第二十二話 彩芽くん、お祭りを回る
念のため、お祭り中は彩芽は女物の浴衣を着ています。
四人で連れ立ってお祭りが行われている神社を訪れると、石畳の通りの両サイドに出店が立ち並んでいて、それが石段から神社前の公園の中まで続いていた。
「そういえばなんか懐かしい気がするけど、この四人でお祭りに参加するのって何年ぶりだっけ?」
「多分九年じゃないかな? サクラちゃんが離れたのって幼稚園卒業とほぼ同時だったし」
「確かそうでしたね。それからはずっと三人ですか?」
「ワタシが小学五年生だった年までは三人一緒。でも次の年はアヤにいは行かなかった」
「行かなかったというよりは、行きたくなかったんだよ」
ああ、確か中学二年生辺りからいじめが酷くなって、リンとあんまり関わらなくなったんだったね。お祭りに行かなかったのも、そこでたかられるのが嫌だったから。
「それで、その次の年はそれどころじゃなかったから、一緒に来るのは三年ぶりだね。どうりで懐かしいはずだよ」
「その、何って言えばいいでしょうか?」
「気にしなくていいよ。終わったことだしさ。さあ、湿っぽい話はこのくらいにして楽しもうか。このまま四人で回る? それともペアに分かれる?」
僕としてはみんなで一通り回ってから、あとで二人ずつに分かれて花火を見るという感じにしたいけど、他のみんなの意見も聞きたい。僕の問いかけに、かえちゃん達は少し悩んで、三人同時に発言した。
「「「最初は四人で回って、あとからペアに分かれましょう(分かれよう)(分かれる)」」」
「意見も一致してることだし、そうしようか。かえちゃん、手を出して」
「はい」
人が多いのではぐれないようにかえちゃんとしっかり手を繋ぎ、石畳の上を歩みながら、どの出店に寄るか四人で相談した。
「まずは神社近くの食べ物系から見ていこうよ。そのあとで公園の遊戯系の出店に行く感じで」
「賛成。公園には休めそうな場所もゴミ捨てる場所もあるし、食べ終わって手ぶらになってから遊ぶ方がいい」
「確かに、食べ物持ちながら型抜きとか射的はしたくないね。サクラちゃんはどうかな?」
「わたしもみなさんと同じ意見です」
誰一人遊びを優先させる人がいなかったので、腹ごしらえから始めることになった。そもそも夕ご飯食べてないから当然といえばそうなんだけど。
「そうと決まれば、なにを食べようかな? 夕食代わりだからいろいろ買って食べ比べするのもいいかも」
「サクラちゃん、実はアヤって意外と食が細いから、調子に乗って出店のもの買いすぎてよく苦しんでたんだよ」
「そういうリンだって、射的で外しまくってお小遣い空にしたことあったよね?」
リンが僕の恥ずかしい話をかえちゃんに暴露したので、仕返しにリンの自爆エピソードをぶちまけた。まあこれはなずなちゃんも知ってるからリンにダメージはそんなにない。
「あのときは子供だったんだよ。そもそも、俺はアヤが食べ過ぎないように、サクラちゃんに気を配って欲しいって忠告するつもりで話したんだけど?」
「なんだそういう意味だったんだ。忠告ありがとう。でも、リンも無駄遣いは控えてね」
「わかってるよ。ほら、まずは定番のたこ焼きからだよ」
屋台を巡りたこ焼きに焼きそば、さらにアメリカンドッグにかき氷などを買って、公園の中に一休み出来そうなベンチを見つけたので四人で座りながら食べた。もちろん、僕の隣はかえちゃんで、リンの隣はなずなちゃんだ。食べている途中で、急にかえちゃんに食べさせたい衝動に駆られたので、心の赴くままに実行した。
「かえちゃん、あーん」
「はぅぅ、恥ずかしいです......」
「恥ずかしいのはわかるけどせっかくのお祭りだし、もうちょっと頑張ってみよう?」
「はい......あーん」
恥ずかしがりながらも、雛鳥のように開けられたかえちゃんの口に、ふーふーして冷ましたたこ焼きを入れ食べさせてあげた。やっぱりこれ、クセになりそうだね。
「サクラちゃんってそのくらいで恥ずかしがるんだ。初々しいね」
「ん、二人とも可愛い」
「あのさ、二人ともそう言う割には別々に焼きそば食べてるじゃない。食べさせ合いとかしないの?」
「焼きそばじゃ難しいよ。こっちなら出来るけど」
そう言ったリンは、右手に持ったアメリカンドッグをなずなちゃんと二人で食べ始めた。吐息がかかりそうなほど顔が近く、さらに食べながら何度もキスする二人の姿を目の当たりにして、僕にはとても真似できないと感じた。僕達の視線に気付いているはずなのに照れもしていないことにも驚いた。
「どうせならこのくらいしないと」
「食べるのに時間かかるのが難点」
「なんで二人とも平然としてるんだよ......見てるこっちが恥ずかしいよ」
「はぅぅ///」
リン達みたいに気軽にかえちゃんとキスが出来るのは、いつになるだろうか? 少なくとも今年は無理だと思う。ファーストキスもまだだし。
「いやさ、このくらいしないとなずなちゃんをナンパしてくるやつがいるから。俺のものだって見せつけてるんだ」
「リンにいはワタシのもの」
「二人とも独占欲強いね......なんかどきどきして落ち着かない」
「あやくん、かき氷食べましょう」
二人のキスを見て火照った顔と頭を冷やすため、かき氷を急いで口にした。当然頭痛が襲ってきて二人仲良く悶えることになった。そして何とか食べ終わったところでリン達と別行動をとったのだった。
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