第二十三話 楓ちゃん、お祭りを楽しむ
楓視点です。
お顔の火照りをかき氷でどうにか冷ましたわたし達は、今度は二人でお祭りを巡ることになりました。食べ物は食べましたので、次は遊べる出店に行きましょう。
「遊べるというと、金魚すくいとかひよこ釣りとか?」
「生き物はちょっと、連れて帰れませんから」
「わかってるよ。言ってみただけだから。定番のヨーヨー釣りに射的、型抜き辺りだよね? どれかしてみたいのあるかな?」
あやくんが例として挙げたものは一通りしてみたいと思っていたので、わたしは全部したいと答えました。不器用なので多分失敗すると思いますけど、楽しむことが大事ですものね。
「ならまずは、一番近くにあるヨーヨー釣りからだね。あんまりあっても邪魔だから、一つ取れるまでにしよう」
「はい。ですけど、すぐに終わりませんか?」
「やってみるとわかるけどそうでもないよ」
あやくんの発言通り、わたしは二回連続でヨーヨー釣りに失敗しました。最後の三度目も、惜しいところで落としてしまいました。はぅぅ。
「かえちゃん、ちょっと見てて」
あやくんは二回連続でヨーヨーを釣り上げていました。あの、見ていてもどうやっているかわからないんですけど。
「コツは一瞬で引き上げることだよ。金魚すくいと一緒だよ」
「わたし、金魚すくいも苦手なんですけど」
あやくんのお家では、昔取った金魚が長い間元気にしていたらしいですが、引っ越す直前に酸素が止まり全滅したそうです。そういえばあのアパート、よく停電していましたね。
「うん。だからゲームってあんまりやらなかったんだ。いい機会だから今度買ってみんなで楽しむのもいいかもね」
「そうですね。そのときはわたしが教えますね」
二人暮らしになる前は、お父さんとゲームをしていたこともありますので、珍しくあやくんに教えられそうです。次に訪れた型抜きの出店では、お店の立て看板に手書きで佐藤彩芽お断りと書かれてありました。あやくん、なにかしたのですか?
「小学六年の時に型抜きを全部成功させただけだよ。景品は受け取らなかったけど次から来るなって言われたよ。だから、今回はかえちゃんだけで頑張ってね」
「その、お店の人からすごく警戒されてます」
「アドバイスした人も全部成功させたからね。あの、別になにもしませんから、自由にさせてあげてくださいね」
あやくんがニコリと微笑むと、お店の人からの警戒が解かれました。これで自由に出来ます。
「では、始めますね」
結果は中程で割れるという、それなりのものに終わりました。わたしとしてはよく出来た方だと思うのですけど。
「わかってるよ。とりあえずかえちゃんは来年からもやっていいみたいだから、また今度頑張ってみよう」
「はい。では次に行きましょう」
射的のお店では、ぬいぐるみを狙った結果、一発で当たりました。あやくんは何故かよくわからないトーテムポールに当てて、目を細めていましたけど。久し振りにはしゃいだためか、少し息が切れてきました。
「かえちゃん、次はどこ行こうか?」
「その、近くのベンチでじっとしているのはだめですか?」
「それでもいいけど、もしかして疲れたのかな?」
「はい......体力なくてすみません」
「いいよ。無理して倒れられるより、そうやって意思表示してくれた方が助かるから。なんならリン達を置いて家に帰ろうか?」
先に帰るかとあやくんに聞かれましたが、ふるふると首を横に振り否定しました。お祭りの終わりに上がる花火を、二人で見たいですから。そうお伝えすると、あやくんはわたしの前で屈みました。
「あの......」
「乗って。おんぶして花火がよく見える場所まで運んであげるから」
「すみません......」
「いいって。その代わり、花火が始まってから終わるまでずっと僕の背中に乗ってて欲しい。駄目かな?」
「あの、それだとあやくんが辛くないですか?」
「そのくらいは男の意地でどうにかするよ。それより早く乗って。早く着いたらその分開始まで僕も休めるからさ」
お言葉に甘えて、あやくんの背中に乗りました。神社の方に向かっているようです。石段の前で一度あやくんの背中から下りて、境内に足を踏み入れると、もうすでに何人か花火を見に集まっていました。なるべく人が少ない場所を探し、そこで花火を見ることにしました。
「リン達も多分上がってくるはず。終わったら合流して帰ろう」
「そうですね」
しばらく二人で休んでいると、花火が上がる音が聞こえたため、あやくんの背中に乗りました。辺りの灯りが消され、漆黒の闇の中で轟音が響く度にあやくんに強くしがみつきます。ですが、目は決して閉じません。
「かえちゃん、花火見てる?」
「はい。想像以上に音が近くて驚いてるだけで、すごく綺麗ですよね。今のは真っ直ぐ上がったから、特に綺麗でした」
「うん。しっかり見てて安心したよ」
今、わたしはあやくんとほとんど同じ目線で、あやくんの限りなく近くで花火を見ています。そう考えると一瞬でも目を閉じるのがもったいなく感じるのです。
(あやくんの鼓動が高鳴るのを感じます。どきどきしているのは花火を見ているからですか? それともわたしが抱き付いているからですか?)
聞けば教えてくれるでしょうけど、聞くのはヤボなのかもしれません。あやくんがどきどきしている事実、それだけで充分なのですから。花火が終わるまでの間、ずっと動かずに空を眺めていました。それはまるで、わたしとあやくんが一つになったかのようでした。
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