064:図書室
「それじゃあ、エルフも獣人族も魚をあまり食べないのね?」
私は寄宿学校の様子を見にきたエリスとサザン族長、そしてガルフとサリーナの二人から話を聞くことが出来た。
他にも二人の子供であるシンとナタリーや他の精霊樹の村の子供達も付いてきている。子供達の目的は、新しく出来た寄宿学校でのお泊まり会を開くつもりのようだった。
寄宿学校の一階部分は教室スペースの他にも板張りの広い部屋が一つあるので、今日は仲良くなった孤児院の子供達と親睦を深める事も兼ねてという事らしい。
さすがにこの人数をエミリとリナに任せきりにするのはあまりに酷なので、何人かの精霊樹の村の大人の女性達も一応、保護者として参加しているようだ。
「世界樹の森は小さな泉や地下水は豊富で水源に困るという事はなかったが、側に川や池はなかったのでな……我々には漁の知識はないのだよ……ところでその……例の部屋というのはあそこかね?」
部屋から嬉しそうに本を抱きしめて出てきたセナを見たサザン族長が、私の質問に答えた後、そう尋ねた。
サザン族長が訪ねてきたのは、寄宿学校の様子を見にきたという理由も当然あったが、この建物にある図書室が目当てに違いなかった。
この場所に子供達だけでは大人達も興味を持って貰いたかったので、建物内の施設について説明したのだが……図書室という言葉にエルフの長老達とサザン族長が殊の外、強く興味を示したのだ。
寄宿学校の図書室は、大図書館という程の規模ではなかったが、10畳程のスペースに棚が並び、壁際にも本が大量に並べられている。奥には簡易的なパーテーションで区切られた机と椅子もあり読書スペースも確保されている。
初めてこの部屋を見たセナの喜びようと、蔵書を確認して「凄いです!」の言葉しか出てこなくなった様子を見ると、内容もかなり充実しているようだ。
「そうだよ……気になるようだから先に見てくれば?」
「そ、そうだな……本など久し振りでな……済まない少し見せて貰おう」
私のちょっと呆れたような言い方に、少しばかり恥ずかしそうにしていたが、好奇心には勝てなかったようだ。族長はそそくさと図書室に消えていった。
「もう、お父様……」
エリスが呆れたように言いながらも、どこか嬉しそうなのは隠れ村で再会した時の族長の力を落とした姿から、元気に回復した今の様子を見てホッとしているからかもしれない。
「ハハッ、エルフ達は長生きな探求心が強い者が多いんだが、あんなサザン族長の姿を見れる日が来るとはな! これもビスタ、お前さんのお陰ってもんだぜ!」
ガルフは呆れるよりも、サザン族長の元気な姿を見れたことが愉快で堪らないという様子だった。
「本当さね、エリス良かったじゃないかね」
少し涙ぐんでいる様子のエリスの背中を、サリーナが優しく撫でている。
「話はもどるが、俺達も漁に全く興味がないという訳でもないんだが……今のところ平原ダンジョンでの狩りや、森からの恵みを採取する事で当面の食料確保は何とかなりそうなんでな……まあ今は手がまわらないという事だ。それに魚を捕る道具もねえしな」
精霊樹の村は新しく出来たばかりの村だから、例え施設が私によって揃えられて入れ物は用意されたといっても、そこで実際に生活するには決めなければならない取り決め事は意外に多いようだ。
それに、同じ世界樹の森といってもまだ慣れない場所になので、森のどこでどんな物が取れるのかなど人手を使っての調査も忙しい。
「漁で思い出したが、ここに来たときに見つけた精霊樹の森を抜けた場所にある入江の砂浜も、同じ理由で手つかずの状態だからな……」
恐らく精霊樹の森が霧によって隠された時に、その結界に巻き込まれでもしたのかもしれないと思われる、ガルフの指し示す方角の先にあるという入江の砂浜については私も興味はあったが放置したままだった。
(海水があれば【合成】で塩なんかも出来そうだし……)
岩塩等の採掘もあるらしく致命的な問題にはなっていないようだが、港湾都市カイエスブルグからの流通の停止で塩の値段も上がって来ているようなのだ。
「そういう事なら、港湾都市の出身の子供もいるから、孤児院の男の子達に手伝って貰って私の方でなんとかするわね」
私の言葉に、ガルフは、「ああ、子供とはいえ経験のあるものがいるのは、こちらとしても有難いぜ」と、何処まで本気なのかニヤリと笑いながら答えてきた。
「そうね、皆が驚くぐらいの沢山の魚を食べさせてあげるわ」
私はちょっと意地になってそう答えたのだった。




