第二十話 なずなちゃん、ダブルデートする
なずな視点です。多分この子は作中でも一、二を争うほどマイペースです。
公園から離れ、想い出巡りを終わらせたワタシ達。すぐに四人でのダブルデートに切り替え、住宅街を抜け出し繁華街まで歩いてきた。そこでワタシは、雑な感じでリンにいに頼みごとをした。
「リンにい、ちょっと四人分の飲み物買ってきて。迷惑料と思って」
「はいはいわかったよ。好みは変わってないよね?」
「僕は変わってないよ。かえちゃんとは?」
「わたしもです」
「じゃあ五分ほど待ってて」
飲み物を買いに離れたリンにいを見送り、ワタシは二人に話を切り出した。
「実は、リンにいに内緒で頼みがある。聞いてくれない?」
「あー、この時期ならリンの誕生日プレゼントのことだよね?」
「アヤにい、覚えてたの?」
「うん。九月だからどうしようかって思ってたんだ。なずなちゃんから言いだしてくれて助かったよ」
そう、ワタシのお兄ちゃんにして二人の幼馴染、リンにいの誕生日は九月で、メッセージだけならともかく、プレゼントはどうあっても遠方にいる二人には難しい。
「だから、これから帰るまでに間、デートのついでにプレゼント買って、別れのときにでも渡して欲しい」
「わかったよ。かえちゃんも大丈夫だよね?」
「はい。見つからなければ今日じゃなくてもいいんですよね?」
「もちろん。一番大事なのは気持ちだから、無理に選ぶ必要はない」
カエデちゃんならその辺りは心配ないはず。アヤにいも基本的には大丈夫だけど、たまに変なもの買うときあるから。リンにいが戻ってきたので相談を終わらせ、デートに戻った。
「町案内ついでのデートになるけど、飲食店以外はアヤがいた頃と変わらないよ。でもせっかくだし、ちょっと面白いところに連れて行くよ」
「面白いところ?」
「デートにもそこそこ向いてるしさ」
そう言ってリンにいは楽しそうに先を歩いていった。ワタシは行き先を知っているけど、あえて二人には伝えずついてくるように促した。十分ほど歩いた先にあったのは、どう考えてもデートに向いていない釣具店で、微妙な顔になるアヤにいとカエデちゃん。
「気持ちはわかるけど、行ってみたら意外と面白い」
「そうなの? まあ見るだけ見るけど」
釣具店の店先には、大きな水槽が展示してあって、南方に生息する色とりどりのカラフルな魚が泳いでいた。ごく小規模な水族館に、二人は面食らっていた。
「綺麗です......」
「これって熱帯魚だよね? なんで釣具店で展示してあるの?」
「客引きのためだよ。ちなみにこの魚、仕入れ原価はただなんだ。ついでに言うなら売り物でもない」
「そうなの?」
「うん。黒潮に運ばれて来た南洋の魚が、満潮のときに浅瀬まで来て、潮が引いて潮だまりに取り残された、死滅回遊魚ってやつだよ」
何度聞いてもすごい名称だけど、これが正式な呼び名らしい。そのまま放置しても食べられるか寒さで死んで全滅するからだそうだ。
「水族館に行けない人達のために、気分だけでも味わって貰おうって店長の気まぐれから始まって、俺も協力してるんだ。こいつらの生息地は潮だまりだから、釣りに行くとたまに見つかるんだよ」
「いや、リンって想像以上に立派なことしてるね」
「はい......尊敬します」
リンにいが褒められて、義妹であり彼女でもあるワタシとしては、すごく誇らしかった。でも、本人は嬉しいのを隠してるけど。
「あんまり持ち上げても何も出ないって。精々今度釣りに出たときの帰りに、刺身を振る舞うくらいだよ」
「えっ? 刺身ってまさかリンって捌けるの?」
刺身という言葉にアヤにいは反応したようで、魚の捌き方を熱心に聞いていた。アヤにい、料理に目覚めでもした?
「いや、かえちゃんが魚捌けないから僕が代わりに覚えようかなって。魚好きな友達はいるけど、その子も切り身は使うけど捌いたことなくてね。あと、覚えたら数少ない男友達に伝授しようかとも」
「なるほど。なら今度教えるよ。まあ今日はこのくらいにして、移動しようか。次はなずなちゃんの趣味の場所に行こう」
「わかった。案内する」
リンにいのリクエストに応え、ワタシはある店にみんなを連れて来た。そこは様々な衣裳が立ち並ぶ、コスプレ衣裳専門店だった。若干引いてるように見える男性陣を押すように入店し、アヤにいとカエデちゃんに似合いそうな衣裳を探す。
「なんかなずなちゃん、生き生きしてるね」
「俺もこの趣味を知ったときは驚いたよ。でも、なずなちゃんの本領は衣裳を探して着せてからだよ」
「どういう意味?」
後ろの方でリンにいとアヤにいがなにか話しているけど気にしない。カエデちゃんに合いそうな衣裳を見つけたので、それをカエデちゃんに渡して試着室に押し込んだ。
「はぅぅ、これでいいですか?」
「いい。似合ってるからこれに決定。撮影するから、こっちに来て」
着替え終わって出て来たカエデちゃんを、アヤにいに見せないように気を遣いながら、一枚写真を撮る。
「あの、どうしてあやくんに見せたら駄目なんですか?」
「手作りの衣裳を送るから、それを着てアヤにいに見せて欲しいから。あとはそのまま脱いで返して」
カエデちゃんから返された衣裳を元の場所に戻す。さすがに買うには高いので試着だけだ。その代わりに材料となる布を買い物カゴに入れる。アヤにいとリンにいにも同じことをして、大量の布を手に店を出る。
「満足」
「ならいいけど。結局かえちゃんにはなに着せたの?」
「はぅぅ、あやくんが着たものわかりませんでした」
「そこは完成したものを見てのお楽しみだよ。そうそう、もう一つ追加しておくとなずなちゃんは裁縫の腕かなりのものだからね」
リンにいに褒められた。嬉しい。もうすぐお昼だけど、外で食べるとは伝えてなかったので、ダブルデートは終わりとなり家に帰った。明日も楽しいことが続くので、今日はこのくらいでいいか。
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