第一話 楓ちゃん、指輪を眺める
アフターストーリー開始です。
あやくんと婚約を結び、お部屋までお姫様抱っこで連れて来られたわたしは、左手の薬指にはまっている指輪を眺めていました。
(あやくんと、婚約しちゃいました!)
こみ上げる嬉しさを抑えきれず、わたしは制服のまま身悶えしました。はぅぅ、今日は記念日です!
(あやくん、大好きです♪)
テンションが上がってきて、自然と踊っていたのですが、締め切っていなかった扉が開いてしまい、あやくんに奇行を見られちゃいました。
「かえちゃん、創作ダンスの練習かな? 可愛くていいと思うよ?」
「はぅぅ!」
「指輪をしまうケース渡しておくから、寝るときとか使わないときは入れておいてね」
あやくんはわたしに小箱を渡すと、ゆっくりと扉を閉めました。はぅぅ、見られちゃいました。羞恥にしゃがみ込むと、履いていたルーズソックスが脱げかけていることに気付きました。踊っていたのが原因でしょう。気付いていたらあやくんに変な踊りを見られなかったと思うと、ますます恥ずかしくなりました。
(はぅぅ、せっかく教えてくださったのに、すみません)
そのまま脱いで、丁寧に畳みます。あとでお洗濯するためです。そうして、いつもの長さのを取り出して履きます。
(これでも、わたしの身長より長いんですけどね)
靴下の形を整えたあと、制服を脱いでお着替えします。この靴下と制服だと落ち着きませんから。私服に着替えたあと、指輪をどうするか悩みます。
(あやくんが身に着けているのに外してたら、印象悪いですよね?)
その逆も考えられますので、ひとまずは着けたままあやくんのお部屋へ向かいました。
「すみませんあやくん、ご相談があるのですが」
「何かな? 何でも言っていいよ。僕のフィアンセなんだから」
「はぅぅ、旦那様///」
「......照れちゃうから普段はこれまで通りにしよう。それで、相談って?」
「はい。実は指輪のことなんですが」
あやくんに相談すると、何度か頷いたあとでノートを取り出しました。あの、そのノートって確かわたし達の進展を書いてたものでは?
「そうだよ。これに指輪を着けるルールを決めて、書いておこうかなって。そうすればどっちかが着けてないことで、余計な気を使わないで済む。別に罰則はないから、着けるのは全然構わないけど」
そうして二人で話し合って決まったルールは四つでした。
一つ、一人及び二人での外出時は身に着けておくこと。
二つ、家事のときや木彫り、寝るときは外しておくこと。
三つ、高校には持っていかないこと。
四つ、なくした場合正直に告白し、探して見つからなかった場合二人で新しく買いに行くこと。
これらを読むと、基本的にお外でのお買い物やデートのときしか着けられないということがわかります。
「家の中で着けたら駄目ですか?」
「別にしててもいいけど、洗い物してて流しに落としたり、掃除中にゴミに巻き込んだりしたらまずいからね」
「はぅぅ、なんかすごくあり得そうです」
「まあ何もしてないときはいいと思うよ。僕だって出来れば身に着けたいし。ならもう一つ追加しよう」
五つ、上記以外の場合は基本的に身に着け、着けた際は伴侶に一声かけておくこと。
この場合の一声は、メッセージでも構わないそうです。といいますか伴侶って、確かに間違ってないと思いますけどちょっと照れ臭いです。
「これならいいよね」
「そうですね。ちなみに、今日の場合はどうなりますか?」
「ご飯までは着けておこうか。ところでかえちゃん、靴下いつもの長さのやつにしたんだ」
「わかりますか? 長い方がたくさん弛ませられて可愛いんですけど、洗ったり干すのに苦労しますから」
「いや、それも充分苦労するからね!? まあ慣れたけど」
はぅぅ、怒られちゃいましたけど、気付いてくださいました。それに、大変とわかってもやめさせない辺りあやくんってお優しいですよね。
「そりゃあ、あれだけ集めてたらね。僕の木彫りに負けないくらいは心の支えになってただろうし」
「それは確かにあります。前髪のこととか、背のこととか色々言われたとき、家で履いて嫌なことを忘れてましたし」
「ねえ、言ったやつのこと覚えてるなら復讐するよ?」
「そんな爽やかな笑顔と声で怖いこと言わないでください!」
「冗談だよ」
あやくんの場合前科がありますので、本気で復讐してしまいそうです。過去にそういうことをされた方に会っても、見せないようにしませんと。
「そんなことよりもかえちゃん、せっかく婚約者になったんだから、二人きりでいるときはもっと触れ合おうよ」
「触れ合い、ですか?」
「そう。例えば僕の膝にかえちゃんが座るとか」
想像してみます。あやくんの膝の上にわたしが座ります。そうなるとあやくんの両手が自由になります。その両手は自然とわたしを抱きしめ――はぅぅ!!
「恥ずかしいです~!!」
「えー、靴下履き替えさせるときしてるじゃない。あれがいつもになるだけだって」
「はぅぅぅぅ!!」
「とにかく、抗議しても駄目。こういう触れ合いで照れてたら、いつファーストキス出来るかわからないからね」
ファーストキスという言葉で、わたしは限界となり、あやくんの胸の中に飛び込むように意識を失いました。はぅぅ、婚約してもわたしってだめだめです~。
お読みいただき、ありがとうございます。