らしは止めたけど」

「そういうわけで、僕達の話はこれで終わり。重い話だけど、どうしてもかえちゃん達に聞いて貰いたかったんだ。家族になるのだから」


 三人は僕達の家庭崩壊からの再生までのダイジェストを聞いて、しばらく沈黙していた。やがて一咲義父さんが顔を上げ、同病相哀れむというような視線を向けてきた。


「気にしないでほしい。僕達だって、そういう失敗談はあるからさ。家族になるために樹さん達が話したのなら、僕達も話すから聞いて欲しい。そちらほど重くはないけど」

「重くなくてもいいから話せ」

「わかったよ。僕達の場合は、ここから引っ越した直後の話になる」


 そう前置きして、一咲義父さんは語り始めた。確か、かえちゃん達の引っ越しの理由は仕事のためだったよね?


「そうです。その、お恥ずかしい話ですけど、当時のわたしは幼くて、あやくんと再会を約束したにも関わらず、別れたあとは泣いてばかりでして」

「それは僕もだから、悪いとは言えないよ。子供だったんだって」

「あやくんもだったんですか?」

「うん」


 格好良く再会を誓ってはいたけれど、離れたあとは大泣きしてたよ。リンとなずなちゃんのおかげで、早くに立ち直れたけど。


「わたしの場合、お母さんが支えてくれたんですけど」

「あの頃はお仕事が~、たくさん舞い込んでいまして~、あまり構ってあげられなかったんです~」

「僕の場合は、そもそも栄転だったから」


 つまり、いじめられてた時期の僕と同じ孤独な状況を、かえちゃんは僕よりもずっと子供のときに味わっていたんだね。


「それは、とても辛いね」

「それで楓ちゃんは塞ぎ込んでて、ただでさえ弱い体がさらに弱って」

「私の仕事が落ち着いてからは~、何とかよくなりましたけど~、それでもたまに元気がないことがありまして~、そんなとき彩芽君から~、お手紙が届いたんです~」


 そうだ、立ち直ったあと僕はかえちゃんが寂しい想いをしてるんじゃないかって考えて、手紙出したんだった。返事もちゃんと来て、元気そうだって安心したんだ。


「あやくん、お手紙嬉しかったですよ。ですけど、いつからか届かなくなって」

「いろいろあったからね。ごめんね、かえちゃん」

「いえ......」

「僕達の失敗談は以上だよ。だから僕達は彩芽君に楓ちゃんを任せたんだ」

「彩芽君が傍にいれば~、楓ちゃんは元気になりますから~」


 ニコニコと、優しく微笑む一咲義父さんと紅葉義母さん。うん、大丈夫ですよ。


「任されました。それともう一つここに誓います。いずれかえちゃんとの間に出来る子供に、寂しい想いをさせないと」

「はぅぅ!!」

「ですから見守って――かえちゃん!?」


 僕との子供という言葉に過剰反応したかえちゃんが、羞恥の限界に達し気絶したことで、真面目な話は終わりを告げた。まあ、僕の言いたいことは四人とも察してくれたからよかったけどさ。

お読みいただき、ありがとうございます。

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