第二十四話 彩芽くん、義理の両親を迎える
お祭りの日の翌日は筋肉痛に悩まされていたけど、昼頃になると大分痛みも引いてきた。とはいえ今日も暑いし日差しも強いので外出する気になれないため、かえちゃんと自室でダレていた。
「今日も最高気温更新だってさ。外に出たら体壊しそうだよ」
「そうですね。日傘が必須です」
「あ、かえちゃんってやっぱり肌弱いんだ」
「対策しないと火傷したみたいになるんです。二、三日したら治りますけど」
「僕も日焼け止め使わないと大変なことになるから、気持ちすごくわかる」
冬は冬で寒さも堪えるし風邪を引くけど、夏場の日差しと暑さよりはマシに思える。冷房の効いた部屋でのんびりしていると、かえちゃんの携帯にメッセージが届いた。
「メッセージ来てるよ?」
「はい。あれっ、お母さんからです」
「紅葉義母さん? とりあえず一緒に読もうか」
メッセージを送ってきたのは紅葉義母さんだった。連絡してくるときは、大抵一咲義父さんが送ってくるので珍しいと感じた。しかし、内容を読んだことで何故紅葉義母さんが送ってきたかを悟った。内容を要約すると、今日の夕方こちらに到着するので、父さんと母さんにそう伝えて欲しいとのことだった。
「って、今日の夕方!? あと四時間くらいじゃない!!」
「あの、どうしましょう?」
「とにかく、僕は父さんと母さんに連絡するから、かえちゃんは冷蔵庫の中身確かめて来て!」
「はい!」
生憎父さんも母さんも仕事で夕方まで帰ってこない。つまり一咲義父さんと紅葉義母さんの部屋と食事を、僕達だけで用意しなければならない。
(なんであの人達は来る直前になって連絡してくるかな?)
心の中で義理の両親に文句を言いつつ、実の両親に電話するも出なかったため、ひとまずメッセージを送って用件を伝えておいた。冷蔵庫の中身を確認しに行ったかえちゃんが戻ってきて、余裕があるということなので、食事の件は問題ない。
(職業柄、母さんが買いだめするタイプでよかった)
僕はホッと胸を撫で下ろした。もし食材に余裕がなければ、炎天下の中買いに行かなければならないからである。そうなると、次に考えないとならないのは二人が住む部屋だ。
(物置になってる部屋、片付けようか)
事後承諾となるが二人の寝る場所を確保するため、僕は空き部屋の戸を開いた。そこはたくさんのもので溢れかえっていた。
(うわぁ、これは駄目っぽいね。医療用のマネキンとかAEDとかいろいろありすぎて片付けられない)
片付いていないわけじゃなくて、むしろ整頓はされている。だからこそ下手に動かせない。そして、置いてあるものをすべて片付けたとしてもこの部屋には泊まりたくない。真夜中の病院に似た雰囲気を感じるからだ。
(さて、どうしようかな?)
この部屋は宿泊には使えない。だがそうなると一咲義父さんと紅葉義母さんの泊まる部屋がない。八方ふさがりとなり悩んでいると、父さんからメッセージが届いた。
『一咲達も急だな。あいつららしいといえばそうだが。食事の方は俺はわからんが一咲は俺の部屋に、紅葉は撫子の部屋に泊めさせるつもりだ。それと空き部屋を掃除しようと考えているならやめておけ。マネキンの置き場がないからな』
なるほど、つまり僕のしようとしてることは徒労と。まあ別にそれはいい。多分メッセージが先に来てても確かめようとしてたはずだから。あと、マネキンの件は納得。昼見ても軽くホラーなのに、もし夜中見たら悪夢にうなされそうだ。
(かえちゃんには見せられないね)
空き部屋を出て、しっかりとドアを閉めたあとで母さんからもメッセージが来た。ほとんど父さんと同じ内容だったけど、夕飯の下準備をしてくれると助かると添えられていた。
「そういうことでしたら、一緒に頑張りましょう」
「わかったよ。何をすればいいのかな?」
「指定されたメニューですと、今のところはお米を炊き直すくらいですね。炊き込みご飯を作ります」
「そういうことなら研ぐのは任せてよ」
ここにいた頃は米研ぎも満足に出来なかったけど、かえちゃんとの生活でそのくらいは慣れたものだ。
「でしたらわたしは具材を用意して、味付けもしますね」
「任せたよ。僕がすると薄いか濃いの二択になるから」
目分量って難しい。悩んでも仕方ないので測ったお米をボウルに移し研いでいく。うっかりそのまま炊いてしまったことがあるので、念入りにしておく。本当はやり過ぎはよくないらしいけど、出来てないよりマシだ。研いだ米を炊飯器に移し、かえちゃんが具材と醤油を入れ、炊飯ボタンを押した。
「これで、しばらくは大丈夫ですね」
「だったら時間になるまで仮眠取ろうか。なんかどっと疲れたから」
「そうですね」
部屋に戻り、かえちゃんと少しの間眠ることにした。起きてからはかえちゃんと夕飯の準備のため、オーブンを使ったり野菜を切ったりした。先にうちの両親が戻ったため、母さんにバトンタッチして父さんと共に僕達は一咲義父さんと紅葉義母さんの到着を待つ。
「夕飯出来たわよ。あと、近くで車のエンジン音がしてたからもう来るはず」
「やあ、撫子さん久し振り」
「撫子さん~、お久しぶりです~。樹さんも~、彩芽君も楓ちゃんもです~」
母さんの料理が完成したとほとんど同時に、玄関から一咲義父さんと紅葉義母さんが入ってきた。九年ぶりに両家そろい踏みとなった。
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