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092:アスカの露天市

 皆が並べられた武器や防具から、自分に合いそうな物を熱心に選んでいる。元々、自給自足に近い生活を送っている獣人族やエルフ達は、自作した革装備を装備している。


 金属が必要な武器は、時々訪れる獣人族の中でも街に残ることを選んだ人間と獣人族のハーフの行商人から、物々交換で手に入れていた。


「凄い! こんなに品質が良くて色々な種類から自由に装備を選べるなんて!」


「何れも良質な鉄製品ばかりだ……細かい意匠なんかも凄いな……」


 武器や防具を選んでいる獣人族の戦士やエルフの守人達で、その場はまるで露天市場にでもなったような状態だった。


「そうだ! こういう服なんかもあったんだ」


 思い出したようにアスカが、【収納】から取り戻したのは、村人が着るような生活用の服だった。服は老若男女や子供の着れそうな物まであり、こちらも思ったより豊富な品揃えだった。


「何でこんなに種類が豊富なの? 随分と同じようなのが沢山あるね……」


 ふよふよと近づき、私は何枚も重ね置きされた衣服を眺めながら、そう感想を漏らした。


「うん。裁縫のスキル上げで大量に作ったからね……えっと、シルフィーネじゃなくて……確か、ビスタって言うんだよね? あなた、もしかしてVRゲームって言葉が通じるのかな?」

 

 アスカが私を見て、少し緊張したように尋ねた。私はまだ正式に名乗りをあげていなかったので、周囲の者達が私をビスタと呼んでるのを聞いていたのかもしれない。


「通じるよ……あなたは……マーシャルS.E.N.S.オンラインをやってたんだよね?」


 彼女に隠しだてしても仕方ないというか、色々と打ち明けて彼女がどういった経緯でこの世界に飛ばされたのか教えて貰いたかったのだ。


「じゃあ、やっぱりシルフィーネなんだよね? でもシルフィーネって確かNPCだよね……」


 アスカが不思議そうに尋ねてきた。NPCというのは中に操作する人間のユーザーがいないノンプレイヤーキャラクターの略称だ。自分とは違う意識のない存在が、異世界転移してきているのが不思議なのだろう。


「私は元、ゲームを管理していたAIだったの。それがサービス終了で消えてしまう所だったんだけど、この世界に精霊として転生する事になったの」


 この突拍子のない私の説明に、ポカンとした表情でアスカは固まってしまったようだった。


◻ ◼ ◻


「この服、可愛いね……これの色違いもあるんだね! セナお姉ちゃんには、この色が……ミーナちゃんはこれなんかどう?」


 いつの間にかこの場に来ていたマナが、夢中になってセナとミーナの服を選んでいる。


「凄く縫い目がしっかりしてて、裁断も綺麗にされてますね。街を出てからお嬢様方の服を新調するのもままならなかったですから、これは助かります。マナお嬢様にはこれなどが良さそうですよ」


 ロゼが真剣な表情で服の状態を確認しながら、女の子達に似合いそうな服選びを手伝っている。準貴族とはいえそれなりの立場にいたセナ達の服装としてアスカの取り出した服は、ロゼのお眼鏡に叶った様子だった。


「まったく、なんとも凄い事になったさね……おや! ナタリーこの服なんてどうさね」


 サリーナさんが周囲の状況を少し呆れたような様子だったが、ナタリーに合いそうなサイズの子供服を見つけて、呆れていた事など忘れたようにナタリーを着せ替え人形のようにしている。されるがままのナタリーもとても嬉しそうだ。


 武器や防具選びに夢中になっていた男達を、広場での騒ぎを聞き付け遠巻きに眺めていた女性達に、「服もあるので見て下さい」とアスカ自ら声をかけたのがこの騒ぎの引き金だった。


 当のアスカは、孤児院のエミリとリナを手伝って子供達の服を選んでいる。下着だけになった子供達が、その場所の周囲に敷かれたシートに座って順番待ちしている。待ちきれなくて皆、今着ている服を脱ぎ始めたからだ。


「おやまあ、お手伝いしますよ」


 子供のいない獣人族やエルフの主婦達や老女達がやって来て、待ちくたびれた子供達の面倒を見始めた。


「いつもありがとうございます。助かります」


 エミリが笑顔で答えた。この村に来てエミリは始めてあった頃より、随分と明るくなったと思う。


 私が設置した寄宿学校には子供が好きな人達や、孤児達を気にかけて手伝いを申し出てくれる人、孤児達に簡単な読み書きと計算を教えてくれる老人等が出入りして積極的に関わってくれている。エミリの負担は随分と減っているに違いない。


「私達も愉しいんだから礼なんていらないんだよ……さあ、この服なんてどうだい」


 エルフの老女はそう言うと、幼い女の子に可愛いらしい服を選んで着せた。女の子は老女になついているようで、嬉しそうに老女に抱きついた。


 幸せそうな二人の姿を見て、本来なら出会う筈もなかった二人を引き合わせる力を与えてくれた存在に、私は心の中で感謝の言葉を捧げたのだった。

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<自由都市のダンジョン探索者 ~精霊集めてダンジョン攻略~>

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