水辺に咲く花
湖の辺りに沿って壁門までは石畳の道が伸びていた。
しっかりと踏み込まれた石畳みだ。アスファルトのように平らで、道端は水捌けのためか側溝が掘られている。馬車が頻繁に通るのだろうか、轍の跡が見られる。
「見通しの良い道だ、門まで真っ直ぐだな」
「この道を通らないと、城の中には入れないわ。一本道よ」
右は深い湖だが左は普通の平地に見える。点々と赤い花が咲いている。10メートル間隔で整然と建てられた柱は人の高さほどある。何のために建てられているのか。
「噛みつき花よ。間違っても赤い花に近付いてはダメ」
「噛み付くのか、花が?」
もちろん答えは分かっている。守りのためだ。
舗装路は馬が歩けば蹄が鳴る。土の上を歩けば音が鳴らないが代わりに獰猛な肉食植物が襲ってくるわけだ。そしてこの一本道は城壁の上から弓を射られたら逃げ場は無い。
「騎士団から守るためのものよ。或いは何処かの国の兵隊かもしれないわね。私たちは何処の国にも属さずにずーっと中立を守っているのよ。何百年も前からね。つまりは独立国みたいなもの」
「国王は賢者様かな?見習いの国の」
「そういうこと」
湖の水面がざわざわとし、ゆらりと大きな影がよぎった。
「あれは?」
「鉄尾ワニよ。近づくと硬い尻尾で叩かれて水底に引き摺り込まれてあっという間に肉片になっちゃうわ」
思わず仰反る。赤い花より断然に恐ろしい。先程の影の大きさからすると優に5メートルはあるだろう。
正面の門が開いた。マリーベルは手を振った。
「見習い魔女のマリーベルです。豊かな魔女のサラアナ様の弟子です」
門番の男は全身鉄の鎧を着込み、長槍を持っていた。
「伏せろおおお」
門番はそう叫ぶと右手を挙げた。
「伏せて!」
マリーベルか鋭く言い放つと同時にうつ伏せになった。俺も慌ててかがみ込む。生贄の鳥頭の縫いぐるみが目の前に転がる。
門番は右手をおろした。しゅっと弓が放たれた。壁文門の上から2人の射手と視線が合った。
ギヤーン
後ろで鳴き声が聞こえた。背中から襲われるところを助けてくれたのだと瞬時に悟る。
振り返ると、100匹の鼠が全て仰向けになって死んでいた。
「19匹の鼠を呼ぶ古代魔術の成れの果てだろ?」
「そうね。ご主人様に従ってついて来ていたのね」
それはぞっーとする。だから鼠は大の苦手なんだ。音もなく近付いてくるのだ。まあ2度とあの魔法は使わない。封印すると決めた。
「魔法の矢だから、1度に全滅ね」
(いやそんな簡単なものなのか)
「火が付いていた訳でも無いだろう?」
マリーベルは両手を広げた。
「だから、ここは魔術師と魔女か住む城下町なの、
100匹のネズミ退治なんて朝飯前なんだから」
とにかく俺たちは門番と射手に礼を言って城壁の中に入ったのだ。