第三話 彩芽くん、友達に婚約したことを話す
婚約者になっても、日々の生活は変わらない。家事が終わり、午前中の自由時間、心節から携帯にメッセージが入った。
『昼から遊びに行っていいか?』
心節らしく簡潔に用件だけのものだった。個人的には遊びたいけど心節と遊びながらかえちゃんを気にかけられるほど器用じゃない。それに両親が再び旅立った今日くらいはかえちゃんを一人にしたくない。
(さて、どうしようかな?)
返答に少し悩んでいる間に、かえちゃんの携帯にも芹さんからメッセージが入ったようだった。
「あの、どうしましょう?」
「二人きりで過ごすのもいいけど、今日は久しぶりに遊ぼうか」
返事をして昼食を食べ終わり、ふと外を眺めると雲行きが怪しくなって来たので洗濯物を回収し、乾いていないものを部屋干しに回したところで、呼び鈴が鳴った。
「僕が対応するから、かえちゃんはお茶用意してね」
「わかりました」
玄関で心節と芹さんを迎える。二人とも傘を持っているが濡れていないので、まだ降ってないらしい。
「おっす。邪魔するぞ」
「こんにちは」
「こんにちは。芹さん、家の洗濯物大丈夫?」
「朝から部屋干しにして来たから、大丈夫よ」
「だからお前ら、所帯染みてるって。そういや楓はどうした?」
「お茶用意してるよ。先にリビングに行ってて」
今回は紅茶を淹れたようで、ティーセットをリビングへと運んだ。かえちゃんには紅茶に合うお菓子を持って来てもらった。
「あら、今日は優雅なティータイムになりそうね」
「和室でするのはどうかと思うが」
「細かいことはいいじゃないか。それともダイニングに移る?」
「面倒だからいい。つーか、しばらく来ない間に色々増えてねーか?」
そう、数日間一咲義父さん達が滞在したことで、リビングに鏡やカレンダーやらが置かれるようになった。僕とかえちゃんが内装を気にしなさすぎとも言えるが。
「お父さんとお母さんが朝までいましたから」
「そういやそうだったな。ところでこの写真立て、空なのに飾ってあるのは何でだ?」
フンボルトペンギンの親子が彫られた写真立てを手に取り、まじまじと見つめる心節。
「昨日みんなで撮った写真を飾るためだよ。ついでにそれ、心節がプレゼントしたやつを細工したものだから」
「......よく見たらそうだな。お前器用すぎだろ」
「センスいいわね。売り物みたい」
「褒めすぎだよ」
とはいえ、褒められて悪い気はしないので、リクエストされたら作ろうと思う。心節は写真立てを元の場所に戻し、その場にあぐらをかいて座った。
「んで、何して遊ぶよ?」
「相変わらずトランプしかないんだけど」
「じゃあそれで。お前らは何したい?」
「そうね、和気藹々と出来るものなら何でも」
「あまり急がしくないものでしたら」
競技の結果、二対二のチーム戦で大富豪をすることとなった。チーム分けは僕とかえちゃん対心節と芹さんという、順当な組み合わせだ。
「負けたチームには罰ゲームだ。そうだな、恥ずかしい秘密の暴露でいいか?」
「いいけど、二人にはあるの?」
「普通にあるわよ。聞かせてもいいけど、二人が勝ったらね」
「はぅぅ、頑張ります!」
というわけでルールは通常の大富豪に準じ、先に二人とも上がった方が勝ちとなり、勝敗が決する度に罰ゲームが執行される。
(この勝負、絶対に負けられない!!)
そう決意して勝負に挑んだ。途中までは順調だったが、カードが残り半分近くになったとき、心節が残していたスペードの八からの革命を起こされ、温存していた大きな数字を出せなくなり敗北した。
「深読みしすぎた」
「はぅぅ」
「じゃあ罰ゲームな」
「言っておくけど、聞いて引くようなネタは無しよ。付き合いに影響でそうだから」
恥ずかしい秘密はいくつもあるけど、話しても引かれないようなものは意外と少ない。何を話すか悩んでいると、かえちゃんが何か言いたそうに服の裾を摘まんだ。
(何かな、かえちゃん?)
(せっかくですから――)
(わかったよ。同時に言おうか)
かえちゃんと相談し話す秘密を決めて、居住まいを正す。僕達の様子を訝しげにしながらも二人は見ていた。
「「実は、僕達(わたし達)、婚約しました」」
「「は!?」」
突然の婚約発表に、呆けた顔をする二人。ほら、秘密暴露したんだから勝負続けようよ。トランプの山を集め切ろうとする僕だけど、正気に戻った心節に腕を掴まれて手が止まった。
「おい、どういうことだ説明しやがれ!」
「そうよ! 何でそんなことになったのか言わないと楓を解放してあげないわよ?」
「はぅぅ、捕まっちゃいました」
かえちゃんはかえちゃんで、いつの間にか芹さんに抱かれてるし。ちゃんと理由話すよ。
「簡潔に言うと恋人よりも深い関係になりたかったから、かえちゃんの両親に頭下げたんだ。元々両親公認の仲だったし、なんか元から許嫁だったって言われたけど」
「いや、普通高校生で婚約とかおかしい」
「そうよね。何で普通に認められてるのかしら?」
それに関しては、うちとかえちゃんの両親が特殊なだけだと思う。僕達も困らないからという理由で乗っかってるから大概だけど。
「そんなものかしら?」
「そんなもんだよ。じゃあ改めて続きしようか」
「結局するのかよ。まあ、次も勝つけどな」
「はぅぅ、今度は負けませんから」
その後、大富豪以外にもポーカーやババ抜きでも遊んだ。なお、罰ゲームは最初の一回以降はしなかった。理由はこれ以上僕達の抱えてる秘密を聞くのが怖いからだそうだ。いや、これより重いのは無いよ?
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