080:ミザレの魚人族一家1
ロゼの知り合いらしい魚人族の女性は名前をイサヤと言い、夫と息子のヤナクと三人で都市ミザレに住んでいるらしい。
魚人族というのは、肌の色が少し青く髪の毛が白いのが手足にあるヒレのような物があるのが特徴であるが、それを除けば遠目に見かければ肌色が違う人間にしか見えなかった。
「さあ、こちらです」
私達はロゼの知り合いという事で、彼女達の暮らす場所に招待して貰うことになった。因みに私の姿も見えるようだった。
噴水があった公園を出てから中央通りらしき場所から都市の表通りを外れると、美しかった町並みから少しずつ雑多な下町の雰囲気のある狭い路地裏に出た。
更にそこを抜けると、都市の壁がすぐ側に見える人気のない周囲を小さな木々に囲まれた寂しい土地に、ポツリと一軒のとても小さな平屋の木造の建物が見えてきた。
「都市ミザレにもこんな場所が残っているんですね」
セナが感心したようにそう呟いた。都市の外れとはいえ、公園でもないのに木々が残っている事が不思議だったのだ。
「はい、不思議に思われるのも無理はありません。実は私達が住むこの建物の裏手に池があるのですが、その池があるお陰で池の周囲の木々がそのまま残されているのです」
建物と木々に隠れて見えなかったが、家の側まで来ると確かに思っていたよりも大きな池が木々に囲まれてそこにあった。
「実は、私達はこの池の管理を任されていて、その報酬としてこの建物を与えられて住み処とさせて頂いています」
どうやら池の管理人として、この場所に住んでいるらしい。
「この池は城壁外から流れ込む川を水源としていて、都市ミザレが豊かな水に恵まれているのはこの池のお陰でもあるのです」
都市にとってとても重要な場所のようだった。だが、それを聞いて更に私は不思議に思った。
「失礼かもだけど……そんな貴重な水源をよく余所者が管理する事を都市ミザレの領主が許したよね……」
言っていて本当に失礼だなと思ったけど、魚人族が争いを好まない穏やかな種族だとは聞いていたし、余計なお世話かもしれないが、さすがに危機管理という面では不味いのではと思ったのだ。
「そうですね……私達がここに来た時のこの池の水質はかなり悪い状態だったのです。そこでやむなくこの都市に滞在していた私達に、都市の役人様から相談があり、その問題の解決に手を貸したという訳です」
「なるほど、魚人族が水属性魔法が得意というのは良く知られているので、そのような依頼が舞い込んだという事ですね」
魚人族と知り合いなだけに詳しいらしいロゼが訳知り顔でそう呟いた。
「はい、水の浄化魔法は私達の得意とするところですから……あら主人のカヤックが戻ったようですわ」
池から現れた魚人族の男性は、私達がいる事に驚いた様子だったが、ロゼに気が付くと嬉しそうに挨拶してきた。
「これは……ロゼさんではありませんか! よくご無事で! そちらのお嬢様方はもしかしてセナ様とマナ様ですか?」
カヤックはセナとマナを知っているらしく、二人に丁寧に頭を下げた。
「私達の事をご存知なのですね」
セナの方ははっきりとは面識がないらしく、少し悩みながら「港でお会いしたかしら、ごめんなさいあまり記憶が……」と、困惑したように応対している。
「お気になされず、きちんとご挨拶した訳ではありませんから……ロゼさんとご一緒の所を何度かお見かけしただけですから」
セナに謝罪され逆に恐縮したようにカヤックは頭を下げた。
「あなた、立ち話もなんですから、家にご案内しましょう」
イサヤにそう促され、私達はその都市ミザレにあるとは思えないような田舎の農村にあるような建物にお邪魔する事になったのだった。




