第二話 彩芽くん、一咲さんと紅葉さんを見送る
かえちゃんが気絶から目覚め、夕飯を食べ終えたところで、父さんと母さんから改めて祝福のメッセージが来た。
『そうか。楓さんを大切にするんだぞ』
『おめでとう彩芽。未来の娘のこと泣かせたら許さないわよ』
二人ともあれでかえちゃんには昔から甘いんだよ。なんなら娘扱いしてたくらいだし。
(まあ、反対されるよりはいいよね。口頭では先に祝われたし。それよりも、これを持っていかないとね!)
僕は部屋の押し入れから布団を取り出し、一階まで運んでいく。桜井家全員のたっての希望で四人で寝ることになったのだ。一本多いけど川の字というやつだ。
「彩芽君の布団はこっちだよ。それで内側に楓ちゃんのを敷くんだ」
「わかりましたけど、この並びの理由は何ですか?」
左から僕、かえちゃん、紅葉さん、一咲さんの並びとなっている。かえちゃんが隣なので文句はないけど、理由があるなら聞いておきたかった。
「それだと~、楓ちゃんと手を繋いで寝られませんから~」
「聞いてのとおり、紅葉さんのワガママだよ。君が楓ちゃんの駄目なところを可愛がってるように、僕も紅葉さんのこういうところが大好きなんだよ」
「なるほど。それは文句を言えませんね。では、僕はかえちゃんの布団を持ってきますね。多分今頃敷き布団を一階に下ろすのに四苦八苦してるでしょうから」
予想通り苦労していたので一緒に運んであげて、四人で並んで横になった。宣言通り、紅葉さんはかえちゃんの手を握っている。仲良し姉妹にしか見えない二人を、僕と一咲さんは尊いものを見るような目で見ていた。
「いやー、今回の帰省は楽しかったよ。娘に婚約者は出来たし、こうして一緒に寝られるし」
「彩芽君~、孫の顔を早くみたいです~♪」
「それは気が早すぎです!!」
「はぅぅ!!」
「ほらかえちゃんが照れちゃったじゃないですか」
抗議するも、紅葉さんは気にした様子もなく話を続けた。こういうところは似てないんだよね。
「照れるだけで~、その気はありますよね~?」
「その、いつかは」
「ほら~」
さっきから紅葉さんのテンションが高く、林間学校での同級生達を彷彿とさせた。見かねた一咲さんが止めるため、紅葉さんを抱き寄せて――!!
「紅葉さん、もういけない子だね。んっ」
「んむっ!」
僕達が見ている前で熱いキスを交わした。あっ、かえちゃんが真っ赤になってる。そして、一咲さんが紅葉さんを放すと同時に二人が震えだし、
「「はぅぅぅぅ!! あっ......」」
ユニゾンで可愛らしい鳴き声を上げ、同時にコテン、と倒れ込むようにして二人は意識を失った。
「お互い、可愛くて恥ずかしがり屋な妻を持つと苦労するね」
「そうですね。ですが、僕とかえちゃんはまだ未婚ですよ」
「じゃあパートナーで。二人も落ちたことだし、僕達も寝ようか」
「はい。一咲さん、おやすみなさい」
気絶からそのまま寝入ったかえちゃんを抱き、その香りに誘われるように眠ったのだった。
翌日の朝、出発する一咲さん達を見送るため、僕とかえちゃんは家の前にいた。一咲さんと紅葉さんは、来るときに乗ってきた車の後部座席に荷物を積み込んでドアを閉めた。
「じゃあ、家と楓ちゃんのことは任せたよ」
「任されました。また、いつでも帰ってきてください」
「はい~、多分次は~、夏休みになるかと~。もっと長く休めると思います~」
夏休みか、友達と遊んだりどこかへ出かけたりと、今年の夏は充実したものになりそうだ。そんなことを考えていると、かえちゃんが意外な提案をした。
「そのときは、全員であやくんの実家に行きましょう♪」
「「そうだね(そうですね~)」」
「え、何で?」
かえちゃんの発言に同意する二人。あれっ、意図がわかってないの僕だけなの?
「今度はわたし達一家が、樹お義父さんと撫子お義母さんにあやくんをくださいって挨拶するからです♪」
そんな僕に、楽しそうに真意を明かすかえちゃん。ああ、そういう意味ね。確かに、父さんや母さんへの挨拶も済ませておかないとね。ついでにかえちゃんを連れ回すのもいいだろう。
「なら、今度は僕が地元を案内してあげるよ。かえちゃん達が離れて数年間で、結構様変わりしたからさ」
「楽しみにしてますね♪」
「それより~、彩芽君もそろそろ私を~、お義母さんって呼んでください~」
「僕もお義父さんって呼んでいいよ」
「考えておきますが、時間大丈夫ですか?」
車で来ているとはいえ、遅くなると明日に響くから朝に出発すると言っていたはずだ。そのため今日の朝食は紅葉さんじゃなくてかえちゃんが作った。紅葉さんから合格を貰ったかえちゃんが嬉しそうにしていたので、頭を撫でてお祝いしてあげた。
「おっと、そろそろ行かないとね」
「名残惜しいですけど~、またです~」
「お父さん、お母さん、行ってらっしゃいです」
「また今度お会いしましょう。一咲義父さん、紅葉義母さん」
車に乗り込む二人に別れの言葉を告げると、二人揃って面食らっていた。ほら、早く行ってくださいよ。恥ずかしかったんですからね!
そのまま車は走り出し、見えなくなるまで僕達は見送った。
「行っちゃいましたね」
「うん。僕達も帰ろうか」
「はい」
僕達は手を繋ぎ扉を開けて、家に戻った。かえちゃんの左手と、僕の左手の薬指には、それぞれ婚約指輪が輝いていた。
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