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041:エリス

「エリス、逃げなさい! 世界樹の森はもう駄目だ……魔族どもめ、この地に密かに侵入していたようだ。我々が魔物の群れに戦力を集中している間隙を衝かれたのだ」


 精霊樹の守人の長としてこの地を護ってきた父の表情には、今まで見たことのない絶望の表情が浮かんでいた。


「それでは父上、世界樹は?」


 父は悲しげに首を左右に降るばかりだった。


「私はこれから前線に戻る。戦闘に参加しない者達の殆どは既にこの森を離れている筈だ。お前は今すぐ転移の間に向かいなさい……」


 そう言うと父は部屋を出て行こうとした。


「父上、私も共に戦います」


 私も修業を積み其なりに戦う自信はあった。


「ならん、世界樹の巫女候補としてお前には生きてやらなければならない事がある……余計な事は考えず直ぐに転移に間に向かいなさい」


 父はそう言うと今度こそはもう振り返る事なく出ていった。


「私のやるべき事……」


 私は父に逆らってでも戦いに参加しようかと暫く考えていたが、結局父の言葉に従い転移の間のある洞窟に向かった。


 世界樹の森にあるエルフの村の一番奥にあるその洞窟の奥には、転移の魔法陣が地面に描かれた転移の間と呼ばれている場所があった。


 そこにいたのは風の精霊シルフだった。シルフは世界樹に宿る沢山の精霊の一体で巫女候補の私とも親しいといっても良い精霊だった。


「エリスよく来ました、もう時間がありません。この転移魔法陣もあと一回の起動で力を失うでしょう。あなた一人であれば港湾都市カイエスブルグの近くの転移魔法陣まで飛べるでしょう」


 転移魔法陣は対になる魔法陣がある場所にしか飛ぶことは出来ないし、起動には大量の魔力が必要だった。洞窟内にはかなり巨大な魔石が設置されていて、その魔力で起動している。


「他の逃げだ人達はどこに飛んだのですか?」


 私の質問に、シルフは少し悲しげな表情で、「獣人族の隠れ村にある洞窟内の転移魔法陣に飛びました」と答えた。


「迷いの霧の側にあるあの村に? 確かにここよりは安全かもしれませんが世界樹の森に近すぎるのではない?」


 獣人族の隠れ村は魔族の侵攻が始まってから作られた獣人のみが暮らす村で、迷いの霧の中で隠れるように暮らしている事からその呼び名がついた。


「多くの者達を転移させるのは隠れ村近くまでが限界だったのです。さあこれを持って早く転移魔法陣に乗って」


 私に渡されたのは、世界樹の枝木だった。


「これを育てられる場所を見つけて頂戴……それが私の最後の願いです」


 そう言ったシルフの姿は、少し揺らいで見えた。そして外から何かが壊れる轟音のような響きが聞こえてきた。


「育てる場所と言っても、世界樹の森以外で精霊樹が育つ場所なんて……」


 シルフに巫女候補として託されたとはいえ、この役目は自分に果たせる物とは思えなかった。


「昔、イタズラな精霊によって世界樹の森の一部が霧によって何処かに隠されたという話です。そこを発見出来ればあるいは……」


 まるで雲をつかむようなその話に、私の表情に明らかに不安が宿っている事に気が付いたのだろう――


「お伽噺だと思っているようですが、隠れ村のあるあの霧がある場所は、昔、確かに精霊樹の森だったのです……そのイタズラな精霊の名はシルフィーネと言い、私の愚かな妹のような存在の精霊でした……私も、もう限界のようです。エリスまたいつの日か再会できると信じていますよ……」


 転移魔法陣が起動した瞬間に見えたのは、目の前で光の粒を残して消えていったシルフの姿だった。


◻ ◼ ◻


「目が覚めたみたいね、良く眠れたようで良かったわ」


 長い夢を見ていたようだ。見知らぬ部屋の中でそこに座っているのがロゼだと分かって私はホッとしていた。


「ここは?」


 自分が借りていた宿屋とは違うのは間違いなかった。部屋はとても明るくて白い壁に囲まれた派手さはないがとても清潔な雰囲気の場所だった。


「セナお嬢様は精霊の迷い家と言っておられたけど……ビスタさんの空間魔法じゃないかと思うの。まあ私も不思議な扉を通ってこの場所に連れて来られただけだから詳しい事は聞かされていないのよ」


 ロゼ自身にも多少の戸惑いがある様子だ。ワタシも精霊の迷い家の話は聞いた事がある。森で迷った旅人を精霊が不思議な家に招き入れもてなしてくれるようなお伽噺としてだ。


「ビスタ? それは誰の事ですか?」


 セナお嬢様というのは、ロゼが探しているお仕えしていたという主人の娘達の事だろう。


「えっと、ここに案内してくれた小さな精霊の名前がビスタというのよ。この個室もビスタさんが用意してくれたのよ」


(あの精霊がビスタ……シルフによく似ていたけど別の精霊……あの精霊は私の知らない子のようだ……つまり私の知らない森の事を知っているかもしれない)


「お願いロゼ! その子と話をさせて!」


 私のその興奮した様子に驚いたロゼが、「わかったわ、少し待ってて」と言い残すと、慌てたように部屋を駆け出して行ったのだった。



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<自由都市のダンジョン探索者 ~精霊集めてダンジョン攻略~>

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