084:デリム村へ
「今日も良い天気だね~」
昨日の族長とサリーナの話のショックから立ち直った私は、今日は朝早くから港湾都市へ向かう街道を一人でふよふよと進んでいた。
「カヤック、張り切ってたな。今頃は池の浄化をしてるだろうか? イサヤはナマフの料理方法をロゼや精霊樹の村の女性達に指導したいとか言ってたから、もしかしたら夫婦でナマフを捕まえてたりするのかな」
あれから二人に石門を通って、入江や孤児院を経由して難民街に簡単に出入りできる事を示し、仮に都市側が彼等を都市から出さないと考えたとしても何とでも出来る事を示した。
二人の表情は希望で少し明るくなったように思う。彼等は何も言わなかったが薄々、都市側の思惑について心配していたに違いない。それは、二人の既に解放されたような表情からも読み取れた。
カヤックは池の浄化作業に戻ると言ってやって来た石門から戻り、イサヤはサリーナに誘われて、女性達との交流を深めたいと言っていた。
「あんな寂しい場所に他の魚人族の仲間から引き離されていては、息子のヤナクだけではなくイサヤも寂しかったに違いないよね」
他愛のない世間話から、最近では精霊樹の村で魚料理が流行っているという会話になり、イサヤがナマフがきちんと処理さえすれば美味しく食べられる食材である事を伝えると、ロゼ達女性達が早速食いつき調理方法の議論が熱心に交わされたのだ。
私が様子を見に行った時には、息子のヤナクは精霊樹の村の池で子供達と夢中になって遊んでいた。
「なんにしても、あの家族が村に馴染んでくれそうで良かった」
エルフや獣人族が、排他的な種族でなくて良かったと思う。人間に対しては多少の警戒心があるようだが、それは人間側の問題であって信頼出来る相手だと分かれば普通に受け入れてくれそうだ。
「はあ、さすがに都市ミザレの日帰り圏内は冒険者達によって魔物の駆除が進んでいると言うのは本当のようね。居ない訳ではないけど滅多に見ないね」
ミーナやセナ達も一緒に来たがったが、今日のところは安全だろうから様子見という事で私が一人でふよふよする事になったのだ。
ミーナ達は自警団員事務所でリサに合って、デリム村の避難した人達の消息をデリム村出身らしいリサに確認した後、草原でフォレストラビットの駆除という大切な仕事があるのだ。
「皆がいないと退屈ねえ……でも分担しないとね」
やる事が徐々に増えてきた私達は、ある程度皆で役割分担しないと1日があっという間に過ぎてしまうのだ。
私達に差し迫って危機が迫っている訳ではないのだが、やはり一番重要な課題は早く強くなる事だった。こればかりは、力が必要になった時に慌てても遅いからだ。
「それに都市の冒険者ギルドで聞いたCランク帯からの壁が気になるのよね……私達のレベルの基準から考えると、レベル10以上……当然求められる魔石が変わる可能性があるのよね……つまり手頃な魔物を探す必要が出てくるかもしれない」
ゲームであればレベル上げの導線のような推奨狩り場が存在するし、情報がどんどん出てくるものだが、現実世界にはそんな物は存在しない。もし闇雲に新たな狩り場を求めて失敗すれば大怪我、いや命に係わる問題なのだ。
「幸い、このギルドでレシピを手に入れた総合魔素数値を測る装置が思ったより融通が効いてくれて助かったわね」
ギルド嬢の目を盗んで【収納】した際に私のアイテム欄から【合成】が可能になったのはこのゴーグルのような物だった。
「勇者がらみの網の素材のお陰で軽くて負担にならないのも良いよね……【鑑定】」
森の中に見えた狼の魔物を【鑑定】してみると――
《名称》フォレストウルフ
《種族》獣系統
《評価ランク》F相当
《総合魔素数値》300
《特技》【噛みつき】【突進】【仲間呼び】
数値化されてゴーグルのレンズに情報が表示された。
「さっき都市の側の森で見かけた奴と同じ魔物だけど数値が高いし特技に【仲間呼び】なんていう厄介そうなのが……さっきのは200程度だったし、やはり同じ魔物でも強さに個体差があるようね。そしてデリム村に近寄るほど魔素が濃くなっているから魔物も強くなると」
強くなった原因に関しては推測に過ぎないが、それは更に移動すればおのずと答えが出るだろう。
「これ、ミーナ達やガルフ、エリス辺りなんかにも渡した方が良さそうね。初見の魔物に対峙したときに素早く撤退するかの判断が可能になる。そう考えるとセナ辺りが適任ね……ミーナは感覚的に相手の強さが分かるみたいだけど」
セナは司令塔的な役割担う事が多く、ミーナもセナの指示に従って動く事を自然に受け入れていた。
「なんにしても数値化されるのがありがたわね、元々の私の【鑑定】だと赤ネームだから格上の相手とかはわかるけど、どの程度格上なのかまではわからないし、適正な狩り場を探すのにも一役買いそうね」
そう言うと少し移動のペースを上げる為に高度を上げて先を急いだのだった。