魔術と鼠の関係
〝19匹の鼠を呼ぶ魔術〝は期待以上の効果だった。
なんせ天井の隙間から次から次へと現れた鼠の数は100匹を優に超えていたからだ。
「なんてこった…最悪の光景だ」
鼠たちは黒いホコリを撒き散らしながら、ちゅうちゅうと鳴きながら、そして床や壁を駆けずりまわる。
「うわあ、ねずこうだあ、おまあえたちい、そこをうごくなあ、いまあ、そこにいぐうからな」
一つしかない目玉をギョロリとさせて巨人は玄関に廻ったようだ。
「凄い威力の魔法だわ。拘束の綱が噛み切られる様子がわかる?」
マリーベルは部屋の片隅を指差す。
なるほど、紫色の鎖綱が切れて横たわる。
「これが〝拘束の魔術〝の正体か?」
吐き気を抑えて尋ねる。
「鼠の数があなたの魔法の威力だと思うわ。私の何十倍もあるのね」なんだか急に尊敬の眼差しで見つめてくる。鼠の黒々点々の数が威力の数値だなんて鼠算式に魔力も成長するのかと勘違いしそうだ。
「さあ、行くわよ」彼女が我に帰った。
「裏口があるのか?」
二人は寝室の小部屋の扉を開けて飛び出た。
マリーベルは小脇に魔道書を抱えて、生贄の鳥の頭を俺に押し付けてきた。
「あると思うの?」金髪の髪を翻して笑いかけてくる。
「まさか無いのか?」
キリッと唇を結んで彼女は答えた。
「裏口なんて無いわ。正面からすり抜けるの」
廊下を走り抜けて、広間に出た。中世ヨーロッパの建築の様なゴシック調の柱が立ち並ぶ。
「あなたは凄いわ。だって〝19匹の鼠を呼ぶ魔術〝は古代魔術なのよ。」
「古代魔術?」
マリーベルは頷く。
だからと言って正面から突撃してもあの巨人をなぎ倒すことは到底無理だ。
「古代魔術が使えるのは、この国では…おそらくあなた一人よ。さあ正面玄関よ」
まさに今、あの一つ目のキュプロクスが玄関の扉を開けて広間に入ってこようとしている。
「おいおい、ヤバイぞ」
マリーベルは可愛い笑顔で、魔道書の新たなページの呪文を指差す。
「さあ、あなたなら唱える事が出来る筈よ。ご主人様!」
俺はそのページに描かれた呪文を見て、成る程と思った。確かに強力な魔法だ。それはつまり、例のあの効果が現れると直感した。
躊躇なく自然とその言語は唱える事ができた。なぜなら鼠の呪文に似通った発音だったからだ。
効果は直ぐに現れた。巨人はどしんと倒れ込み、大きなイビキをかいて寝てしまったのだ。