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086:デリム村からの撤退

『オークの魔素数値が1000前後だから皆よりも格下だけど、大柄だしリーチの長い武器を持っていて厄介な相手よ……一対一で戦う場合は無理に接近せず魔法で対処して!』


 私は【鑑定】で得たオークの強さを知らせた。特技としては特筆すべき物はないようだが、戦う上で大きいというだけで相手より有利なのは間違いないのだ。


『わかったよビスタ!』


 ミーナが短く返答し、姿勢を低くして武器を抜いた。ミーナの手には、以前【収納】する事で手に入れたレシピで作った特殊電撃警棒が握られている。


 網の素材のみで製作可能だったのだが、代替案で精霊樹の枝と網の素材を使う事で、貴重な勇者から間接的にではあったが、手に入れた素材の使用量を3割にまで減らす事が可能だった。


 魔石から魔力を取り込む機構の部分にのみ網の素材を使用する、謂わばハイブリッド品と言っても良かった。勇者の素材のみで作った品と比較してみると、残念ながら強度では劣ったが、電撃の射程が伸びる事が分かった。


(近接武器というよりは小型の魔法の杖として使えば、強度の問題はクリア出来そうね)


 相手が長物持ちだと知り、普段の短剣ではなく電撃警棒を握ったミーナは、オーク相手に接近戦闘をするつもりはないようだ。素早く冷静な判断を下したミーナに安心した私は、少し高度を上げ周囲の様子を再び観察する。


『後方からも十匹程が近づいてくる……あの子が対処しているオークを始末したら撤退するように言って!』


 加勢する為に素早く動いた5人に【心話】にて注意を促した私は、一旦後方に下がるとデリム村を囲む木の柵の途切れた入口らしき場所から出て、柵の裏側の側に生えていた木に隠れるように陰になった場所に石門を設置した。


「ここまで慎重にする必要はないかもだけど、一応、ここは敵地だから……何が起こるか分からないからね」


 精霊樹の村の住人以外には石門は見えず、薄い霧が漂っているようにしか見えないだろう。霧には結界の効果もあるので平地に無造作に設置しても普通の人間や魔物が相手なら発見される心配はなさそうだった。


「でも、魔族が心配よね、ナノ粒子なんていう物を利用する相手に結界を過信する訳にいかない……」


 街で聞かされたジェノア監察官の言葉が、私の頭の中に常にトゲのように刺さっていた。そのトゲの痛みが私の油断を常に戒めてくるのだ。


(私の力はこの世界に馴染むように修正されている……という事は私が使うこの力は誰かが既に産み出した技術に寄っている可能がある)


 私にアドバンテージがあるとすれば、システム管理AIという特殊スキルとそれに裏打ちされた膨大な情報管理能力……大雑把に例えるなら、優秀なハードウェアという入れ物に、私という膨大な情報を持つソフトウェアプログラムが、上手く噛み合った状態というのが適切な表現かもしれない。


『セリエ、石門を新しく設置したわよ』


『皆さん、仮想ダンジョンで探索中でしたが、戦闘中以外のパーティーは即座に撤退して来ています』


 セリエからの返答に、中断させた事を申し訳なく思いながらも、状況は刻一刻と変化しているので、あまり悠長に構えている余裕はなかった。


『ビスタさん……彼女凄く強いです……皆を急かす必要はないかもしれません。ミーナとの即興の連携であっという間に、3匹のオークが倒されました……エリスとロゼ、そして私とヤンは麻痺と睡眠で、行動不能の相手を倒しただけです』


 セナから驚きの【心話】が届いた。どうやら二人の連携がかなり強力に機能しているみたいだった。


 ミーナの特殊電撃警棒を使った素早い動きの攻撃が、付与魔剣士というゲーム時代はパーティーでは不遇職で、ソロ向きと言われた職業のプレイスタイルにマッチしたのかもしれない。


『……あの、もしかして彼女は勇者の関係者の方なのでしょうか?』


 彼女について何も詳しい情報を伝えていないセナが、鋭い洞察力で真実に迫るような質問をしてきた事に、私は驚かされた。


『どうして、そう思うの?』


 私は【鑑定】の結果と彼女の容姿と名前から、彼女を転移者ではないかと推測した。セナの事は信用しているが、この事は彼女にとって、とても大切な事なので私の口から勝手に話すのは憚られた。


『戦闘後、撤退を勧めようとした私達に「ここは現実の世界なんだよね?」と尋ねられて、「突然、この場所から少し行った森の中に立っていた」と仰っていますので……あ、一旦この場所を撤退する事を了承して下さいました。そっちに向かいます!』


 私が少し上昇して様子を伺うと、6人がこちらに向かってくるのが確認できた。後ろからオークが接近して来るのが見えたが、オークは鈍重らしく走るのが皆の方が圧倒的に早かった。


「こちらの陰に! その石門に入って!」


 私は彼女を取り敢えず、精霊樹の村人として登録した。奇妙な石門にミーナ達が入っていくのを驚いた様子だったが、迷うことなく石門に飛び込んだ。


 精霊樹の村では、ガザフやサザン族長がそれぞれの部隊を率いて待機していたようだ。


「おう! ビスタ達、戻ってきたのか。その様子を見ると無事に撤退出来たようだな!」


 急に呼び出しておきながら無駄足を踏ませた私に、一言も文句を言うこともなくガザフがそう声をかけてきた。


「ごめんなさい。思ったより彼女が強かったので、上手く敵を撒くことが出来たの」


 私が彼女を見ながらそう答えると――


「皆さん、助けて頂いて、ありがとうございます。私、名前をアスカと言います。実は……気がついたらこの近くの森の中に立っていたんです」


 子供らしくペコリと頭を下げるとアスカと名乗った少女はそう告げたのだった。

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<自由都市のダンジョン探索者 ~精霊集めてダンジョン攻略~>

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