鼠を呼ぶ事にする
「一つ目の巨人が見えたぞ」
そう耳打ちすると、マリーベルは文字通り飛び上がって驚いた。「予定より早いわ、いつもならとっぷりと日が暮れてからじゃないと帰って来ないのに」
俺は目で逃げようと促して扉を開けようとすると、彼女は制した。
「待って、ただ闇雲に逃げ出しても逃げ切れないわ」
「どうして?」
「この家には〝拘束の魔術〝が掛けられているの、強力な魔法なので、巨人を倒すか、それ以上に強力な魔術で打ち勝つしかないのよ」
「それで?」半ば次の答えは分かっている。
彼女はひきつりながらも微笑んだ。
「あなたのたった一つの、授かったスキルが頼りなのです。ご主人様」
「それで?」
マリーベルはキョトンとした。
「それで…とは、ご主人様のスキルでやっつけてくださいな」
「いや、分からないよ?その授かった能力がなんなのか?さっぱり」
「ええええ、選んだ筈よ」
「だから選んでいないって、少なくとも剣は使えない、力もない、魔法は…」頼りない力こぶも見せた、杖を振るう真似をしてみた。
すると、贄の鳥頭がグリンと転がった。
「魔法か!」
「魔法だわ!」
マリーベルは急いで化粧台の引き出しから、もっともらしい魔道書を取り出して、俺に手渡した。
「さあ、ご主人様、この本には初級の魔法しかないけど、〝拘束の魔術〝を解く事ができる〝9匹の鼠を呼ぶ魔術〝の呪文が載っているの。あなたの魔力が強ければこの家から逃げ出せるわ」
「ちょっと待てよ、鼠が出てくるのか?」
俺は天を仰ぐ。何故この窮地でこの異世界でどうして鼠なんだ。子どもの頃に鼠に噛まれて高熱にうなされて以来、大の苦手なのだ。
「まさか、この期に及んで、鼠が苦手とか言わないわよね」
「そのまさかだ。鼠はだめだ。鼠以外なら蛇でも大丈夫だ。他のにしよう。」
「何を言っているのよ。〝拘束の魔術〝が解く事が出来るのは〝19匹の鼠を呼ぶ魔術〝しかないのよ」
「増えてるだろ!」
「だあれだあ。おまえはだあれだあ」
窓の外から巨人の大声が聞こえた。見つかったのだ。
「あああ、しょうがない」
俺はマリーベルが開いたページの呪文を唱えた。見知らぬ言語だが何故だか発音出来た。