ただいま、人間社会
今日あった出来事をつらつらと
駅から徒歩数分の場所にはとある姫様の名前が付いた道がある。
その姫様が何時代の何をした人かは覚えていない。
その道は舗装されておらず自動車が通ることはできない。
何かに導かれるようにしてその道に迷い込んでしまった。甘ったるいカフェオレとクレープを持って。
その道には明かりはなく木々や草が生い茂っている。踏み鳴らされたというだけで舗装されていない道。暗がりの中スマホの明かりを頼りにおぼつかない足取りで奥へと踏み込んだ。
足元が悪く気を付けて歩かないと転びそうだ。
この道は子供の頃通ったはずだが、暗闇と年月ですっかり姿を変えてしまったようだ。
進めば進むほど自分がどこにいるか分からなくなる。木々の隙間から街の明かりが見えるが道を照らしてはくれない。虫や鳥のさえずりが人間社会とは違う場所だとアピールする。
水が流れていた。とても細い川があるのを思い出した。
川の近くで何を思ったか寝そべった。
空には星は見えないが木々がいいアクセントになっている。
一度あくびをすれば大地の一部になってしまったような気がした。地面とくっついたというわけじゃないが、間違いなく地面と同化した。
石や岩は地面の一部だが地面にくっついているわけじゃない。俺だってそうだ。地面にくっついているわけじゃないが俺は地面の一部だ。
そんなことを考えながらあくびをすると今の自分がどこかへ行ってしまうような気がした。
せっかくだから自分の嫌な部分をここに置いて行って新しい自分を迎えたい。そんな考えが芽生えた。
「さようなら、おやすみなさい。今までの自分」
「こんばんは。おはよう。今からの自分」
何かのつきものが取れたようだった。
尻が少し湿りだしたことに気が付いて立ち上がる。
そして、橋に腰を掛けてカフェオレとクレープを交互に食べる。頭の中が甘みと幸せで満たされた。
幼いころこのお店のクレープをたまに食べたことを思い出し懐かしい気分に浸る。
電車の音が鳥や虫のさえずりを遮り少しだけ俺を人間社会に引き戻した。
スマホを通して人と繋がり大地からもらってきた元気を誇示する。
スマホの明かりを頼りに元来た道を戻っていく。
人間が建てた建物が見えて、舗装された道に立ったとき思わず声に出た。
「ただいま、人間社会」