第五話 彩芽くん、尋問される
かえちゃんと今後の予定を話し合った翌日、登校した僕達は百合さんと牡丹さんに空き教室へ連行された。何故か僕だけ。それもご丁寧に机と椅子も用意され、二人の悪ノリ事情聴取が始まった。取り調べ役の百合さんが、机を叩いて僕に迫る。
「ネタは挙がってるのよ、彩姫? いい加減吐いたらどうかな?」
「あの、何の話かな?」
「しらばっくれても無駄だよ? 牡丹、例のものを出してよ」
「わかったわ」
牡丹さんが携帯を取りだし、メッセージ画面を呼び出す。そこに表示されたのは、かえちゃんが婚約のことではしゃいでるメッセージだった。さらに読んでみると、芹さんに宛てたものを牡丹さんに誤爆したとわかる。想像以上に動かぬ証拠だったため、乾いた笑いが漏れだした。
「あ、あはは......かえちゃんってばうっかりさんだね♪」
「そうだよね。で、この内容は本当なの?」
「......本当だよ。一昨日かえちゃんのご両親に許可貰って、正式に婚約を結んだんだ」
この期に及んで隠すのも潔くないので、正直に白状した。この二人が秘密を言いふらすタイプだったら話を逸らしただろうから、聞いてくる人の人柄って大事だよね。
「そうなんだね。ところでどうして芹さんが知ってるの?」
「昨日遊んだときの罰ゲームで暴露したからだよ。二人には今日教えるつもりだったんだ」
「まあそれならいいけど。それで本題なんだけど」
「えっ? これで終わりじゃないの?」
「終わりじゃない。ここからは私も追及に参加するわ」
牡丹さんも椅子に座り、取り調べが圧迫面接へと変化した。これから何を聞かれるのだろうか?
「婚約と言ったからには、当然キスはしたよね?」
「それとも婚約して大義名分を得て、大人の階段を一気にかけ上がったの?」
いきなり下世話な話題に変化し、僕は椅子からずり落ちそうになった。真剣な顔をしたかと思えば、まったくもう!!
「かけ上がってないから! ほっぺにキスはしたけど、ファーストキスもまだだから!!」
「えっ、婚約したのにそれって、彩姫も楓たんもヘタレすぎ」
「うぅっ!!」
牡丹さんの容赦ない一言が、胸に突き刺さる。自覚はしてるけど、もうちょっと言い方ってあるよね?
「あはは、せめてキスくらいしてあげようよ」
「両親の目の前でとはいえ、ほっぺのキスで気絶したかえちゃんにしろと?」
「ごめん、あたしが悪かった」
「気を取り直して次の質問するわ。というか本気で聞きたいのはここから。覚悟はいい?」
わざわざ覚悟を問うてきた牡丹さんに、僕は頷いて返した。
「彩姫と楓たんが婚約したなら、婚約指輪って持ってるわよね。いくらした?」
「本気で聞きたいことってそれなの?」
「とても重要。答え次第で桐次くんに要求する指輪のハードルが玩具から本物に変わるから」
牡丹さんの答えに絶句する。えっ、もしかして牡丹さんも婚約するつもりなの? 理由を聞いてみるともっともだと納得するものだった。
「年齢的に百合は卒業後すぐに結婚出来るかもだけど、私は少し待たされることになるから、何なら彩姫達よりも必要よ」
「その言い方だと、あたしは婚約指輪必要ないみたいじゃん。あたしだって菊太さんから欲しいよ!」
「わかってるって。それで彩姫、実際どうなの?」
「そんなに高いものじゃないよ。ペアでも数千円くらいで、何の装飾も無いシルバーリングだよ。裏側にイニシャルは刻んで貰ったけど」
値段の他にも店の場所や、他デザインの価格などを聞かれたので覚えている限り答えた。
「ありがとう。参考になったよ。彩姫、出来たら今度菊太さんに指輪着けて会ってくれないかな?」
「いいけどなんで?」
「婚約指輪の存在を意識させて欲しいって理由だよ。成功すればたとえ今年は無理でも、そのうちくれるはずだから」
恋の駆け引きは、意外と牡丹さんが直球で、百合さんの方が変化球で勝負することがわかった。性格的には逆っぽいのがちょっと面白かった。
「そこまでするなら、欲しいって直接言えばいいのに」
「牡丹はともかく、あたしが菊太さんに下手に要求したら大事になるじゃん。裏で何言われるか」
「わかったよ」
今度二人へのプレゼントを相談するときにでも見せてみようと考えながら教室へ戻る。
「そういえばなんだけど、百合さんと牡丹さんの誕生日って近い日付だよね?」
「そうだよ。あっ、当日は菊太さんと過ごしたいから、祝うなら別の日にしてくれるとありがたいかな?」
「同じく。どこかの日付で合同でしてくれたんでいいわ。彩姫と楓たんの家でしてくれるならだけど」
「その辺は相談させて。僕の一存じゃ決められないから」
この件をかえちゃんに相談するとあっさり許可が出た。
「わたしにとっても大事なお友達のお誕生日会ですから」
これを聞いた百合さんと牡丹さんはかえちゃんを抱きしめ、三つ編みが解けるまで愛で続けた。ただそのせいでクラスメート全員に婚約の事実が伝わったのだけど、特に話題にもされなかった。何ならたまに一緒に添い寝していることの方が盛り上がったくらいだ。
「「「「えっ、彩姫と楓たん一緒に寝てるの!?」」」」
「違うからね!! そういう意味じゃないから!!」
「はぅぅ? どうしてあやくんは慌ててるんですか? お昼寝や二人で枕を並べて眠る以外の意味ってあるんですか?」
「「「「ああ......」」」」
かえちゃんが想像以上に子供だということがわかり、女子は微笑ましい視線を僕達に向け、男子は同情的な目で僕を見るようになった。別に悲しくなんてないんだからね!!
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