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第十七話 竜堂くん、迎えに来る

竜堂視点です。不意うち更新です。

 八月五日、俺はなずなちゃんとくつろいでいたのだけど、アヤから電話がかかったため、急いで駅まで向かったのだった。もちろん、指輪はしている。


「まったく、連絡するならもうちょっと早くして欲しいよ!」

「そういう抜けてるところは、アヤにいとカエデちゃんっぽい」

「同意見だけど、尻ぬぐいをするのは俺なんだからね!」


 アヤのやつ、頭いいくせにうっかりしてるから昔からこういうミスが多かったりする。サクラちゃんがいた頃からそうだったので、そういう性分なのだろう。


(でもまあ、ミスを連絡しただけましになったのかな?)


 中学時代――というかサクラちゃんと離れて以降のアヤは、人に頼らずなんでも抱え込むことが多くなっていた。それが破滅へと繋がったのだ。トドメ刺した俺が言うのもなんだけどね。道中、コンビニでブロック栄養食と飲み物を買って、駅前に着きしばらく待っていると、駅の奥から二人がこちらに向かって来た。


「アヤ、お帰り」

「リン、ただいま」

「なずなちゃ――きゃっ!」

「久しぶりのカエデちゃん♪」


 再開して早々、なずなちゃんはサクラちゃんを抱きしめた。勢いをつけてないため、今回は倒れ込まなかった。それにしても、サクラちゃんってこんなに可愛かったんだ。アヤは相変わらず美少女だったけど。


「というかアヤ、今回も女装してないかい?」

「してないよ! ただ髪が伸びただけだから!」

「冗談だよ。でも前よりももっといい顔になったのは本当だよ。そんな君にプレゼントだ。サクラちゃんにもね」


 コンビニで買った食料を二人に進呈した。サクラちゃんは素直に喜んでくれたけど、アヤは少し微妙な顔をしていた。


「僕、このフレーバーあんまり好きじゃないんだけど」

「わかってるって。でも好き嫌いすると大きくなれないよ」

「否定できないのが悔しい」


 文句を言いつつ、しっかり食べているアヤ。別に好きなフレーバーをあげてもよかったけど、それだと料理を用意してる樹さんや撫子さんに悪い気がするからね。


「まあ、積もる話は歩きながらしようか。特にアヤ、婚約までしたんだから進展聞かせてよ」

「大した話は出来ないよ?」

「それでもいいよ。俺の方も話あるしさ。ほら、なずなちゃんもサクラちゃんを抱きしめてないで、そろそろ行くよ」

「わかった」

「はぅぅ」


 四人で駅を離れ、住宅街の方へ向かう。その道中アヤからサクラちゃんとの進展を聞き、そのあまりのヘタレぶりに思わず天を仰いだ。


「君達、それでも高校生なのかい? 幼稚園児でももっと積極的だよ?」

「そんなに言うなら、リンとなずなちゃんはどうなんだよ?」

「普通に毎日、おはようとおやすみのキスはしてるよ。前に画像送ったよね?」

「そこまでなんだ......」


 アヤは俺の返しにショックを受けていた。ちなみに横で聞いていたサクラちゃんはトマトのように赤くなり、なずなちゃんはそんなサクラちゃんに頬ずりしていた。


「そんなことより、リンの話ってなんなんだよ?」

「中間テストと期末テスト、中学のときと同じようなことになってないかなって。ほら君ってうっかりさんだから」

「うっかりしてるのは認めるけど、テストはちゃんと解いたし結果もそれなりだったよ」


 アヤの言うそれなりって大体高得点なんだよね。一応サクラちゃんに確認しておこうか。


「サクラちゃん、アヤの結果ってどうだった?」

「とても高得点でした。一位の人と連続で同点っていう、すごいことしてましたし」

「それはその人がすごいのか、アヤがすごいのか悩むね。まあどっちも高得点なんだろうけど」


 本来受けるはずの評価を受けられなかったアヤが、新天地ではちゃんと認められていることに俺はホッと胸を撫で下ろした。


「リンにいもすごい。常に上位にいるらしい」

「さすがにトップじゃなくて五位以内だけどね。なずなちゃんだって、三十番内にいるんだよ」

「はぅぅ......」


 何故かサクラちゃん一人だけが落ち込んでいた。理由を聞くと自分だけ普通の成績だからだそうだ。君の場合、成績は普通でも家事の能力がおかしいからバランス取れてると思うけど?


「それでもその、あやくんと同じ学校に行くには成績って大事ですし」

「別に僕はどこでもいいけど? やりたいこと見つけてないし」

「医者になるとかじゃないんだね」

「両親の忙しさ知ってるからちょっとね。引っ越さず割と決まった時間に帰れる職業ならなんでもいいんだけど」


 理由を誰何すると、サクラちゃんに聞こえないように耳打ちしてきた。ちょっと、耳こしょばいから。


「かえちゃんと、多分遠くない未来に出来る子供を寂しがらせたくないから」

「なるほど。中学時代の君みたいなことは避けたいんだね。でもなんで耳打ち?」


 秘密保持と仕返しを兼ね、俺も耳打ちで返してあげた。


「んっ! かえちゃんが聞いたら気絶するから。今どき小学生でも恥じらわないことで恥じらう子なんだよ」

「なるほどね」


 話しているうちに家の前まで来たので、俺となずなちゃんは足を止めた。するとサクラちゃんが首を傾げながら質問してきた。


「あれっ? カラスさん達の家ってあやくんの実家やわたし達が住んでいたのと同じアパートですよね?」

「違うよ。前はそうだったけど、引っ越したんだ。サクラちゃんが離れていった数年後に」

「老朽化も酷かったから、ワタシ達が引っ越してから取り壊された」

「ええっ!?」


 サクラちゃんはとても驚き、目を見開いていた。まあ無理もないか。故郷に戻ったのに自分の住んでた痕跡がなくなってたんだから。今から考えると、あんなボロアパートによく住んでたよね。家を買うまで、お金貯めたかったのはわかるけどさ。


「はぅぅ、寂しいです」

「仕方ないって。あのアパート、取り壊される少し前にトラックが突っ込んで、アヤ達家族が住んでた部屋がぐちゃぐちゃになってたし。むしろ引っ越さなかったらアヤはこの世にいなかったかもね」

「リン、それフォローになってないから。念のため言っておくと、今の家は大丈夫だからね!」

「その、別な意味で驚きましたけど、あやくんがそう言われるのでしたら」


 サクラちゃんも納得したようで、改めて二人を送り出すことにした。


「アヤにい、カエデちゃん、行ってきて」

「わかりました」

「さっき電話したときはいたけど、父さんも母さんもいるかな?」

「いなかったら待っていたらいいよ。だから、とっとと行ってって」


 二人を叩き出すようにして、アヤの家へと向かわせた。こういう世話が焼けるところも昔から変わらないよね。

お読みいただき、ありがとうございます。

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