第十九話 彩芽くん、想い出巡りをする
一夜明け、目覚めて最初に映ったのは懐かしい天井だった。ああ、昨日から実家に帰ってたんだよね。隣に視線を移すとかえちゃんが安らかな顔で眠っている。
(それにしても、昨日は大変だった)
いきなり気絶したものだから、父さん達がかえちゃんになにか持病があるのではと疑って、その場で診察しだしたんだよね。一応これといった異常は見当たらなかったらしいけど、念のため一度病院に連れてくるように言われたのだ。
(お祭り終わったら連れて行こう。多分問題ないと思うけど)
個人的には病院は安心したいからといって行くような場所じゃないと思っているけど、生活に支障が出ているので仕方ない。健康ならよし、命に別状のない病気なら通院で済ませればいい。
(まあ、そっちは今はいいか。今日はリン達と出かける予定だし、そろそろ起きようかな?)
当初の予定ではかえちゃんと二人で、町案内デートをするつもりだったけど、なずなちゃんがこれに待ったをかけた。どうせ行くなら四人の方がいいという一言で、想い出巡りの旅に変更となった。
(でも、昔の想い出の場所ってほとんどなくなってるんだよね。そもそも僕達が住んでた家すらもうないんだから)
今はもう空き地になっている。文字通りの事故物件になったから、仕方ないといえばそうなんだけど。そんなことを考えながら布団から出て着替え、全員で朝食をとった。
「彩芽、朝早くなったじゃないか」
「まあね。向こうでは家事もしてたし。料理はかえちゃん任せだけど、お粥くらいは作れるようになったよ」
「すごいじゃない。私がいくら教えても出来なかったのに。お礼に今日のお風呂で背中流すわね、楓ちゃん」
「はぅぅ」
母さんは楓ちゃんが来てから、少しテンション高めのようだった。一方の父さんは特に変わらないようだった。
「彩芽、お前のいつも行っていたホームセンターだが、輸入木材も扱うようになったみたいだぞ?」
「えっ、じゃあ近いうちに買ってみるよ」
「そう思って一通り買い揃えている。試しに使ってみるといい」
「ありがとう、父さん」
素材の違いで色合いや質感も違ってくるので、使ったことのない木材に触れるのは結構楽しい。桜井家では遠慮して出来なかったけど、実家なら問題ない。こちらもお祭りが終わったら試してみよう。
朝食を食べ終えしばらくしたら、リンとなずなちゃんがやって来たので、僕達は外に出た。午前中のうちに想い出巡りを行うためだ。家を出て少し歩いた先の空き地で足を止めた。
「ここはあのアパートがあった場所だよ。まずここから見せたのは、サクラちゃんの想い出の場所はほとんど残ってないって、覚悟させるためだよ」
「わかっています。わたしにはあやくんと、カラスさんのご家族がいるだけで想い出は充分ですから」
「そう。なら次に行く」
なずなちゃんの先導で連れて来られた場所には、見覚えのない学生寮が建っていた。ここと僕達になにか縁があるのかな?
(うーん、なんか辿った道のりに覚えがあるんだけど、どこだっただろう?)
思い出せずかえちゃんと首をひねっていたが、結局わからなくて降参して答えを聞いた。
「ごめん、どこだった?」
「幼稚園。ワタシとみんなが通ったのは一年くらいだけど、想い出の場所」
「ああっ!! そういえば確かに、ここ幼稚園だったよ!!」
「もう、なくなったんですね」
知らなかった。僕達が通ってた幼稚園、もうないんだね。僕もかえちゃんも逆上がりが出来なくて泣いたり、木に登ったはいいけど降りられなくて迷惑かけたりと、恥ずかしい記憶も多いけど、なくなると寂しいものだね。
「そういえばアヤも知らないんだったね。潰れたのは去年だけど、取り壊されたのが今年の六月だから無理もないか。せっかくお化けに驚いて君達がお漏らししたのをネタにしようと思ってたのに」
「うっ!!」
「はぅぅ!!」
そ、そういえばそうだった。僕達のやらかし、大体リンが知ってるんだった。そして、なずなちゃんもリンから聞いてるから知ってる。
「二人とも、まだお化けとか怖かったりするの?」
「ほっといてよ」
「苦手です......」
「なら、お祭りのあとの肝試しはなしにしておく。リンにい、いいよね?」
「そうだね。さすがにこの歳でそうなったら可哀想だしさ」
二人とも笑いを堪えながら言わないでよ。それに、いくらなんでも粗相なんてしないからね!
(と、否定しても強がってるようにしかみえないよね。とほほ)
子供の頃とはいえ、前科がある以上何も言えない僕だった。かえちゃんも反論せず俯いていた。
「まあ君達をいじるのはこのくらいにして、あと俺達の想い出の場所といえば、やっぱりあそこかな?」
「うん。案内する」
元幼稚園の場所から家のある方へ少し戻り、やって来たのは小さな公園だった。ああ、ここは覚えがある。ここから僕達四人の関係が始まったのだから。
「いきなり妹が出来るって言われた俺が、それに反発して家出して泣いてたのがここだったよね。いやー、懐かしいね」
「他人事みたいに言ってるけど、おかげで僕達はわけもわからず置いて行かれて泣いてるなずなちゃんを連れて、町中を探し回ったんだよ?」
「探したのはあやくんで、わたしはずっとなずなちゃんを慰めてただけでしたけど」
「でも、そのおかげでリンにいと仲直り出来たから」
「あれを仲直りと言って良かったのか......でも、あのときのことがあったからなずなちゃんは言いたいこと言えるようになったんだよね」
それからは四人で仲良くしていたけど、かえちゃんが離れてから少しずつ歯車が狂いだして、関係が一度破綻した。
「まあ、滅茶苦茶にした俺が言うのもどうかと思うけど、もう一度改めて関係を結び直そうか」
「そうだね。離れてても仲良くしようか。今度、向こうで出来た友達紹介するよ。きっと仲良くなれるから。と言っても男は一人だけど」
「女の子が多いなら、会ってみたい。カエデちゃんの友達なら、なおのこと」
「なずなちゃんもすぐに馴染めると思いますよ。もうちょっと近かったら、気軽に来てくださいって言うのですけど」
かえちゃんの呟きに、何故かリンもなずなちゃんも一瞬口元を歪めた。ねえ、今度は何を企んでるの?
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