091:アスカの依頼
この不思議な少女を皆が戸惑いを持って受け入れる……と思っていたが、特に心配する様子もなく、ごく自然に皆から受け入れられていた。
「アスカ、つよいねえ」
ミーナが感心したようにアスカの戦いぶりを誉めている。エリスが、父親のサザン族長に話をしていて、族長が頻りと頷いている。アスカの強さを報告しているのかもしれない。
「ミーナも素早くて良い動きだったよ! 助かっちゃったよ! それに変わった武器も持ってるよね」
二人はいち早く共闘を行い、声を掛け合いながら連携して戦っていたらしい。それにアスカはミーナの使う特殊電撃警棒が気になっているらしい。
「うん、ビスタにつくってもらったよ」
そう言ってミーナは嬉しそうに、警棒をアスカに見せた。
「ちょっと違うけど……ゲームで配布された物に似てるなあ」
アスカの声はゲーム云々という辺りから呟き声になった。皆にゲームと言っても説明が難しい事を理解しているのだろう。
「私も似たような物を持っているよ……う~ん、【収納】に無駄に肥やしになってる装備品が邪魔だなあ……初心者パックを知らないで開けまくってたからなあ」
アスカがぶつぶつと独り言を呟きながら、目的の物を探しているようだった。私にはこの呟きだけで、アスカのアイテム欄の状況を想像できた。
初心者パックというのは、ゲームを始めたてのユーザー向けの課金要素の1つで、ゲームをやりたいが、装備作りに時間をかけられないライトユーザー向けの救済パッケージだった。
もちろんゲーム内のバランスを崩さないように、高難度クエストやエンドコンテンツといった素材を集めて製作した装備品にはまったく及ばないが、その素材集めに使用する武器や防具を準備する時間を課金によって省略しようと言うのが目的だった。
何をするにも準備に時間がかかるゲームだったのだ。アスカのアイテム欄が使わない装備で溢れているのは、デザインを変えたお洒落装備が、色々と提供されて人気が出た為に、集金手段として運営が定期的に販売したからだろう。
「あ~、邪魔っ」
アスカはアイテム欄にずらりと並んだ初心者帯向けの装備を、シートのような物を敷いて並べだした。
「おい、嬢ちゃん……すげえな。武器商人か何かなのか?」
アスカにとっては、自分が使わない低レベルの不要品にすぎないかもしれないが、この世界の住人にとっては違った。アスカが取り出しているのは同じような物が収納に沢山あるので本当に邪魔なだけの装備品なのだろう。
「えっ⁉ 違うよ。でもこのくらいの装備なら私が採取した素材でもまだまだ沢山、作れるかなあ。素材も捨てるほどあるから、必要な物があれば好きにして良いよ。但し、今この場で装備するのが条件ね」
アスカのその言葉に、「おい、本当に良いのか? こうやって見てるだけでも、かなり品質の良さそうな品ばかりだ……都市とかに持って行って売り捌けば、かなりの収入になると思うぜ?」
周囲の者達も、「さすがに、こんな良い品を無料ってのは……」と遠慮している。
アスカも皆の考えに納得したのか、暫く考えていたが、おもむろに話し始めた。
「要は無償っていうのが不味いんだよね……なら、私に協力してくれる報酬の前払いというのでは、どうかな? ここにある装備で、皆の攻撃と防御が上がるのなら、私にもメリットがあるし」
アスカの言葉に皆がざわつき、皆を代表して、今度はサザン族長が前に進み出た。
「その条件とやらを教えてくれないかね。無茶な依頼でなければ、皆喜んで協力するだろう。我々はビスタのお陰で食糧の問題は、この村に関してだけ言えば見通しがついた……だが現状、武器や防具の調達までは手が回らなくてな。この問題もその内ビスタが解決してしまいそうだが……ワシらの労力が役に立つというなら願ってもない事だ」
多くの事を私が解決に導いた事に、皆が気にしているとは思っていたが、少しやり過ぎたのかなと考えてしまった。
「サザン族長、今は魔族なんていうもんが攻めてきている非常事態だ。そんな状態じゃあ、力のある者に頼る事の何が悪い。俺達は全てを失って半ば絶望の中にあった。ビスタに助けられ俺達は気力を取り戻した。今は力を付ける時だ、そしてこれからは困ってる者達を助けるそれでいいじゃねえか」
ガルフが気力を失っていたようには思えなかったが、彼にも思うところがあったのかもしれない。
「ああ、もちろんだ。ビスタに強くなる方法を願い出たのはワシも同じだ。誤解のないように言っておくが……ワシもビスタの協力に恥じない働きをしたいだけだ。誤解を招いたのならすまない……」
サザン族長が、そう謝罪気味に言って、その場は収まったように思ったのだが――
「あのう、簡単に装備を差し上げるとか言って済みません! 皆さん苦労されているんですね……」
アスカがこの場の会話を聞いて、多少はこの世界の現状を理解したのか、素直に謝罪してきた。
「なに、嬢ちゃんが謝るような問題じゃねえよ……それより依頼の話だ! どんな内容なんだ?」
ガルフのこうした前向きの態度には、いつも救われる思いだった。それはアスカも同じだったようだ。少し気落ちした雰囲気から立ち直った彼女は――
「はい、実はさっきの村で、私の成長は行き詰まってしまったようなのです。私一人きりでは、その壁を越えるのは、困難のようなのです。だから、私の仲間になって、この困難を共に越える事に協力して下さる方を募集します!」
アスカの、何処かゲームのユーザー達がよく行っていた、高難度依頼に挑む際のパーティーメンバー募集のような呼び掛けに――
「よし、その話し乗った!」
ガルフが、威勢の良い掛け声をあげた。それに呼応するように、サザン族長やエリス、そして、獣人族やエルフを問わず、次々と参加の声が上がった。広場には、いつにない活気が拡がったのだった。




