序文
こんな夢を見た。
私の前に気の弱そうな、高校の夏服を着た男の子が現れて言うことには、
「連載版いつ書くの?」
と。思わず飛び起きた。
彼の名前は裏宗伊織。現実世界でただ一人、作者の私だけが知っている。だって今初めて公表したもん。
つまり、彼は彼が登場した作品において、ついぞ一度も本名が明かされなかった。まあ世の小説を見渡してみても往々にしてそういう事例はある。ましてや上述の物語は1万2千字ほどの短編だった。
だけど、私の中には設定だけが残された。彼の本名然り、続々と登場する予定だったヒロイン達然り。いつかは世に出そうと思っていたそれらはスマホのメモ帳や海馬の奥に蓄積され、忘れ去られようとしていた。夢に出てくるほどに。
もういいだろう。
続編を書く気になるのを待つよりは、いっそ構想だけでも世に出してしまおう。例えちゃんとした形にならなくても、それで彼ら彼女らへの供養としてしまおう。
と、もっともらしいことを言ってみたけど、私が楽になりたいだけというのもある。溜め込むのは毒だよね。
こんな感じで、以降も私の気の向くままに文章が綴られることだろう。期待してもしなくても、役に立つことなんて出てきやしまへん。ビール片手に悪酔いしながら昔の恋人との惚気話をかますようなもの。
私はお酒が飲めないので、エッセイを書いた。
とりあえず、「粗筋だけを公開する」というこの企画自体が、記憶の海に沈まずに済んで、ちょびっと安堵している。




