第七話 楓ちゃん、お参りする
楓視点です。
あやくんと手を繋ぎアーケード街から離れ、北に進むと少し大きな公園があり、さらにそこを抜けると長い石段が見えてきます。そう、目的地は神社です。この周辺は住宅地から少し離れているのもあってとても静かでした。
「こんなところに神社があったんだね」
「はい。秋祭りではかなり賑わうんですよ」
「そうなんだ。そのお祭りっていつなのかな?」
「十月の初めです。わたしの誕生日と同じ時期でしたので」
正確に言いますと、わたしの誕生日の前日なのですけど。今年はお祭りが土曜日ですので、お昼からあやくんとお祭りデートするのもいいかもしれません。
「まあいつまでも石段の前で止まってても仕方ないし、お参りしようか」
「そうですね」
二人、手を繋いだまま石段を登り、一礼して鳥居をくぐります。お参りする前に手水舎でお清めしますが、水をこぼしてしまいあやくんみたいに上手に出来ませんでした。
「はぅぅ」
「不器用な人はいるから気にしないの。ほら、先へ行こう」
大きな神社ではないですが、本殿がしっかりした作りになっているのと神社独特の凛とした空気もあり、少々圧倒されます。
「確か、お参りの作法は二礼二拍手一礼でしたよね?」
「基本的にはそうだけど、場所によって異なるから一概にそうとは言えないよ。でもこういうのは作法よりも気持ちだから、間違ってたら今度来るときから直せばいいんだ。それに、もし間違えてても一緒だからね」
「あやくん、ありがとうございます」
わたしはあやくんと同時にお財布から小銭を取り出し、お賽銭として捧げ、手を合わせて目を閉じ祈りました。
(神様、ありがとうございます。おかげさまであやくんと再会出来て結ばれました。今後も見守っていただけたら嬉しいです)
願い事が叶ったことを報告するとともに、将来の平穏を祈願しました。望みすぎではないかと考えましたけど、大きなお願いの分いい子にしていようと思います。宗教は違いますけど、サンタさんが来るくらいには。
(あやくんは何を願ったのでしょうか?)
わたしと同じか、それ以上に長い時間手を合わせていました。きっと、あやくんにとって大切なお願いなのでしょう。気になりますけど聞かないことにしました。
「かえちゃん、参拝終わったなら、お守り買おうか。ついでに運試しもしておこう」
「そうですね。わたし、神社に来たらいつもおみくじ引いてるんです。よく当たるんですよ?」
去年までは待ち人来たらずと書いてありましたが、今年のお正月に引いたものにもうすぐ訪れるとあり、実際にあやくんと再会出来たわたしが言うので間違いないです。
「そっか。だったら僕も引いてみようかな? あんまり信心深くないけど、かえちゃんのことは信じてみようか」
「はい。売店はあちらです」
お守りやおみくじを売っている売店(社務所というそうです)にあやくんと向かうと、前に出会った巫女のお姉さんが売り子をしていました。
「あっ、巫女のお姉さんです」
「本当だ。お久しぶりです」
「本日は当神社に参拝いただき、ありがとうございます。確かあなた達は、一月ほど前にお守りを買って下さった恋人さん達ですね。あのときいただいたお守りは大事に持っています」
わたし達が一礼すると、お姉さんもペコリと頭を下げました。あちらもわたし達のことを覚えていてくださったので、ちょっと嬉しかったです。
「本日はどういったご用件でしょうか? この時期ですと、テストが近いので学業成就のお守りの購入でしょうか?」
「あのっ、おみ――」
「そちらも必要ですけど、おみくじを引こうかと思いまして。とりあえずお守りとおみくじを二人分お願いします」
「わかりました。どちらから引きますか?」
「そのっ、あや――」
「僕からお願いします」
わたしが口を挟む余地もなく、お守りの購入が決まり、あやくんから引くことになりました。はぅぅ、意見が一致してましたからいいですけど、なんだか情けないです。
「三十番です」
「三十番のおみくじは、これですね。次はそちらの女の子ですね」
「えっと、はい」
落ち込みつつ引いたおみくじは、三十七番でした。お姉さんに渡されたおみくじをあやくんと一緒に開くと、わたしが末吉、あやくんが小吉でした。
「なんだか微妙だね。でもまあ、そんなに悪いことは書いてないからいいかな?」
「そうですね」
強いて言えばわたしのおみくじの健康の部分に、若干の不安ありと書いているのと、二人揃って恋愛面で新たな出会い無しとなっているくらいでしょうか?
(個人的にはホッとしましたけど)
あやくんのことを狙う人がいないのなら、安心して一歩一歩関係を進められます。焦ってしまうときっと嫌われてしまいますから。巫女のお姉さんに、前に引いたおみくじを渡し木の枝にくくっていただきました。
「お守りとおみくじは、出来れば持ち歩くことを勧めます」
「わかりました」
「それと、十月二日が当神社の秋祭りとなっていますので、是非その際は訪れてくださいね」
「もちろんです」
「あの、また来ますね」
お姉さんに別れを告げ、石段をゆっくりと下ります。ここからのデートですが、お空が少し陰ってきたので帰宅してお家デートに切り替えることになりました。ちなみにわたし達も洗濯物も雨に濡れることなく無事でした。
お読みいただき、ありがとうございます。