058:食糧問題2
「問題は外からやって来る人間が増えすぎて、1日100食分程度の炊き出しじゃ逆に暴動が起こりかねないって事だな」
団長が難しい表情でそう断じた。セナには誰でもよいと言ったのだが、事務所に入ったミーナがトコトコと真っ直ぐ団長の元まで歩いて行き、開口一番――
「たきだし、やめるの?」と、まるで団長を責めるようにそう尋ねたからだった。
「俺が辞めさせたんじゃねえよ……それから、炊き出しは俺の仕事じゃねえんだよ……」
いきなり責められて団長が機嫌を損ねなかったのは、恐らく団長もこの件に思うところがあったからかもしれない。
だからミーナの質問に関係者でもないのに随分と真面目に答えてくれた。
「炊き出しを始めたら頃は、本当に必要としてる怪我なんかで働けない者や孤児達ぐらいしか並ぶ者はいなかったんだがな……まあ今もそういうもの達を優先してはいたんだが……この食糧難でな色々と揉め事が増えちまったわけだ」
単純に不心得者がいるとかいう問題ではないのだろう。それだけ流入してきている者達にも余裕がないという話なのだろう。
街に着いたばかりで生活の基盤が出来ていない者達が増えてきている。そういう事のようだ。
「子供達はどうなるのでしょうか? というかこの街には身寄りのない子供達が身を寄せる事が出来るような場所はないのでしょうか?」
セナが私が気になっている事を汲み取ったように聞いてくれた。
「ああ、なんでも昔エルフが建てたと言われている建物があってな……この難民街が出来たきっかけは都市の外壁の外にその建物があったからだと言われている」
何だか歴史ある建物のようだが、エリスがそんな建物がここにある事を何も言わないところを見ると知らないのかも知れない。
都市に寄り付かない世界樹の森のエルフ達が、街の事を知りようがないのは無理もない事かも知れない。
「噂だが、そのエルフが勇者タカギと行動を供にしているエルフらしくて、都市の領主もその建物には手を出さないらしい……」
何やらまた勇者の話に引っ掛かったようだ……
「その建物に行ってみたいのですが、場所はどの辺りですか?」
その建物にも興味があったが、勇者と行動を供にするというエルフの事が気になってきた。
「ああ、行けばすぐに分かるだろう。街の東の端にあまりこの辺りで見かけない変わった木が庭に生えている建物だ」
そういうと団長はおよその方角を指で指し示したのだった。
◻ ◼ ◻
建物はいつも向かう草原への中央通りを外れ左に曲がった都市の外壁の側にあった。
木の柵に囲まれただけのその場所は、難民街にあっては少しばかり独特の雰囲気が漂っている。
「何だかここだけ何処かの農村の一角を切り取ったような風景ですね……何だか見ていると、とても落ちついた気持ちになります」
セナが予期せぬ場所を見つけて驚いた様子だったが、印象はとても良いようだ。
「外から見てる分には問題はなさそうね……あれ? 誰か来たみたい」
環境の悪い場所を想像していたが、外観だけ見ている分には平和な農家のような場所だったので私が安心していると、建物の玄関から出てきた二人の子供達がかけて来た。
「なにもの?」
「あっ! おにく!」
やって来た二人はミーナと同じような猫耳の5歳くらいのハーフキャットピープルのようだ。二人は良く似ているので双子なのかも知れない。
ここに来るに当たって、処理済みのフォレストラビットを4匹ほど手土産がわりに持ってきていたのを一人が目敏く見つけたようだ。
ミーナが取り敢えず一人に一匹ずつ手渡すと「ありがと!」と元気にお礼を言って両手で抱えると、そのまま建物に入っていってしまった。
「なんか行っちゃいましたね……」
あまりの出来事にセナが呆然として呟いた。私達は暫くその場で立ち尽くしていると、もう一度玄関のドアが開き一人の女性が姿を見せたのだった。