表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は異世界のために戦う  作者: 田中・ラ・彼方
1/3

動く

小さい時からアニメや漫画が大好きだった。撮り溜めしたアニメを見たり、買ったまま読まずにいた漫画を一気に読んだりして休みの日が終わったりなんてことがよくあった。


学園モノや超能力モノも、もちろん好きだったがやはり一番好きだったのは、自分とは全く違う世界で主人公が色々やるファンタジーモノで、魔法や剣を使ったド派手な攻撃で龍や魔王などの敵を倒すシーンが大好きだった。一度でいいからどこか自分のいる世界とは全く別の世界を見てみたいなんて思ったこともあった。だが見る事なんてできないし、そもそも別世界があるなんてことすら思っていなかった。


だが、人生というか運命というか、人間いつ何が起きるかなんて分からないものだとつくづく実感させられた。事実は小説よりも奇なりというが、その通りだ。


まさか自分が異世界に連れてこられるなんて思ってもみなかった。













意識がだんだんとはっきりしていく。それと同時に目を閉じているにもかかわらず自分の部屋が明るいことが分かる。眠い目を無理やり開けても、明るさのあまりに再び目を閉じ布団にくるまる。


「…………自動でカーテンが開くって、嫌だな」


自動で開閉するカーテンなんて一体どこに需要があるのだろうか。夜の八時には閉まり、朝の六時半には開く。そして、宿主の意思とは無関係に日の光を部屋に入れる。なんともありがた迷惑な機能だ。


「…………眠れねえ。やっぱ一回起きたら駄目だ」


部屋が『さっさと起きて準備しろ』と言わんばかりに日の光を部屋に取り込み、備え付けの照明をつけていなくても十分なほど部屋は明るくなっている。もしかしたらあっちよりもこっちの太陽の方が明るいのではないかと思うが、どっちにしろ寝起きの俺にとっては鬱陶しいのに変わりはない。


あまりの明るさにいよいよ観念した俺は渋々ベットから出て伸びをする。ふと窓の外に目をやればおびただしい数のビルと青い空と太陽という景色が、生前、というか前の世界で見た東京の街並みを思い出させ、ひょっとしたら俺は今、東京にいるのではないかと錯覚をしそうになる。


「…………やっぱりこの景色は勘違いするよな」


そんな事がぽろっと口から出たが、気にすることなく窓の外を見続けていると部屋のドアがノックされる。ドアを開けるためにドアノブに手をかけようとするが肝心のドアノブはない。

少しして気が付いた。この世界のドアは全部ドアノブ無しの全自動で開閉する代物だった。慌ててドアの横についているスイッチを押す。ゆっくりとドアが開くと同時に呆れた様子の二人が姿が見えてくる。


「………またお前寝坊だぞ」


「………今何時?」


「8時だよ〜」


もうかれこれ五回以上二人は俺の部屋に来てくれている。


理由は簡単、俺が寝坊の常習犯だからだ。以前はそんなことなかったかが、ここ十日前ぐらいからやけに寝坊が多くなった。自分でもよく分からないが、迷惑をかけていることは事実なので申し訳ない気持ちはある。


だからこそ最近はもう九時には絶対に寝るようにしているのだが、無事今日も寝坊した。


「……………面目無い」


「みんなで決めただろ?七時半には居間に集合って」


俺はこの二人、亮と久留美、そしてもう一人の由美の三人とシェアハウスで暮らしている。この三人も俺と同じように転生させられた人間であり、また彼らも俺同様に使命を与えられてこの世界にいる。


「…………すまん」


「いいよ〜。早く顔洗って、着替えて来て〜。ご飯食べよ〜?」


「はい」


俺は急いで顔を洗い、歯を磨いて着替える。この世界にもオシャレという考えは当然存在しているが、いかんせんオシャレというかファッションに疎い俺はこの世界でも上下ジャージ、もしくはパーカーとジーンズである。もちろん今日はジャージである。理由は単純、そういう気分だからだ。


着替え終わると居間に向かい、四人がけのテーブルに腰掛ける。もうすでに亮と久留美は座っており、由美は料理をしている。

俺以外の三人はジャージを着ない。三人ともちゃんとしたというか、おしゃれな格好をしているとこしか見たことがない。


亮はジーンズをよく着ていて、上はその時々のジーンズの色などで合うものを着ているようで、さらには靴も誰よりもこだわっている。玄関にはあいつの靴が大量に置かれていて玄関を圧迫しているのだが、俺もよく貸してもらうから片付けろとかは言えない。恐らくあいつが一番おしゃれというものに気を使っていると俺は思っている。しかし、なんというか、とにかくかっこいい。高い身長と長い足に整った顔立ちを持っているなんて正直ずるいと思う。


由美はショートパンツを好んでいるようで、ジーンズやスカートなどを着ている姿を見たことがない。上も動きやすそうな格好しかしないし、靴もあまり興味がないようでスニーカーしか履いていない。全体的に動きやすそうな格好しかしないのだ。見た目で判断するのは良くないが、褐色の肌にショートカットの黒髪という外見から勝手に判断してしまうと、似合っていると思う。なんだか運動大好きって感じがする。


久留美は黒のロングスカート姿以外を見たことがない。上もなんだかよく分からないが白以外の色を着ているところを見たことがない。靴は由美同様興味が無いようで、スニーカーもしくはサンダルをいつも履いている。髪は足の付け根あたりまでとかなり長く色も黒い一方で肌は由美とは対照的に真っ白で、もはや病的な白さだ。彼女も亮と同じくらい背が高く、すらっとした長い足と華奢な体つきであり、やはりかっこいい。


ただやはり神が選んだだけのことはある。みんながみんな優しくて、お互いを尊重しているのが分かる。もう良いやつすぎて怖いぐらいだ。


「お前ら早いよな」


「そうでもないよ〜悠介。亮と由美だって起きたの二十分前だし〜」


「………おい、人のこと言えねじゃねえか。………つーか亮、お前目の下にくまができてるぞ?」


「……………最近妙に疲れてな。寝ても全く休んだ気がしないんだ。そういうお前もはっきりとできてるぞ」


「マジで?確かに最近妙に疲れやすいっていうか、寝ても疲れが取れた気がしねえよな」


「やっぱみんなそうなんだ〜。私もなんだか最近体が重くてさ〜」


「みんな大丈夫?」


彼女はそう言って料理を皿に盛り付け、全部を一人で運んできた。


「ありがとう」


「サンキュー」


「いつも悪いな」


「気にしないで。料理好きだし」


「さあ食べよ〜。いただきま〜す」


彼女を皮切りに各々が出された料理を食べ始める。由美はこの世界に来てから今日までずっと料理を作ってくれている。今は一人で全てをやっているが、最初の二日三日は手伝おうとした。だが彼女はキッチンに入るや否や人が変わり、俺たちにキッチンへの一切の入場を許してくれなかった。それで俺たちはもう手伝おうとはせずに、彼女が調理、俺たちは箸や皿の準備という役割分担をする事で落ち着いた。


「………由美、お前もくまできてるぞ?」


「えっ!!ほんとに!!?」


「できてるよな?」


俺が亮へ尋ねると、亮は箸を止め隣に座っている由美の顔を見て静かに頷きまた黙々と食べ始めた。


「化粧でなんとかなるでしょ〜」


「でも今日も洋介さんのところ行くわけだろ?化粧しても落ちるんじゃねえか?」


「くま隠したいなぁ」


「でもおかしいよな。昨日寝たの十時前だろ?それで朝の八時前に起きるってことはもう十時間は寝てるってことだろ?どうしてくまができるんだろうな」


「わから……くっ!!!うぐ!!」


亮が突然箸と茶碗を落とし、両手で頭を抱えて席を立った。そのままソファの方へ倒れこみ頭を抱えながら唸りだした。一瞬何が起きたのかわからなかったが、慌てて俺たちは亮に駆け寄った。


「どうした亮!!?」


「亮くん!!」


「亮!!」


声をかけるが、亮はただただ頭を抱えている。歯をこれでもかというくらいの力で食いしばっており、目を強く閉じている。手にもかなりの力が入っているようで細かく震えている。


「どうしよう!!」


「久留美!!由美!!亮を見ててくれ!!」


「何するの!!?」


「洋介さん呼んでくる!!」


「わかった!!」


俺は急いで外に出て洋介さんのいるところへ向かった。














ひたすらに走り続けていると一本道に差し掛かった。ここさえ抜ければもうすぐそこだ。俺は今まで以上に早く走り続けた。


しかし、もう少しで抜けるというときに俺はその場に倒れた。足が取られたというわけではない。


「………足が…動かねえ」


突然頭が痛み出す。それも我慢できる程のものではない。


「痛えええええ!!!ぐっ!!がああああ!!」


目に映る景色がたびたび変わる。ぬるりとした何かが俺の体についているような感覚さえ覚えた。だが何が起きているのかわからない。周りを見る余裕がなく、ただただ叫んでいた。痛いという感情だけが頭を埋め尽くし、痛いという言葉以外の言葉は全く出てこない。


「ーー!!ーー!!ーーーー!!?ーー!!」


誰かが俺の近くまで来て俺に話しかけているのがわかる。だが何を言っているのかがわからない。


「ーーーーーー!!」


刹那俺の視界が暗くなった。それと同時に少しずつ眠くなっていく。痛みは消えていき、俺は解放されたと思った。














「ーー、ーー………介、悠介」


ゆっくりといろんなものが見えてきて少しずつ意識がはっきりしてきた。何人かの人が俺を見ていて、俺はおそらくベットか何かの上で横になっている。俺を見ている人たちの顔はよく分からないがあの三人はいないのがなんとなく分かる。


もしかしたら、あいつらにも俺と同じようなことが起きていて、未だに苦しんでいるかもしれないという不安が頭をよぎる。


取るべき行動は一つだ。


俺は周りにいる人たちから制止されたが、体を無理やり起こし立ち上がる。体の節々が痛むが、気にしている暇はない。部屋を出ようとドアの横のにあるスイッチを押そうとうしたときドアが開いた。ドアの前には一人の大柄な男性と小柄な女性が立っていた。


「……どこに行く気だ?一輝」


「…………」


声が全く出ない。声を出そうとすればするほど喉が痛くなり咳が出る。


「………声が出ないだろ」


なんで知っているんだという疑問が浮かんだが、ひとまず俺は頷く。


「俺もお前たちと同じような経験をした。三人が心配なんだろ?」


俺は無言で頷く。


「安心しろ。三人もここにいる」


聞いた瞬間、安堵したがそれでもやはり、百聞は一見にしかず、という。この目でなんとかして確かめない限りはいくら洋介さんでも信用できない。俺は部屋をうろつき紙とペンを探すと、ベットの横の棚の上に置いてあった。俺は紙にペンで『会わせてくれ』とだけ書いて洋介さんに見せた。それを見た彼は俺を気遣うような優しい目から、全く違う、何かを覚悟したような真剣な目つきになった。


「………ついて来い」


洋介さんは言葉少なめに部屋を出て行った。俺も慌てて彼について行く。遠くから洋介さんの背中を見てもなんとなく分かる。これから何かが起こる。


俺は何が起こるか全く見当もつかなかったが、誰かに対してか分からない警戒をしつつただただ彼について行った。













ひたすら彼のあとについて行った先にあったのは俺たち四人がいつもの練習という名の戦闘訓練を受けている場所だった。


ステンドグラスによって作られた天井が、日の光によって輝きを放ち、その光がドーム状になっているこの場所全体に降り注ぎ、なんとも言えない雰囲気を醸し出している。


「ここって………いつもの………練習場…ですよね?」


なんとか声は出せるようになってきたもののひどく掠れて聞き取りづらい。おまけに長く話そうとすれば喉が痛くなり、どうしても途切れ途切れになってしまう。恐らくのたうちまわっていたときに叫び過ぎたのだろう。


それと今気が付いたが、どうやらのたうちまわっていたときに感じた体のぬめりは俺の体から出た血のぬめりだったみたいだ。全身に包帯が巻かれているし、顔の所々も湿布のようなものが貼られている。少しばかり包帯が赤いところが見られるのだが、これは適切な処置をしてもらったということでいいのだろうか。


「………そうだ」


「…………どうして、………ここへ?」


彼は無言のまま入っていく。あとに続くと中には見知った三人が立っていた。


「………悠介!!」


「悠介くん!!?」


「悠介!!」


「…………お前ら……どうして?」


「俺があんな風になったあと、この二人もなったんだ。そして絵里さんに運んでもらったんだよ」


「………絵里さんが?」


「絵里におまえ達に渡してほしいものを渡すよう頼んでおいたのだが、訪ねてみたらおまえ達三人が頭を抱えながら唸っていると連絡を受けて、慌ててここまで運んできたんだ。だが、一輝の方は知らない。いつの間にか宮殿の前に血まみれで倒れていた。だが、おまえが宮殿まで歩いた形跡はなかった」


「…………あれは………誰だ?」


「誰か見たのか?」


「俺に……声を…………かけてきた…………やつが……いたんです」


「親切なやつでも運んでくれたんじゃないのか?」


「………そうか…………もな」


「悠介大丈夫?今気付いたけど、すんごい声掠れてるじゃん」


「……お前ら………大丈夫……なのか?」


「私達は叫ぶ余裕もなくて、ひたすら唸ってたみたい。痛みはもう全然無いんだ」


「あっしもよ」


「俺も無い。それはそうと洋介さん、話ってなんですか?」


「………既に1ヶ月、お前たちが来てから経過した。たった1ヶ月だが、以前に比べればお前たちはそれなりに強くなっている。だが、まだ足りない。お前たちにはもっと強くなってもらわなければならない」


そう言って洋介さんは上着を脱ぎ、その辺に投げ捨てる。彼曰く、歳はもう既に四十らしいが、とてもそんなようには見えない。顔つきもまだ三十代前半に見えるし、何よりも体つきが四十代に見えない。二十代と言っても十二分に通じると俺は思う。上半身裸という格好に最初は妙だと思ったが、最近になってその理由がようやく分かった。


「………『神獣』を使って何かするんですか?」


「…………『神獣』で何かを出来るのは今のところ、この中では俺だけだ。だからお前たちには、俺のように神獣を使えるようになってもらう」


『神獣』と初めて言われたときにはちんぷんかんぷんだった。ただでさえ異世界に来たばかりの上にそんなこと言われてもという感じだったが、今はなんとなくわかってきた。


神獣とは、俺たちが神からもらった『力』を宿した存在ということらしい。どうやら転生させられる前に俺たちがもらった『力』にはもともと宿主がいて、その宿主ごと俺たちが宿すという複雑なシステムがあるらしいのだが、この話は神からは一切聞かされていなかった。なぜ知っているのかといえば、洋介さんが教えてくれた。


正しく言うならば洋介さんの中に宿っている『力』の宿主に教えてもらったのだ。


「エンデ、出てこい」


洋介さんがそう言うと、洋介さんの左目がみるみると赤く染まっていく。だんだんと雰囲気が変わっていき、先程の険しい表情に真剣な目つきは変わっていないが彼の放つ威圧がかなり増した。


『…………神獣の説明をしろ?なぜだ。お前があらかた説明した筈だろ?…………肝心の神獣の使用方法を教えてない?馬鹿者が。神獣の使用は相当な覚悟が必要なのはお前が一番わかっている筈だ。………だから私はお前が気に食わんのだ。お前一人でこの戦いを終わらせることができるとでも思っていたのか?…………分かった。だがお前がやるのだろうな?…………なら良い。お前たちとは1ヶ月ぶりか?…確かに成長はしているが、駄目だな』


「エンデ、洋介さんみたいに俺や悠介、久留美に由美にもお前みたいなやつが体に入ってるんだよな?」


『以前にも言ったが、お前たちの中には私のような神獣が宿っている。だが、今のお前たちはただただ神獣の持っている力をほんの少しだけ借りて使っている状態に過ぎない。それ以上の力を使いたければ神獣の解放は避けては通れない道だ』


「神獣の解放?」


『神獣は一定の条件によって解放される。解放されればお前たちは私たち神獣の力を全て、余すことなく使うことができる。今まで出来なかったことが出来るようになり、更にはこのように……』


エンデは自身の体もとい洋介さんの体の左胸にある不思議な模様の前に右手をかざす。すると模様から剣の柄のようなものが現れたと同時に、彼の身体中に様々な模様が浮かび上がり、控えめに赤く輝きだした。


そして、彼は柄を掴み引き抜く。すると彼の右目の周辺に数本のヒビができ、その隙間の奥から模様と同じような赤い光が見える。掴んだ柄の先には模様と同じように赤く輝く刀身が出来上がっていた。


『これは神獣の具現化という解放しなければ出来ない力だが、これを使えるようになって、お前たちは初めてあやつらと対等に戦える』


あやつらと言うのはこの世界にいる俺たちより先に来ていた転生者のことだ。俺たち四人はこの世界の俺たちより先に来た転生者を全員封印する使命を持ってこの世界に転生させられた。


正直なところ封印とはどうやるのか分からないが、俺の今までのゲーム感性に従うならば、どんな敵も封印する際には必ず抵抗出来なくなるまでにする必要があったはずである。


つまり俺たちも転生者を抵抗出来なくなるくらいまでにする必要があるはずだが、いかんせん俺たちは戦いに関しては素人、いや、ど素人だ。かろうじて由美と亮が格闘技をかじっていたぐらいで、俺と久留美は何もしたことがなかった。だから、1ヶ月程度ではせいぜい1が5ぐらいになるのが関の山だ。


だからこそ『力』を使うことが出来るようになっている必要がある。だがあいにく、今の俺たちが使える力というのは非常にちっぽけなものだ。


俺は、魔法を使えるようにしてくれ、と言ったのだが、実際これといって使える魔法がない。今のできることといえば、せいぜい物を固めたり、軽い物を浮かせたりとそんな程度である。日常生活ではまあまあ便利なのだが、戦いに使えるかといえば答えはNOだ。


きっと俺の制限は特に強いのだ、と思ってしまう。俺の想像していた魔法というのは火を出したり、地面を割ったりというド派手なものだったので、これしか出来ないとわかった時にはかなりショックだった。


亮はなりたいのになれる『力』。どういったものかといえば、亮がなりたいと思ったものになることができるというそのままのものだ。シンプルだが、今のところ『力』を使った戦いでは、おそらく亮が一番戦える。単純な能力だが、単純なりに非常に優れている。なんて言ったってなりたいものになれるのだ。亮が想像したものでもいい、細かく想像できればどんなものにでもなれてしまう。


戦闘訓練では亮はよく龍になって洋介さんと戦っている。制限がかかっていない状態であれだけ戦えるということが俺が亮が現時点で一番戦えると思う理由である。


由美は言った物体が出てくるという『力』だ。今俺たちが住んでいる家にある家具や服は全部由美に出してもらったものだ。


小柄なため非常に小回りが利く彼女の戦い方は非常に面白い。一対一で洋介さんと戦う練習があった時、彼女は武器を出して攻め込むが基本武器を囮に使う。武器で攻撃するのはほんの数回で、あとは大体攻撃するふりをして武器にうまく意識を持っていかせて、洋介さんがその武器に気を取られている間に素手で攻撃をしていた。そんな器用なのか不器用なのか分からない彼女はやはり亮と同じくらい戦えると思う。


久留美は今のところ一番戦闘向きではない。彼女の『力』は、怪我を治す、というものだ。確かに彼女の力は必ず戦う時には必要である。四人パーティで進めるゲームをする時には必ず回復役は欠かせない。ゲームで例えるのも変だが、彼女の力はなくてはならないのだ。


だが、戦いの時になれば、俺たちはできる限り守るつもりなのだが、それでも彼女自身がある程度強くないと万が一の時に大変なことになる。だから正直な話、俺は彼女の制限が解除されることによってどれだけ彼女が強くなるのかが一番気になっている。


『これより解放のための儀を始める』


彼がそう言った瞬間、大きいな炎とともに耳をつんざくような爆音が響いた。


「何だ!!?」


『洋介、お前に任せる』


彼の左目がゆっくりと元に戻って行く。しかし戻ったのは左目のみで、神獣は以前発動したままである。


「………絵里!!」


「分かってるわ!!」


絵里さんが入ってきて、持ったタブレットを彼に見せると、彼はそれを見るなり顔が険しくなった。


「お前たちはここにいろ!!」


「でも!!」


「いいか!!?お前たちはこの世界に来た俺たちにとっての希望なんだ!!死なせるわけにはいかない。お前たちはここにいろ」


そう言って彼は外へ飛び出し、絵里さんもあとに続く。


「…………俺……たちは………何も…できない……のか?」


「………俺たちは戦闘慣れしていない。出ても足手まといになるだけだ」


「…………何か手伝えないのかな?」


またしても爆発が起こる。しかも今度は一箇所ではない。あちこちから少し間を空けて爆発音が轟く。


「………おい、妙じゃねえか!!?」


「何が!!?」


「音が大きくなってる!!」


「え!!?」


刹那、ステンドグラスが割れる音と共に爆発が起こり、俺たちの周りを黒い煙が包む。ステンドグラスは当然割れてあたり一面に破片が飛び散り、爆発した時にバランスを崩した俺の体にいくつか刺さったようだ。またあの時のぬめりが手や頰


「くそっ!!悠介!!由美!!久留美!!無事か!!?」


亮の声が聞こえる。


「私は大丈夫!!」


「あっしも!!」


続いて二人の声が聞こえる。三人とも無事だと分かると安堵したが、煙のせいで見えない。


そしてそれは三人にも言えることだ。破片が割れる音が聞こえる。きっとみんな周辺を歩いて互いを見つけようとしているのだろう。


俺も立ち上がろうとするが立ち上がれない。上半身は起こせたので上半身を起こして自分の足元を見ると大きなステンドグラスの破片が右足を貫いており、そのまま床に刺さっていた。左足にも破片がいくつか刺さっており、とてもじゃないが立てる状態ではない。


「悠介!!せめて返事をしてくれ!!悠介!!」


叫ぼうにも煙が喉にしみる。咳が止まらない、苦しい。


「悠介くん!!どこ!!?」


「悠介!!」


三人の声が聞こえる。だが返事ができない。歩けない。這って進もうにも破片が邪魔をする。


「…………久しぶりだな。悠介」


何処からか声がする。聞いたことのない声なはずなのに何処か懐かしい。誰かが近づいてくる音が聞こえる。どうやら俺から見て後ろの方から来るようだ。


「……頼む………助け……て………くれ」


「任せて」


またしても聞いたことがない声が聞こえる。今度は女性だ。だがこの声も何処か懐かしい感じがする。


足に刺さっていた破片が抜かれる感覚がする。そのまま足の根元あたりを何かで巻かれる。両足に巻かれると俺の腕を誰かが掴む。そしてそのまま俺をつかんだやつの肩に俺は担がれた。


「……離せ……誰だ………お前ら」


「まあ後でいいだろ?今は出ようぜ、悠介」


「何で……俺の………名前」


「そりゃ知ってるだろ。幼馴染だったんだからな」


「悠介、何処だ!!?悠介!!」


「行こうか」


目の前が暗くなる。俺は何処かへ連れていかれるのだろうか?体が動かない。頼む、お前らは無事でいてくれ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ