第十話 楓ちゃん、夏休みの予定を話し合う
楓視点です。
今日は終業式です。海崎先生から夏休みの注意事項を伝えられ、たくさん宿題を出され、わたし含め多くのクラスメートはがっくりしました。そして今学期最後のHRが終わり、お友達と夏休みの予定について話し合うことになりました。
「僕とかえちゃんは登校日から何日かしたら、お盆明けまで僕の地元に行くけど、みんなの予定はどうなのかな?」
「オレは大抵時間あると言いたいが基本は芹と勉強会だ。期末がギリギリの教科があったからな」
「アタシは心節君に教える他に、彩芽君達みたいにお盆周辺は実家に戻ることになってるわ」
「あー、あたしはこれから毎日菊太さんのところに行くから、あまり遊べないかも」
「私も、桐次君に勉強を教える名目でラブラブするから、そこまで暇がないわ」
あやくんが最初に予定を告げると、わたし以外の全員がそれに続きました。つまり、みなさん恋人と過ごす夏休みということになるのですね。そうなるとあまり遊べないので、ちょっと寂しいかもです。
(全員で集まる機会があれば、きっと遊べますよね?)
そう考えたわたしは、小さく挙手して一つの提案をしました。
「あの、みなさん一緒に勉強会をしませんか? わからないところを教え合ったりして、夏休みの宿題を終わらせるためのものです」
「それ、確かに必要よね。特に百合辺りには。この子夏休みの宿題サボりそうだから」
「ギクッ! ソンナコトナイヨー」
わたしの提案に最初に賛同したのは牡丹さんで、苦言を呈された百合さんは急に片言になって目をそらしました。その、サボるつもりなんですね?
「やっぱり。そうなると問題は勉強会をいつするかよ。夏休み最終日は確定として、あと一日欲しいわ。いつがいいと思う?」
「そこは明日とかでいいんじゃないかしら? 宿題って始めるきっかけがないと中々出来ないから」
「いいねそれ。あと登校日に途中経過を報告し合おう。読書感想文みたいに時間かかるものや面倒な問題集は、なるべくここまでに終わらそうか」
成績優秀な三人の話し合いで、とんとん拍子で勉強会の予定が決まっていきました。そういうわけで、早速明日は全員で集まって夏休みの宿題をすることになりました。
(これで、みなさんとの想い出も出来ますね)
提案しておいてなんですけど、夏休みの初日に集まる理由が遊ぶためじゃなく、宿題のためというのが真面目すぎると思いますけど。現に心節さんと百合さんは少々不満そうな様子でした。
「いや、普通夏休みは遊びを優先しねーか?」
「そうだよ。どうせ集まるなら遊ぼうよ」
「だから、時間が余ったら遊ぶって。それに明日遊んだら宿題でも特に手間のかかる――例えば読書感想文を、自分の力だけでしないとならなくなるけどそれでもいいの?」
「「ごめんなさい」」
お二人が深々と頭を下げました。お気持ちはわかります。わたしも一人で出来る自信がありませんから。本選びの時点で挫折しそうです。
「わかったならいいよ。じゃあみんな帰ろうか。明日の十時に僕とかえちゃんの家に集合だからね」
「「「「「はーい!!」」」」」
「って、かえちゃんは迎える側だから返事しなくていいんだって」
「そうでした」
勉強会の予定が決まったので、いつも通り坂の下まで集団下校し、各自解散して帰宅しました。鍵を開けて家に入り、お互い挨拶をします。
「あやくん、ただいまです」
「ただいま、かえちゃん」
ニコリと微笑むあやくんが素敵で、見とれてしまいました。いつもの性別がわかりにくい服も似合いますが、男性の制服もちゃんと似合って――あっ、そうです、制服です。
「あやくん、制服ですけどクリーニングに出しますから、着替えたら畳んでリビングに持ってきてください」
「それなら僕が出しに行くから、その間お昼ご飯作っててよ。実はお腹空いてるからさ」
「あっ、わかりました」
お腹が空いているなら仕方ありません。着替えて制服をあやくんに渡しました。クリーニング店の場所ですが、わかりますか?
「近所にあるお店でいいんだよね? 大丈夫だよ」
「あの、いってらっしゃいです」
あやくんを見送ったわたしは、料理に集中することにしました。今日は冷やしうどんにしましょう。麺は既製品ですけど。
(あやくんと一緒に、今度やってみましょうか?)
麺作りからあやくんと共同でする光景を想像しながら、わたしはうどんを茹でたのでした。制服をクリーニングに出して帰宅したあやくんとお昼を食べたあと、帰省のことで話し合うことになりました。
「まず決めないといけないのは日程だね。かえちゃん、夏祭りどうする?」
「なずなちゃんと約束したので、是非参加したいです」
「じゃあその前提で考えようか。そうなると登校日、つまり四日の昼から六日の夕方までにはこっちを出ておきたいね。詳しい時刻はあとで調べておくけど、出発日時に希望はあるかな?」
「そうですね......でしたら五日に出ましょう。ずっと前に離れた故郷ですから、お祭り前に見て回りたいので」
四日だと慌ただしい出発になりますし、六日だと到着してから余裕がありませんので。それと、家事の都合で朝出発するのが一番都合がいいという結論になりました。
「わかったよ。だったら登校日までにある程度準備は進めておこう。何なら食材は四日に使い切るつもりで」
「そうですね。ですけどそうなるとお勉強はどうします?」
「それまでにある程度終わらせる感じになるね。一応、お盆明けまでは向こうに滞在する予定だから、単純に宿題する時間が十日から二週間削られる」
「結構長いですよね。どうしましょう?」
「そのときの進捗次第で考えようか。荷物増やしたくないから、出来たら置いていきたいけど」
そうでした。持っていく荷物に限りがあるんでした。
「その辺り父さん達に一度連絡して、荷物に宿題入れて着替えは宅急便で送ろうかな? ついでに客間も使えるようにして貰おう」
「客間ですか?」
「うん。そうしないとかえちゃんと同じ部屋で、ベッドで抱き合って寝ることになるからね」
「同じベッドで抱き合って!?」
あやくんとベッドで抱き合って眠る光景を想像したわたしは、恥ずかしさのあまり気絶してしまいました。はぅぅ、やっぱりわたしだめだめです。
お読みいただき、ありがとうございます。楓、すっかり気絶癖が付いてしまいました。