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岸渡仕組   作者: 懐円開演
1/1

犯人の章

 

 僕達は、醜くて見難くて見るに耐えない。だからまあ、自分の本当の姿だとか他人の本性とかから、目を逸らしてしまう。目を背けてしまう。...それは悪い事では無いにしろ、良い事だとは言い切れない。自分を知る事は、罪では無いのだけれど。罪ではない事が罰でもない事だとは、言い切れないのだけれど。いつかは、自分を知ってしまうし、運が悪ければ他人まで理解してしまう。他人を理解してまで、僕は自分が何たるかなんて知る気は無い。勇気がない。...正直、自分という存在なんて、見方一つ変えてしまえば、非常に曖昧であやふやで、ありふれたものだし、そんなものに自ら成り下がってまで、繰り下がってまで他人と自分との境界面を、境界線をはっきりさせようとするほど、冒険家でも無いし。

 まあ、結局何が言いたいかと言うと、群衆に紛れていれば、劣等感なんて感じずに済むという事だ。そうしていれば、そうして、感情を殺してさえいれば楽でいられるという事だ。

 ────僕が出会った少女、岸渡 仕組は紛れもなく[紛れているだけ]の人間だった。僕の人生で、最も不要な出会い、この世に無い方が良かったボーイミーツガールは岸渡仕組との出会いだろう。自信を持って言える。胸を張って言える。



  ✁ ✃ ✁ ✃ ✁ ✃ ✁ ✃✁ ✃ ✁ ✃ ✁ ✃ ✁ ✃✁ ✃ ✁



 


 五月もそろそろ暮れとなり、段々と空気が湿り気を帯び始める時期。葉っぱの青さはますます増し、若々しさどころか苦々しささえ、錯覚させる。....ま、それは朝の話であり、放課後にあたる午後5時14分の現在では、全く違った景色となっている。葉っぱの青さなんて、西日に当たれば黒も同然の色に染まる。若々しさどころでも、苦々しさどころでもない。何の感傷も抱かせない黒色となっている。景色とは虚しいものだ。そこに日本人は、刹那の美しさとやらを見出すのだろうけど。

「ほら。余所見しないでちゃっちゃと案を考えてくださいよ。私だって居残りが長引くのはもう嫌なんですよ。西日がきついんです」

「.....案が出てたら、居残りなんてしていない。そうやって僕には注意するけれど、君はしっかり考えているのかよ。それとも僕を注意する事だけしか考えていないのか」

「後者です」

 断言するのは、クラスの副委員長、式驇ほうきちゃん。クラスの委員長である僕と、放課後という学生達の憩いの時間を費やして、来月行われる文化祭での、僕達のクラスの出し物を決めている。

「じゃあ、しっかりと考えてくれ。僕だって今考えているんだ。[如何に経費を削減出来るか]とか」

「前提からして考えていないじゃないですか。出し物を決めないと、お金の割り当てさえ決める事が出来ないって気付いていますよね?だったらまだ、如何にして割り当てられた経費を自分の懐に入れられるか、を考えた方が利が生まれます」

「意外とお金好きなんじゃないか」

 それを他人の前で考えたところで、一体どれほどの利が最終的には残るのかを問い質してみたかったが、それは控えた。話し合いが一向に進まなくなる。今でさえ、したくもない現状維持を強要されている。今日も僕とほうきちゃんの無駄話で、放課後の居残り時間が終わりかねない。

 既に終わりかけているが。

「あともう15分だ。やっと帰れる」

「進んでないですよ!なにをやりきったみたいな感じ出しているんです。せめてあと15分、案を出し合いましょう」

「白紙を示されてもなあ...」

 未来へのチケットの如く、真っ白な計画表。

 ラブアンドピースとか言っている場合ではない。今求められているのは、愛でも平和でもない。アイディアだ。平和は、言ってしまえば[何も起こらない]という状況であるだけなので、話し合いの中では一波乱起こってほしいところ。冷戦のような水面下での緊張感ではなく、大々的に。

「もうさ。あれでいいじゃん、お化け屋敷。昔小学校の劇で使った衣装、家にあるんだ。それを少し修理したり補強したりすれば、高校生でも着れるよ」

 お金もかからないし。そしてかからなかった分のお金は、僕の懐に入るんだし。

「駄目ですって、前にも言ったじゃないですか。....それに、あなたの家にあるってだけで嫌なイメージがあるんです」

「酷いなあ。おばあちゃんの部屋にあるんだから、衣装は綺麗なものだよ。整理整頓が出来ていないのは、妹の部屋だけだ。....いいと思うけどなあ、今の時期湿気がこもりやすいけれど、その衣装は通気性抜群だよ?小学生が着るように設計したんだから」

「それでも、です。時代はメイド喫茶店ですよ。効率的にお金を落とさせる方法は、これしかありません」

「風紀委員が黙ってない。それに最終目標がただ単にお金を稼ぐ、にすげ替わってるじゃないか。ほうきちゃん、君は言ったろう?[楽しんだもん勝ちです]って。居残り初日に」

 風紀委員会の、降月並木────通称[善鬼]が黙っていないだろう。風紀を正すためには、何かしらやるというのがあいつの方針だ。メイド喫茶店なんて開こうものなら、僕が何されるか。退学届けに判子を押されかねない。

「えー!じゃあ振り出しじゃないですか!」

 ばん、と力強く机を叩くほうきちゃん。かれこれ今日三回目だ。ほうきちゃんの手が赤くなり始めているため、そろそろ足で叩きそう。

「それ、さっきも言ってたよ。僕がお化け屋敷と言えば、君はメイド喫茶店と言い、それに対して風紀委員会を引き合いに出せば見事議論は僕の一言で平行線のまま。....何か打開策が必要なんだよ。もういっその事、クラス全員に意見を募って多数決でいいと思うんだ。民主主義だよ。なんの為のクラスだと思っているのさ」

 民主主義、王などいらぬ、共和制。

 多数決には誰も敵わない。だから魔女裁判と呼ばれるものが古来には横行したのだ。と、過去の凄惨な事件を引き合いに出しても、誤魔化しきれていない。というかただの屁理屈だ。

「....それは戦火を広げるようなものです。議論が平行線どころか、悪循環を生みます。男子と女子は、相容れないんです」

「んー....」

 多数決も駄目か。このクラスなら、呆気なく決められそうなものなのだけれど。このクラスは女子が過半数を越しているので(男14人女17人)、女子のリーダー的存在が[これだ!]という案を提出してくれれば、後はもう、女子の謎の団結力と男子の少なさで、流れるように解決する筈だ。

「何もしないってのは?」

「最終手段ですね。期日までに、もし何もいい案が出なければそれでいきますか」

「あ....いいんだ」

 てっきりまた突っ込まれるものかと思っていたが、どうやらほうきちゃんもそろそろ諦めてきているようだ。そりゃあそうか、いくら案を出し合おうとも、互いが互いの案を消し合うのだから。休日を含めて、毎日のように僕と話し合っているのだから。これで嫌にならない、諦める気にならない人間はこの世にいない。ほうきちゃんは保っている方。

「はあ....何故あたしとあなたなんでしょう」

 ほうきちゃんは疲れたようにべったりと、先程までスパルタの如く打ちのめしていた机に、頬を載せる。

「僕は過去の栄華に引っ張られて。君は?」

「あなたが委員長になったからですかね」

「へえ。そりゃどうも」

 僕が委員長に選ばれた理由は、推薦された理由は、[中学校で生徒会長をやっていたから]である。そしてその中学校で生徒会長に推薦された理由は、[小学校で児童会長をやっていたから]だ。小学校で児童会長に推薦された理由は....憶えていない。けれどきっと、とても意味の分からない。それでいて面白みのない、つまらない理由からなのだろう。小学生にはよくある事だ、[面倒ごとの押し付け合い]。僕はそれに巻き込まれただけだ。

「.....変わってないなあ、僕」

 巻き込まれるか。

 引き合わせられるか。

 どちらかで、人生をやってきている。おかげで僕は、未だにやりたい事が見つからない。責任転嫁だけれど、それを差し引こうとも、僕はやりたい事が見つからない。

 .....[やりたくない事だらけ]ではない限り、[これは僕のやりたい事ではない]と思っていない限り、別にそれでも良いのかな。大半、人生の中でやりたい事が見つからないってのは、そういう精神が原因だと言うし。

「ん。それじゃあ最後の十分は思いっきり無駄話に費やそうか、ほうきちゃん」

「え?それって...本気で言ってます?」

「うん。本気さ」

「はあ、まあいいでしょう。存分に無駄話をしましょうか」

 ほうきちゃんは手を組んで、んにー、と背伸びをする。肩が凝っているのだろう。凝るものも凝ってしまう、そんな胸をしていたら。

「で、話題はなんですか?」

「このクラスにさ、岸渡仕組って子いるじゃん」

「......?はあ、誰ですかそれ」

 あれ、やっぱ知らないのか...?

 そういう風な演技だとは思えないし、そもそもほうきちゃんに演技が出来るとも思えない。ほうきちゃんの、[これ]は本心からだ。

「えっと....いつも江戸川乱歩とかヘッセ読んでいるような子だよ。テストでも全教科満点とか、普通にとる子」

 やはり、知らないか。

「あー...誰ですか?」

「.....んーじゃあ、仮名Kさんとしよう」

「そっちの方がイメージが出来そうです」

「そのKさん、所謂才色兼備や神童ってやつで、[何の話題にも取り上げられない子]なんだ」

 あれ、とほうきちゃんは再び首を傾げる。

「それっておかしくないですか?才色兼備ならまだしも、神童とまで言われているんですよね?なのに何故、何の話題にも取り上げられないんです?....神童、と自分で評価しているという線は、[才色兼備]という外側からの意見が否定......」

 あれ、と再三ほうきちゃんは首を傾げる。

「おかしいですね。何故、才色兼備と呼ばれているんですか?.....神童ってだけならその子のいた痕跡や、形跡だけが残されているって事ですよね、それ」

「話題には挙がらないって事も加えてね」

 口元に手を当てて、今度は反対方向に首を傾げる。こんなにもわかり易い、[私考えていますよアピール]は初めて見た。

「....病院行った方がいいんじゃないですか?あなた。もしくは、まだ思春期が終わってないとか」

 僕は、心外だなと表現するようにかぶりを振る。

「僕の頭は至って正常さ。証拠に、今までと変わらず文化祭の出し物案で躓いているよね?それに僕の思春期は幼稚園の頃に終わってるよ」

 異常が正常。

 凹凸の激しい道を、平坦だと処理し、言い張るような脳髄だ。取り返しがつかない。

「確かに。.....あなたの言いたい事は、つまりあれですよね?その、岸渡仕組ちゃんは....[自分にしか見えていない]って事なんですよね」

「そういう事。そういう結論に至って尚、僕がおかしいんじゃないかという仮説が捨てられないのであれば、このクラスの名簿を持ってくればいい。か行を辿れば、岸渡という苗字に行き着く筈だよ」

「.....その岸渡さんの席は、どこなんですか?クラス名簿に名前があるという事は、このクラス所属で同学年なんですよね」

 そこ。

 と。

 僕は、今ほうきちゃんが座っている席を指さした。

 ────なにも、ほうきちゃんが岸渡仕組ちゃんだという意味ではない。僕の前の席が、岸渡仕組ちゃんの席なのだという単純な意味だ。本来のほうきちゃんの席は、一番後ろだ。話し合いをする為に席を移っているだけ。こういう委員長や副委員長の関係にならなかったら、1年ないしは卒業まで喋る事は無い、席の位置関係。

「.......」

 青ざめた表情で。

「え....ひょっとして、あたし取り憑かれてたり?」

「いや、そもそも幽霊じゃないって。[きちんとそこにいて][しっかりと名簿に名前があるんだから]。言っておくけれど仕組ちゃんは、もう帰ってるよ」

「いやいや、おかしいですよ。....何故、見えないんですか?痕跡が、成績が、席があるというのに知らなかったんですか。このクラスは、学校は」

「うん。そこが疑問なんだよねえ....矛盾点でもある。僕の頭がおかしくなっている、というだけならまだいい。クラス名簿に名前があって、テストの首位はいつも彼女のものなのに、席もちゃんと用意されているのに、誰も彼女を知らないんだから。ああ、ちなみにクラス名簿は職員室にあるよ」

 確認しに行きたそうな。

 会話の終を待ち切れないような。

 そんな顔のほうきちゃん。

「無駄話....もう終わりで良いんですね」

「うん。まだ時間はあるけれど、もう帰ろうか」

「はい!もう帰ります、帰ってご飯食べてお風呂入って寝て、今日の話は忘れますう!」

 僕の机の横に引っ掛けてある、自分自身の鞄をしゅばっと持ち上げて、「しょれではあっ!」と噛んだ挨拶を言って、教室を持ち前の脚力で退出した。

「.....怪談とか苦手なのか、ほうきちゃん」

 さてと、僕も帰ろうか。

 椅子から立ち上がり、僕の荷物が詰め込まれている棚に向かう────までもなく。

 僕が立ち上がった時点で、正面には僕の荷物を手に提げた、件の同級生、岸渡仕組ちゃんがいた。

「ああ...うん。見事な舎弟っぷりをありがとう」

 薄い唇を開いて、

「いえ」

 仕組ちゃんは言った。

 彼女から鞄を受け取り、「えっと....今日も、僕の家に来るのかな?」と問う。この少女、僕という[自分を視覚的に捉える事が出来る人間]を見付けると、捨てられた子犬、あるいは捨てられかけている子狸のような瞳をして、僕を見詰めてきた。ので、ここ最近は僕の家に居候させている。おかげで僕は、元々痩せ型なのに更に痩せてきている。仕組ちゃんに僕の分の弁当や、夕飯を分け与えているのだ。

 8(仕組ちゃんの分)対2(僕の分)で。

「はい。泊まらせてください」

 ご飯をください、と遠回しに要求されているような気がしてならない。一宿一飯どころではない恩を、この子の異変が解決したら返してもらいたい所存。

「.....1回家に帰ってみたら?変わってるかもよ」

「先ほど行ってみたのですが、今までと同じく、気付かれませんでした。私が帰ってこないのを疑問にも思っていないようでした。歯牙にもかけない、とは正にあの事」

「あ、そう」

 家に帰ったのに即日再び学校に来るとは。

 .....僕だったら、来ないなあ。忘れ物があろうとも翌日来ればいいや、と暢気にも思ってしまうだろう。言い換えてしまえば、家に重要なものを置き忘れる事の無い完璧な姿勢だと思う。ほうきちゃんは猛反発しそうだ。

「それじゃ、帰ろうか」

「はい」

 ────僕がこの少女、岸渡仕組ちゃんと出会ったのは昔の事ではない。[出会った]のが最近であって、僕は高校一年生の冬休み辺りから、岸渡仕組ちゃんの事は知っていた。知っていたにも関わらず、出会ったのが最近だった理由は、言うまでもなく1年生の時はクラスが別々だったからだ。僕はB組、岸渡仕組ちゃんはA組。選択科目の内容で、この学校の1年生はクラス分けされるし、友達がいない僕は、そうそう他クラスに行く事もない。

 2年生に無事昇昇級した、その初日。

 僕とこの子は、認知し合ったのだ。

 2年生からは、文系か理数系かでクラス分けされる。偶然にも、文系を得意とする(僕はそんなに得意な訳では無いが)岸渡仕組ちゃん(この子にとっては全てが得意科目)が、僕と同じクラスに所属する事になった。

 学校の屋上....というロマンチック、あるいはサスペンスムードな場所ではなく、この教室で。

 それに今のように、僕は思い詰めていた訳でもなく。

 極めて自然に。

 初めて会う人だったから、取り敢えず挨拶しておこうかという気分で挨拶をしたら。

 占術のような、先述のような、救われる事を期待しているような瞳で見つめられ────今に至る。

「そういえば。いつから、そうなっちゃったの?」

「[そう]....とは?」

 校舎から出て、帰路についている僕...と随伴の仕組ちゃん。隣を誰かが歩くだなんて、僕としては、危機感そのものと共に歩いているようなものだ。

「ああ....っと」

 言葉にするのは、意外と難しい。

「[痕跡だけが残って、存在は誰にも認知されなくなり始めた]のって」

 これはこれで、正鵠を射てはいない。一応、みんなは[いるはずの生徒がいないという違和感や、いないはずの生徒がいるという合致感]を知らない。けれど、誰も彼女の痕跡を探らない事を、痕跡だけが残り業績だけが1人歩きしている事を、疑問に思わない。一応、彼女はそこにいるのだ。存在を認知する方法は色々とある。例えばカメラだったり、肩がぶつかったり。問題なのは、それが疑問視されないという事なのだ。

  ........透明な事が疑問視されない透明人間、とか?でも、こうやって[例え]に首を傾げる事が出来ている間は、まだいいのだろう。それさえも出来なくなってしまった時が恐ろしい。

「2年前から、でした....か?」

「疑問形っすか」

 しかも僕に問う形。

「でも、よく2年もそれで生きてこれたね。サバイバルが得意だとか?そうは見えないけれど」

「いえ。普通に万引きしたり、商品として展示されている寝具の上に寝たり。結構贅沢なクラスをしてましたよ。天蓋付きのベッドだなんて、初めて眠った時はいつ、天蓋が落ちてくるか不安で仕方がありませんでしたが、慣れてしまえば」

「.....」

 普通として処理していいのだろうか。....聞いたところに寄ると、彼女の[所有物]にも、その...体質は影響を及ぼしているようなので、例え店から商品が無くなったとしても、問題にはならないのだとか。

 だったら、仕組ちゃんの中では[普通]として処理出来るのだろう。....もしも、この問題が解決した際には、仕組ちゃんに改めて世間の常識を叩き込む必要があるかもしれないな。倫理の家庭教師。売れる先行きが見えてこない。

「おかげで、栄養失調から脱する事が出来てました」

「じゃあ僕には見付からなかった方が、良かったって事だよね。それ。出来てましたって....」

「お腹は膨れても、寂しさだけはどうにもなりませんでしたよ。.....哲学的ですよね。一人じゃなければ幸せなのか、お腹が減らなければ幸せなのか」

「.....死にたいと思うような環境下でなければ、人間は幸せでいられるんだよ」

 死のうと思わない限り。

 そういう気持ちにされない限り。

 人間はきっと、幸せなんだと思う。

「極端な意見ですね。でも、あなたが言うのであれば、きっとそうなのでしょう」

「僕を妄信し過ぎ。宣告者でも預言者でもない僕の戯言なんて、聞き流すのが一番さ」

「そうとは思えませんね」

 仕組ちゃんはおかしそうに笑う。さっきと言った事と矛盾しているからだと思う。

 憂いを帯びていない微笑みほど、見ていて気持ちのいいものはない。笑顔は、いいものだ。綺麗なものでも、無理矢理のような歪なものでも。

 笑えるのだから。

「でも、僕の言う事はアテにしない方が良いってのは本当の事だよ。副委員長の....ほうきちゃんとか、僕の隣の席の、枷檻ちゃんとか、そう言ってる」

「そうなのですね。半信半疑で接しろと」

「そういう事」

 僕は鞄を、左手から右手に持ち直す。

「......少し、踏み込んだ事が訊ねて良いかな?」

「どうぞ。構いません」

「────仕組ちゃんの家の事なんだけどさ。....その、何かされていない?もしかしたら、原因の根幹が[何か]にあるかもしれないし」

 こんな事訊ねてどうする?もし何かされていたら、僕はそれを解決する為に動けるのか?動いた結果、この子が[どうにかなってしまったら]、僕はそれを庇い切れるのか?.....僕という人間は、少年漫画の主人公のような、自己犠牲精神は持ち合わせていないってのに。責任を取れるはずもないのに。

 何故訪ねたのだろう?この子の内心に。

 何故訊ねたのだろう?....仕組ちゃんの、本音を。

 僕は心底では、[答えてくれるな]とも思っている。

 どうにかしたい....とも。

 なんでだろう。

 まさか、仕組ちゃんと誰かを重ねて考えている?

 だが誰と?

 いや、そんな殊勝な目的ではない。僕なんだから。無意識の内に誰かとこの子を重ねているなんて事は、あってもなくても同じだ。そもそも、こんな境遇に陥っているなんて、この子位のものだ。重ねる対象が見当たらない。心当たらない。

「..............なにも、されてません」

 嘘だと思った。そう気付いた。そう見抜けた。

 けれど、安堵した。最低である、僕。そんな自負と共にため息を吐いて、足元を見る。

「いや....無理があるでしょ」

 足元を見た僕は、そう零した。

 仕組ちゃんの足を見た僕は、そう零した。

「その足、どうしたの。包帯巻いているけど」

 仕組ちゃんの足に、幾重にも包帯が巻かれている事に気づいた僕は、そんな問いを投げかけた。

「犬にかまれました。警察犬です」

「一体、何をやったんだよ仕組ちゃん....」

 はぐらかすには大胆な嘘だ。警察犬が出動するって....しかもそれは犬種ではなく、警察と行動を共にしたり、救命活動の補助をしたりするように訓練された犬の事を指すので、実際には[警察犬]という犬種は、遺伝子的には存在しない。

 そしてこの比較的平和な国では、人を噛むようには訓練されない筈だ。アメリカとかなら別だろう。

 大量にぼろが出ている嘘だ。

「.....山奥を歩いていたら、トラバサミに」

「ちゃんと整備された道を歩きなさい」

 この地域には、熊発生警報なんてものは無いので、刑法的に、または時代的に、無断でトラバサミ等の狩猟用具の設置は許可されていない。

「車に巻き込まれました」

「またそんな....え、大丈夫なの?というか、それにしては随分正確に巻き込まれたね。信号待ちしている時にやられたの?」

 納得しかけた。車に足を巻き込まれたのであれば、松葉杖生活を余儀なくされる。

「本当は?」

「言う気はありません。怪我については」

「.....そう。じゃあ暫定的に、トラバサミに咬まれたって事にしておくね。本題の、家の事について訊ねていいかな。どんな家庭か、親御さん達はどんな仕事をしているか、教えてくれるかな」

 内情ではなく、表面上を問う。

 仕組ちゃんは、内面を探られたくないタイプの人間の模様。だったら探らない、深入り(既に首どころか両足突っ込んでいるようなもの)しないのが僕だ。

「四人家族です。父と母、兄と私。それから柴犬」

「へえ。....その柴犬、訓練された犬とかでは」

「ないですよ。いつまでさっきの他愛もない嘘を引っ張るつもりですか」

 自分で嘘と認めた!この子、自分の行いには反省しない性格の持ち主だ!しかも、あたかもその嘘を掘り返した僕が悪いかのように言ってきたぞ!

「普通の家ですよ。普通の。あくまで普通の」

「怪しくなってきているって、そこまで執拗に[普通である事]を強調すると」

「父は鳶職。母は宮大工。兄は設計士です」

「建築家一族!?珍しくもあるぞ、それ!」

 どんな華麗なる一族だ。一体父親と母親は、息子と娘にどんな教育をしている事やら。というか、女性の宮大工って見た事ないな。....女性のレスラーがいるなら、宮大工もいるか。今の時代、戦うのは男だけではなくなった。

「祖父は廃棄工場で、祖母は解体所で」

「真逆!?何故職業でプラスマイナスのバランスを社会的に取りに来たんだ!」

「飼っている柴犬は、骨ではなくスパナや鉄パイプを噛むようです」

「軽く虐待じみているじゃないか!せめて犬だけは、洗脳しないでやってくれよ!」

 スパナを噛んでいる犬....遠目で見たら違和感は無いのだろうけれど、近場で見たらきっと驚くだろうな。近辺にネジやボルトが落ちていない事を祈ろう。

「そして私の将来の夢は、花屋さんです」

「知っているかい、仕組ちゃん。花屋って、儲かりにくいらしいよ」

「えっ。本当ですか?....折角、スマトラオオコンニャクを広めるという私の一大プロジェクトが...」

「是非ともやめなよ。そんな計画」

 死体花じゃないか。あんなグロテスクなもの、日本で育てられるように品種改造する人の精神が病みそうだから、破綻させておいてよかった。

「ところで、お兄さんいるんだね」

「はい。四徹しても大丈夫なくらいの屈強な兄です」

「四徹するまでの仕事量を想像したくないからそこら辺に関しては突っ込まないけれど....。お兄さんとは仲がいいの?」

「悪くはありません、といった感じです。遠い所で働いているようなので、親交を深めるに深められない状況です」

 遠い所で、ねえ。....中途半端な田舎よりも、大都会での稼ぎの方が高いか。設計士であるのならば、まあ、賢い判断だ。向こうの方が、良いデザインの建築物を所望している事は、近年の都市開発を鑑みれば一目瞭然だ。

「小さい頃は、よく遊んでもらってましたよ。砂場でお城を作ったり、本気で隠れん坊をしたり」

「ふうん。面倒見が良かったんだね。....それにしても、仕組ちゃんって予想以上にアクティブなんだ。お城を作るならまだしも、本気で隠れん坊だなんて」

「大人気がないだけですよ」

「逆に子供っぽさがないよ」

 お城を作るというのは、両親の影響が垣間見えないものではないな。.....岸渡仕組ちゃんの将来の夢は花屋さんのようだけれど。

「お父さんとは?」

「やだ。お義父さんだなんて、気が早いですよ」

「.....父親とはどう?」

「普通ですね。父親の趣味を、子供は理解出来ないものです。祖父の趣味は理解出来たのですがね。....馬が合わないって訳でも、仲が悪いって訳でもありません」

 良好とも、険悪でもない。

 うーん...普通なのか?でも、喧嘩をしない辺りは、安穏としているらしい。

「おか...母親とは?」

「.................悪いですよ」

「珍しいね」

 確か、母親の職業は宮大工だとか。

 それだけでも珍しいが、母親と関係が険悪な娘というのも珍しい。僕が世間を知らないだけかもという可能性を考慮しても。...岸渡仕組ちゃんに対し、[普通]という枠組みを期待するのは止めよう。勿論岸渡家にも。

「その。お母さんに関しては、深く聞かないでください。お願いします」

「うん。分かった」

 ....となると、[こうなった]原因の一翼を担っているのは、母親かもしれないなと特に根拠も無く思う。精神面だけなら、それで問題が発生しても特別珍しくはないが、岸渡仕組ちゃんは肉体面....周囲の精神状態にも問題が発生している。精神学なんて、アテにしてはいけない。────僕はただ単に、[この子が見えるだけ]なのだから。

 僕も僕自身をアテにしてはいけない。

 僕が一番、アテにならないのは目に見えている。

 ......全く、面倒な事に巻き込まれたものだ。思い返せば、あの時に挨拶なんてしなければ良かったんだ。見た事のない人間がいたとしても、別段気にしなければ良かったのだ。

 と、思ったけれど。

 この子は、僕の前の席に座っている。いつか僕は、岸渡仕組ちゃんに疑問を覚えていただろう。そう考えると、遅かれ早かれ、だけの問題だ。そう考えると、自分も少しはいい奴なんじゃないかと錯覚出来る。

 実質的に、そんな事は。

 事実的に、そんな夢は。

 有り得ないのだけれど。

 叶わないのだけれども。

「あなたの事を聞かせてくれませんか?」

「いや...僕の家に、毎日のように来ているじゃんか。今更聞かなくても」

「あなたの、自分の家族に対する主観的な意見を聞かせてくれませんか」

「....上手く言い直すじゃないか....」

 思い返せばこの子、テスト全教科満点とか、信じられないような事をひょいとやってのけるタイプだった。僕の知能指数では到底及ばない、となると予期せぬ言い回しだって平然とやってくる。

「それではまず、お義父さん」

「気が早い。それに僕は、独身を貫き通すんだ。.....そうだなあ、父さんは...普通、かな」

 僕の父親、氏弥 孫六は普通の会社員だ。たまに酔っ払って帰ってくるけれど、それでも笑い上戸の為、介抱する母親は面倒に思っていない。むしろ楽しそうだ。どこにでもいそうだけれど、どこかにはいない。そんな父親。

「次は、お義母さん」

「......母さんは、若作りかなあ」

「内面の事を聞いているのですが」

「内面もそうだよ。母さんは、趣味も若々しい。僕なんかよりもね」

 母親、氏弥 吉方見(旧姓 香苗)。先刻、外見も内面も若々しいと言ったが誇張ではない。実際現代っ子の僕なんかよりも昨今のアイドルグループなら、流行語に詳しい。見た目が見た目な為、知っていても特に疑問を持つ事はない。趣味は、ランニングだとか。若い。それに名前も、[うじみつ えほみ]と来たものだ。若い。

「あとは....義妹さんでしたっけ」

「君の未来予想図は、スマトラオオコンニャクの布教だとか、色々と逞しいね。....妹は、ブラコンかな」

 妹、氏弥 故郷はブラコンである。これだけの説明で充分だと思う────のが僕の主観的な意見。

「.....では」


「あなたは?」

「....」

 答えられなかった。



 ■ ■


「ごちそうさまでした」

 食卓を囲んでいるのは、母と僕と妹(僕の隣には岸渡仕組ちゃんがいる)。父はどうやら遅くなるようだ。呑んでから帰ってくるのではないかと思われる。会社の方も、新人が入社しそろそろ落ち着いてくる頃合だ(父が昨日そう言っていた)。だから、新人を誘っての飲み会でも開催しているのだろう。珍しくもない。

「ふる兄。勉強教えて」

 食器を片付け、制服の袖を苦心しながら捲り、洗い物の準備に入る僕に、妹はそう言ってきた。

 今日で五日間連続を達成していやがるので、そろそろ友達やら先生やら、

「母さんに頼んで」

 母さんに教えを乞えばいいのにと思い始める時分。

「お母さん文系駄目だわ。赤点とった事あんのよ、だから教えてやって」

「よくそれで大学行けたよね、本当に」

「理系ですから」

 自信ありげにそう言われてもな...僕としては困るだけだ。何故妹と母さんに揃って文系が駄目なのだろう。頭の出来は遺伝しない、[トンビが鷹を産む]という諺が証明しているのに。

 理系の勉強が趣味と言われると、納得せざるを得ないけれども。

「...じゃ、故郷ちゃん。部屋で待ってて。僕の部屋じゃないぞ、君の部屋だからな」

「はーい」

 妹の事だから、一旦僕の部屋に寄るだろう。そしてこう言う筈だ。『鍵かかってるよー!』と。

 階段を駆け上がる音が止んだかと思うと、すぐさま僕の予感は的中した。

「鍵かかってるよー!なんでー?」

「...」

 嫌な予感が的中した事にげんなりしつつ、僕は意識を皿洗いに集中させる。洗剤で立った泡の所為で手を滑らせ、皿を割った事が過去幾度もあったので、細心の注意と極端な集中をしなければ。

 テレビでは(早速注意を逸らしている)、最近発生している連続自殺について、解説者が無駄な言葉の羅列を述べている。締めの文句はありきたりで陳腐なもので、月並みなもので、[死んだら悲しむ人が必ずいます]だとか、[よく考えて]だとか、そんな言葉。死んだら悲しむ人がいる人でも、死ぬ時は死ぬ。よく考えて、親御さんの苦労をよく考えた末なら死んでもいいのだろうか。と、心無い人間はそう思ってしまいそうなほど、使い古された文句だ。聞くに値しない。

「....いませんね。私には」

 背後でぼそりと、岸渡仕組ちゃんが呟いた。

「私が死んでも、誰も疑問視しないでしょう」

「僕の後ろで言わないでくれるかな、それ」

 この子を知ってしまった僕は、きっと疑問に思うかもしれない。...いや、この子が自殺した場合の理由は、至極明解だ。嫌になるくらい。逆に。

「ん?なんか言ったかい?」

「いつもの独り言だよ」

 岸渡仕組ちゃんの声は聞こえなくとも、岸渡仕組ちゃんに応答する僕の声は、普通に聞こえる。最近独り言で呟く癖がついたんだ、という理由で家族は納得しているが、長期化すればするほど、それこそ僕が疑問視されかねない。

 疑問視されない事が疑問な岸渡仕組ちゃんには、嫌味としか受け取られなくなってしまう。

 気まずくなる。

「あっそ。たまには家族と会話しなさいや」

「たまにはって、毎日しているじゃないか」

「そうそう。それでよし」

 食後のストレッチをしている母は、背中越しにそう言った。身体年齢も若い母は、僕よりも関節が柔らかい。股が百八十度を通り越して二百四十度くらい開いているんじゃないか?

「あんたは、こんな馬鹿な事やっちゃ駄目だよ」

 ん?ストレッチの事だろうか。やろうと決意する気にもならない。

「自殺だなんて」

「ああ。そっちね。...大丈夫、する気なんてないよ。好きな作家が続刊している間は、それが僕の生き甲斐なんだから」

 生きる意味なんて単純なほうがいい。

 あと数年で社会人となる僕は、もう少し殊勝な生き甲斐を模索しても良さそうなものだが、相変わらず、それ以外に生きようとする意味は無い。惰性で生きているようなものだった。

「なんじゃそりゃ。んな他人任せな生き甲斐、あたしは認めないけどね」

「母さんが認めても認めなくても、これが僕なんだからどうしようもないでしょうが。他人任せだって、頼り切りにならない程度なら良いんだと思うよ。人は1人で生きていくものだけれど、助け合わなきゃ生き抜いていけないんだから」

「あー...そういう哲学的な事は、故郷ちゃんと話なさい。あたしニヒリストだから」

「母親が言っていい事じゃないって」

 僕という息子だって、妹という娘だって、どうせ無に帰すんだと言ってるようなものだ。結婚そのものさえも否定している。

「そいえば。あの....副委員長の子いるじゃん。その子の名字ってなんだっけ」

「え?えーっと....しきたり、かな」

「どんな漢字?」

「式場の式に....」

 式驇の驇、の説明が面倒だ。かんむりの部首は、執行の執とは少し形が違う。あしはそのまま、馬という説明でいいのだが。

「その子さあ。なんだか自殺したっぽいんだよね」

「ふうん」

 あ、この反応では駄目か。

「え。そうなの?」

「反応薄いわねえ...どうするの?文化祭の執行とか。これからあんた一人でやるしかなくなるんじゃないの?」

「そこはもう最終手段、[何もしない]を」

 というか、ほうきちゃん、自殺しちゃったのか。...まさか文化祭の準備に思い詰めて、とかじゃないだろうな。それはないか。だとしたら初日か二日目辺りで死んでいただろうし。[私に任せてくだされよ!]と言っていたので、文化祭の苦労は知っている筈だった。

「って。えええええっ!あの子....死んだの?」

 母は急に大声を出す。状況の整理が追い付いたようだった。ついこの間、家に来た(来始めた)子が死んだというのは、母にとって驚くべき事に類されるらしい。発見したくもなかった発見。

「ちょっと!あんた、虐めてたりしてなかったでしょうね。2人っきりだったからって、学生には早い事してないでしょーね!」

「してないよ。僕は生涯童貞である事を決意しているんだから。...それに、今日も今日で、ほうきちゃんは変わらなかったよ。いつもと変わらず明るい子だったし、ここ数日でも、思い詰めているようには見えなかった」

 警察の方々が、ほうきちゃんの身辺を洗い出していると、自然と僕との関わりも露見するだろう。...それまでに、少しはまともな証言が出来るようになっていないとな。

「他殺だったら、幾らか気分も楽なんだろうな」

 自分の知らない場所で、知っている人間が、[自殺]と断言出来るような状態で死んでしまったのか、と考えると、流石の僕も気分が悪くなる。記憶に焼き付いているほうきちゃんの素顔と、僕の知らないほうきちゃんの顔の[違い]を想像したくない。

「....あんた。早まるんじゃないよ」

「分かってるよ。文化祭は僕1人で何とかするしかなくなったんだから。クラスの皆の為にも、僕は正常に動いていないとね」

 正常が異常。

 氏弥家の異端児、それが僕。

 ────そんなこんなで皿洗いを終えて、自室へ向かう、疲労困憊の僕。そんな僕を誰にも気付かれず疑問視されず追従する、仕組ちゃん。無言で、しかも気を使って無音で登ってくるので、背後に付かれている僕としては、ただ怖いだけである。

「....ほうき、さん。残念でしたね」

「なにが?」

 こう返してしまうから、度々家族からも眉を顰められる。悪い癖。ほうきちゃんの声色は、真剣味と憐れみを含んでいるにも関わらず、僕はいつもと変わらない。

「なにが...って、自殺してしまった事ですよ。あなたとは何気に親しい間柄だったのでしょうし」

「あー、うん。そうだね。あのクラスの中では一番親しかったんじゃないかな。そんな関係も、2ヶ月足らずなんだけれどね。僕に呆れず付いてきてくれる子なんて、珍しいし。ちょっとは寂しくなるかもしれない」

 かもしれない。

 予防線は張っておく。悲しめない僕に悲しまないためにも、落胆しない僕に期待しないためにも。

「....またあなたの違う一面を見れたようで、私はとても複雑な気持ちです。あんなに普通な家庭で育ってきているのに、何故あなたはそんなにも...」

「さあ、分からない。自論だけれど、人間ってのは、周辺の環境ではなく、少し遠いところにあるようなものに意外と影響を受けるんだよ。創作物が子供の精神状態に悪影響を与えるというのはここから来ているのかな?...そこで、つまりとは繋がらないんだけれど。その[遠くにあるようなもの]がよく分からない、人間ってのはそう出来ている。仕組ちゃんにするべき回答に当てはめるならば、僕が[普通な家庭で育ってきているのに]ここまで共感能力が欠陥している理由がある───理由って言えばいいかな。それが分からない。僕は分からないものが[手の届かなさそうなものほど]気分が悪くなる質でね。自論に自分で異を唱えるようだけれど。だとしたら、元々こうなんだと、そういうものなんだと思ってしまえば楽なんだ。だから、こうなっている理由は分からない。分からない方が、いいと思ってる」

 無駄な部分を話してしまってるが、これはこれで、僕お得意の話術。結局は、[分からない]で簡潔にまとめられるのだけれど、それではほうきちゃんは納得しなさそうだ。

「そう、ですか。あなたはとても可哀想な人間なのですね。初めて知りました」

「僕は君が羨ましいね。こんな人間にも、可哀想って思えるんだから」

 羨ましいかな?いや、別段羨ましくもない。むしろ面倒そうだ。

「湿っぽい話はやめにしよう。...僕は今から、故郷ちゃんの相手をしなければならないんだ」

 湿っぽいというか、やはりただ単に気持ちの悪い、僕の内面の話。素肌に濡れたシャツが張り付くように気持ちの悪い、じっとりじめじめの、内面。

「あ...ああ。はい。そうですね。あなたが暗くなってしまったら、妹さんはかなり心配するでしょうし。あなたはあなたで、内面を探られるのを[強く]拒絶するタイプなのでしょうし」

「そう。今仕組ちゃんの言ったそこだけは正しい」

「褒めて...」

「いるよ」

 うん、褒めていると思いたい。

 僕は階段の登り切り、左を向く。向かう先は、先述の通り自室。自分の部屋でやる事をやってから、妹の部屋に行く。どうせ、あいつは僕の口約束なら野垂れ死のうが守り抜くやつだ。1時間2時間待たせてしまったところで、僕の睡眠時間が減るだけだ。

 損をするのは僕だけ。

 部屋の扉には妹対策に鍵をかけている。この家を建てる時に、父に無理を言って僕の部屋の扉に鍵を取り付けてもらった(それでも何回か、僕の不注意で妹の侵入を許してしまっている)。ありがとう父さん、と部屋の鍵を取り出す度に、感謝の念を────。

「あ...あれ?」

「どうしたのですか」

 鍵が無い。

 背筋が冷える。まさかどこかで落としたか?

 それならまだいい。警察の皆さんの力を借りれば済む話だ。出来れば最悪の事態の方にも対処をお願いしたいが...国家権力だろうと、家庭の内情までには侵犯出来ない。家族の中で犯罪者が出ない限りは。...住居不法侵入罪って家族内でも適用されるかな。

「ねえ、仕組ちゃん。故郷ちゃんがリビングから出ていく時、僕の近くを通ったかな」

「いえ。通ってません。ただ...夕飯の時は、あなたの背後を通ってから自分の席に座りました」

「うん。じゃあその時だね、鍵盗られたの」

 妹の無駄な窃盗スキルに呆れ返りながら、僕はドアノブに手を回して、捻る。

 ────易々と。

 回転した事にも呆れながら。

 妹が、僕の部屋にいるんだろうなという未来予測にも呆れながら、ドアを引く。

「ふる兄、おかえり」

 という可愛らしい声は、聞こえてこなかった。

 ぶらん、と制服のスカートから覗く白い脚が、僕の目の前にぶら下がっていた。

 妹はいた。

 首を吊っていた。 

「..............────いや」

 首を吊って────いる、だろうが。

「いやいや────....」

 そんな事よりも。

「なに....してくれてるんだ。故郷ちゃん」

 これじゃあまるで、僕が何かしたみたいじゃないか。まるで、ではなくまんま、じゃないか。僕が殺人罪に、ないしは自殺教唆罪に問われるじゃあないか!

「は、早く下ろしましょう!頸動脈を締められていないのであれば、気道を絞められているのであれば、まだ助かるかもしれません」

「...うん」

 僕は、効率のいい殺人なんて分からないけれど、成績優秀で苦手科目が無い仕組ちゃんがそう言うのであれば、きっとそうなのだろう。人体の仕組みにだって精通している筈だ。こういう時に、知識豊富な子が近くにいると不安感よりも安心感の方が強まる。

 経験豊富かは、知る由もない。知らない方がいい。僕の内面形成の理由同様に。

 妹の足を退けて、部屋の中に入る。

「ん。...故郷ちゃん、どこにぶら下がっているんだ?いや、部屋のどこからぶら下げられて、いるんだ」

 妹の首を締めているのは、僕の、替えのベルト。いつベルトが故障してもいいように、予備を二つほど持っている。それはいい。妹がどのようなもので吊り下げられているのか、なんて、別に構わない。なんであろうと、今、首を締めているのは変わらないんだから。

 僕が疑問視したのは。

「なんで...[釣り上げて]いるものがないんだ?」

 首吊りに必要なものは。1つ、首吊りをする人体。2つ、その人体を吊り下げる、適当な細さと丈夫さを兼ね備えた帯状のもの。3つ、地面から離れた人体を吊り下げる帯状のものを、釣り上げられるほどの頑丈な支え。

 特に3つ目は首[吊り]には欠かせないものだ。

 この部屋には────それがない。

「いや、いやいやいや」

 そんな事を思考するよりも僕がすべきは、第1に妹の救命。第2に[第一発見者]にならない努力。つまり、第1をクリアすれば自動的に第2もクリアになる。第2を重視するのであれば、だなんて考える必要はない。アリバイ作りなんてやっていられるか。第一、この部屋には鍵がかかっている。そして解錠するために必要なものは僕しか持っていない。────つまり、誰もが僕を疑うだろうという事だ。妹は外では兄妹愛が肥大化している事を隠し通しているんだからな!誰も、妹が僕の部屋の鍵を盗んで、それを用いて侵入し、その次に自殺をしただなんて思いもしない。

「うわ....」

 ここで、妹の救出作業に詰まってしまうという問題が発生した。初手から挫かれた。

 首を締めているのが、ベルトだという事だ。

「....................無理じゃね、これ」

 無意識の内に、僕はそう零してしまった。

「あ、いや、大丈夫か」

 発想の転換。

 いくら釣り上げているものが見えなくても、釣り上げているという事実があるなら、[そこにはある]のだ。

 僕は飛び跳ねて、妹ではなくベルトを掴み、思いっきり体重をかけた。

 べぎょんと音がした後、落下した僕は臀部への激痛に顔を顰める。

「あぁ...やっぱ、あったのか」

 相変わらず見えないままだけれど、妹を釣り上げているものはあったようだ。ひとまず、扉を開けてすぐのところで人が首を吊っているという絵面は無くなった。あとは妹の安否を確認するだけ。ベルトを解き、年齢の割にふくよかな胸を押し潰しながら心臓がしっかりと動作している事を確認する。

「かっ....は....げほっ」

 肺に溜まっていた空気を勢いよく吐き出し、妹は薄らと瞼を開けた。....あれ、首吊っている人って瞼を閉じる暇があるものなのか?ああいや、首吊りは呼吸困難で死ぬよりも、一気に首に体重を掛けさせられた事による頚椎骨折の場合で死ぬ事があるのか。妹は、その限りでは無かったようだ。苦しんで死ぬタイプの締め方のようだった。

 安心。

「あ、ふるに...えほっ。ああ...助けてくれたんだ。ありがと」

 そう言って、こてん、と僕の胸部に頭を当てる。一瞬遅れて首が折れたのかと思い、僕の心臓は高鳴る。

「助けて、ねえ」

 自殺するつもりは、無かったらしい。そりゃあそうか。妹の事だ。お墓はふる兄と一緒のがいい、と言ってしまうような人格の持ち主の事だ。自殺するとしたら、僕も巻き込んでの心中を謀るだろう。

「いやあ...体重軽くて良かったよ。もうちょっと重かったら、多分死んでたよ。わたし」

「君の体重、殆どが胸に偏ってるみたいなものだもんね。いやあ良かった良かった。愛しい妹が生きててお兄さんはほっとしたよ」

 ああ良かった、僕の部屋で死ぬだなんて最悪の事態は避けられて、僕はほっとした。

「でも痕が残っちゃったよ。絞首痕。ま、ふる兄に付けられたって思えば別にいっかな」

「良くない。僕の社会的体裁が危ぶまれる。...それに僕がお前を傷付ける、だなんて想像したくないから、そう思うのはやめてくれ」

 妹の首を1周...あれ、頚椎の辺りには痕が回っていないな。...ああ、ちょうどそこがベルトの金具部分だったからか。それでも痛々しい事には変わらない。

「あ、そうだ故郷ちゃん。僕の部屋の鍵、返してくれないか?」

「え。わたし取ってな...あー!なんでだろー、ポケットにふる兄の部屋の鍵があるー!ふっしぎだなー、まかだなー、かいきげんしょおーだなー.........ごめんなさい」

 しずしずと、妹は僕に部屋の鍵を返却する。鋳型を型どられる前に回収出来て、再び安堵する。

「なんにせよ、死んでなくて良かったよ」

「今年のおみくじ、大吉のわたしを舐めちゃ駄目だよふる兄」

 運というか、少食な妹なので、普段の生活習慣のおかげだと思う。毎日の積み重ねというのは、どこで実を結ぶのか分からない。それでも[首吊りをさせられるかもしれない]という想定を踏まえた上で、少食を心掛けるなんて事は無いに越したことは無い。

「故郷ちゃん。何連続で、年初めのおみくじが大吉だったっけか」

「14回。1歳の頃はおみくじ引けなかったからなー、一生の自慢として、わたしの人生は大吉に始まり大吉に終わるって言いたかったんだれど」

「...ふうん」

 因みに、僕は16回連続(妹と同じく、1歳の頃はおみくじを引けなかった)で大凶である。この妹にしてこの兄あり。正反対どころか1周回って好対照。

「ふる兄って、運の底が浅いから大凶ばかり引き当てるんじゃないの?」

「じゃあ故郷ちゃんは、運の天井が低いって訳だ」

 先程まで天井からぶら下がっていた妹に対して、かなりのブラックジョークを吐いた僕。

「うん。ふる兄の妹になれただけで、満足。それ以上を求めちゃったら罰当たるよ」

「....」

 心が痛む。

 部屋の合鍵くらい作ってあげようかなと思ってしまったが、そうすると僕の人生、一気に転落期を迎えそうで空恐ろしい。妹が夜這いをしてきそうで。

「取り敢えず、その絞首痕。風呂場でよく擦って、皮膚の寄りを無くしてね。少しは薄くなる筈」

「この期にチョーカーデビューしてみようかな」

「やめなさい」

 この妹、首を吊られる体験をしたというのに、まだ締めたりないのか。

「じゃあふる兄の制服貸して。詰襟だから首元まで隠せるんでしょう?あ、今着てるので良いので」

「男子の制服って、女子にとってはキツイらしいよ。胸元に余裕が無いからさ。故郷ちゃんには尚更キツイと思うんだ」

「知ってる?胸って程よい刺激を与えると大きくなるんだって。だから大丈夫」

「知っているかい?厳密に言えば、胸部の膨らみは女性ホルモンの影響だから、胸の刺激如何は対した効果にならないんだって」

「なんでそんな事知ってるの?」

「.....」

 くそう。その返しは反則だぞ。

「....大人だからさ」

「ふる兄、一生彼女作らないって言ってたじゃん。だから去年のクリスマスとか今年のバレンタイン、誰からもなんにも貰えなかったんじゃん。書類上は大人になれても、身体的には大人になれないんだよ」

 この兄ありにしてこの妹あり。

 妹も妹で、精神的苦痛が伴うような言動を取る事が多い。書類上はって....身体的にはって....そんな悪口を思い付くだなんて、やはり兄妹なんだな。

 要らぬ実感をありがとう、妹よ。

「────そんな事よりもさ。故郷ちゃん、僕にご指導ご鞭撻の程宜しくお願いします、と言っていたじゃないか。どこが分からないんだい?」

「ぶーぶー。反則だよ、それ」

「書類が全ての世界では、反則なんて言葉は存在しないんだよ。1つ大人になったね、故郷ちゃん」

 妹は漸く僕から離れ、僕の机の上に置いてあった自分の鞄から(!?)国語の教科書、ノートを持って、僕の元に戻ってくる。そして再び、頭部を僕の胸部に当て、尻を僕の膝の上に載せる。

 何があってもいいように、僕は、開けっ放しだった入口の扉を締めた。勿論この時、仕組ちゃんが部屋に入ってきた。

「あの、取り敢えず僕の上に座るのはやめてくれないかな?お兄ちゃん、一応男だから」

「命の恩人には媚を売っておけって」

「誰から聞いたんだい?」

「お父さん」

 それはきっと、大人の暗部の話だろう。命の恩人...まあつまり、自分を採用してくれた上司に、という意味だ。媚を売っておけって...父は健全な昇進をしているのだろうか?もしかしたら業績関係なく、上司への媚だけで、部長の座についたのでは?

 変に勘繰ってしまったけれど、働いているのだから、子供の僕には関係の無い話か。首を切られればそれまで、って事で。

 その後の、僕と妹の学費は....妹に、宝くじを当ててもらうしかないな。豪運の持ち主であるこの子なら、1等ないしは3等あたりまでは余裕だろう。

「今すぐに忘れなさい。まだ故郷ちゃんは知る必要がな無い世界なんだから」

「はーい。忘れまーす」

 素直だなあ。僕とは大違いだ。

「で、どこが分からないの?言っておくけれど、僕は多少文系が出来るってだけで、何も得意教科という訳じゃないんだよ?」

「知っている?十を知るには一を学ばなきゃいけないんだよ。という訳で教えてくらさい」

 ほう。歴史を上手く引用した、含蓄に富む言葉だなと思ったけれど、裏を返せば、妹は今まで文系に関わる一さえ知らなかった、という事を示している。どれだけ理数嗜好なんだ。

「ああ、はいはい」

「見返りはいる?それともいらない?」

「見返りなんていらない、君の成績が少しでも向上してくれれば、お兄さんは嬉しい事この上ない」

 と、言えれば良かったのだが。

「お風呂上りに無駄話しよう。僕の部屋で」

 実際は、どう見回しても見返りの一片さえ見えぬ要求だ。けれども、お風呂上りはどうしても暇になってしまう僕としては、その暇を潰してくれるだけでも大助かりなのである。

「お風呂上りに...って、ふる兄が終わったら?わたしが終わったら?どっちも?」

「どっちも終わったらで。ピロートークしようぜ」

「え。一緒の布団に寝ていいの!?」

 舞い上がった声の調子で妹は、嬉しさあまりからか僕の顎を頭突いてきた。

「いや、故郷ちゃんが眠くなったら帰ってもらうよ。いくら兄妹といっても、もう身体も大きくなっちゃったし、小学生の頃のようにはいかない」

 妹の場合、ゼット軸に特に。

「えー...それじゃあわたしの部屋に来てよ。眠い人を動かすだなんて、ふる兄鬼畜」

「そこまで言うか...」

 鬼畜だなんて初めて言われた。

「分かった分かった。君の部屋に行くよ。鬼畜なお兄さんは、僕の暇を潰す為に君の部屋に行くんだ」

「兄妹じゃなかったら犯罪じみているよね」

「ん...?」

 あれ、確か近親相姦罪というものが、この国にはあったよな。冗談には聞こえないぞ。

「大丈夫大丈夫。僕はなかなか自制心が強い男でね。何があっても故郷ちゃんを襲わないと約束する」

「別にいいよ?わたしが黙ってればいいんだから。我慢出来ない時は、わたしを襲ってスッキリすればいいんだよ。名案だね」

「...いや...」

 そこまでいくと、妹の兄妹愛が怖くなってくる。

 いや、もうこの時点で怖いぞ!途上な表現ではない、もう既に頂点だ!僕の妹に対する恐怖心は、既に完成している!

「既成事実婚ってあるよね?」

「僕、子供苦手だし」

「脱胎すればいいんだね」

「いやいやいやいやいやいや!怖いって!」

 よくもそんな可愛い顔して、そんな怖い事をさらっと言うなこの妹は。...まさか胎児を、その為だけの道具としてしか見ていないとは...こいつ1回、精神鑑定してもらった方が良いんじゃないか?僕の身の安全の為にも。

「なんで君って、僕の事がそんなに好きなんだっけ」

「好きなんてものじゃないよ。愛してるんだよ」

 そうっすか、と適当に返して、僕は妹が指さした漢字に読み仮名を振ってあげた。嘱望、これが読めないとは。

 愛、ねえ。僕には到底理解の及ばないものだ。と、妹の言葉に漠然とそう思う。

「でも、なんでだろうね。ふる兄は、誰かを存在的に好きになった事ってないの?兄妹ならそこら辺も同じなんだと思うんだけれど」

「同じにはならないよ。感情ってのは、そいつだけのものなんだから。いくら血縁者でも...性別が違うのであれば嗜好も性格も趣向も、趣旨も変わってくる。例えば、僕が夢野久作が好きな作家ですと言えば、故郷ちゃんはアガサ・クリスティが好きって言うだろう?僕もアガサ・クリスティのミステリは好みだけれど、それは小説だけだ。人格的にも好きな、と加えるのであれば、僕は夢野久作を挙げる。それと似たようなものだよ」

「うーん。そういうものなのかな。でも、ふる兄の例えはカテゴリが違うじゃん。[作家]じゃん。わたしが言ってるのは、存在的にだよ。所詮、夢野さんだってクリスティさんだって、会った事のない人なんだから理屈は通らないよ」

「そうだね。言われてみればそうだ。僕の回答は、単なる逃避でしかなかったね。ごめん」

 妹は、断腸の思いってどういう意味?と問うてくる。僕はそれに、決めかねていたって意味だよ、と掻い摘んで応答した。

「で、1つ疑問なんだけれどね、ふる兄」

「はいはい」

「....やっぱいいや。後で言う。ピロートークの時に言うね」

「そっすか」

 この文字、なんて読むの?

 どうもう、だね。

 漢字の弱さに、再び呆れの感情が呼び起こされる。

「あ、そうだ。これは今聴いておきたい事なんだけれどねふる兄。答えてくれるかな」

「良いよ。僕に答えられる事なら」

「式驇ほうきって子が自殺したってニュースなんだけれど、ふる兄、何か知ってる?あ、いや、何もふる兄が自殺に関与しているんじゃないかと疑っている訳では断じてないよ。例え世界中がふる兄を疑っても、わたしはふる兄の無罪を主張する。ちょっと疑問に思っただけなんだ。最近、自殺のニュースが多いから」

 妹も、母と同じく、この街で起こっている(起こっている表現は、なんとも事件的で人為的な響きがある)連続自殺について気になっているようだ。....親子揃って気にかける事柄、というものが人の死に関係しているという事を、今日初めて知った。

「何も知らないよ。僕はほうきちゃんの自殺については何も知らない。ただ、ほうきちゃんは自殺をするような環境に置かれていない人間だという事は、知っている。でもまあ、人間ってのは意外と脆いしね。その日の内に心変わりをして、死にたくなったのかも知れない」

 妹のように。

 でも妹は、死ぬ気は無かったらしい。それ以前に、自殺をするつもりさえ、無かったらしい。その真似事をするつもりさえも。

「環境の激変ってやつ?」

「どうだろうね。でも、1日でそんなに変わるものだったら、僕はほうきちゃんに会えてなかったよ。いつ会ういつ会わなかったの問題じゃなくてさ、もっと長期的に考えて。....こんな事を聞くのは、兄として気が引けるんだけれど、故郷ちゃんは何があったら自殺しようって気になるかな?」

「ふる兄が死んだら」

 ああ、明日にでも自殺を決行しそうな理由だ。妹に訊ねたのが間違いだったな。...でも、その回答の意味のみを抉りとってみると、なるほど、大切な人が死んだら、環境の激変。家族か恋人か。....高校生如きにとって、恋人は[大切]とまではいかないかもしれないな。恋というのは一時的なものらしい(妹談)し。ほうきちゃん家族とは疎遠な仲だったらしいから(本人談)、家族愛が激しいとも言えない。

 仕組ちゃんの言葉が頭を過ぎる。

『いませんね。私には────』

『────私が死んでも誰も疑問視しないでしょう』

 悟りの一言。元々、なのか。それとも...か。

「そっか。じゃあ、死なないようにしないと」

 妹は、悲しんでくれるだろうか。あるいは、疑問視しては────くれないだろうな。僕の死を憂いて、そして死ぬ。疑問を持つ前に。

「ふる兄はどう?わたしが死んだら死んでくれる?」

「死んであげないよ」

「そ。ふる兄らしいね。そういうとこ好き。変わらないから、好き。お父さんもお母さんも変わっちゃったけれど、ふる兄だけは変わらない。これって、わたしにとって救いなんだ」

「変わったかな。父さんは父さんで、いつまでも飲んだくれの笑い上戸だし、母さんは母さんで、いつまでも若々しいし」

 僕が家族の変化に鈍感なだけか。

 もしくは妹が敏感なだけか。非があるのは僕かな?

「急に環境が変わるってのも充分怖い事だけれど、変化に気付かないってのも、怖いよね。────ここでふる兄に問題を出します」

「あれ。今勉強会中だったような気がするんだけど」

「いいのいいの。わたしが頼み込んだんだから、わたしから中断しても、ふる兄にはなんにも悪い事は起きないでしょ?それじゃあ、第1問。昨日のわたしと今日のわたし、違ってる箇所が1個あります。どこでしょうか?」

「....」

 めんどくさっ。と、素直に思う僕だった。まあでも、損をするのは妹だ。僕ではないというだけで、付き合ってやるという意欲は湧く。兄妹揃って損得勘定が得意だった。ずる賢いなあ。

「触診してもいいよ」

「人間の感触ってそんなにコロコロ変わるかな」

 怖いなそれは。次の日に、妹がスライムのような感触にそぐわない容姿になっていたら、絶叫する。メタモルフォーゼどころか、溶解している。

「んー...」

 太股は入念に。足の裏。足の指の股。足の甲。お腹は入念に。二の腕。手の甲。手の指の股。掌。爪。脇。肘。膝。瞼。額。耳たぶ。鼻。唇。歯。舌。静脈。動脈。胸は入念に。尻は入念に。

「........んー...」

 髪。

「あ。分かった」

「おお!それでは答えをどうぞ」

「耳に掛かっている髪が、短くなっている」

「正解。さっすがふる兄。で、どうだった?」

 どうだったとは...なにが?

「変化に気付いた時、どう思った?」

「あー」

 なるほど。そういう意味を孕んでの、妹の変化発見クイズだったのか。

「特になんとも。故郷ちゃんの髪が短くなったのだって、そんな微妙な変化、所謂アハ体験ってやつだろ?心霊映像でもあるまいし、別段ぞくっとも、ワクワクっとも思わなかった。ああ、でも故郷ちゃんの胸を触った時はワクワクしたかな。妹の成長を実感出来るというのは、新たな鉱石を発見した洞窟探検家のような気分なんだね」

 社会貢献しているかもしれない探検家の皆さんには申し訳ない気持ちだれど。

「やっぱふる兄は、そうなんだね。変化してもなんとも思わない。要するに、[今後]に対して恐怖を抱かないんだね」

「僕は今でも自分の将来が心配だよ。...自分の今後は恐怖に値するけれど、妹の胸部は恐怖に値しないな。僕という人間は、変化に鈍感という訳ではなく、ただ単に変化をなんとも思っていない。変化に期待していないって事か。そして酷く、他人に対して冷徹らしいね。ありがとう故郷ちゃん。君の身体のおかげで、僕は自己分析がこんなにも捗ったよ」

 方法に少し問題があるけれど、そんなもの、スーパーセンターに物を買いに行くか通販で物を買うか程度の違いでしかない。

「....だとしたら、僕にほうきちゃんの気持ちは探れないな」

「そうだねー。そんなふる兄は、わたしと結婚するしかないよ。分かってあげられない事を分かってあげられるってのは、わたしだけなんだから」

「妹よ。1ついいかい」

「なんでしょ」

「愛があれば、結婚だとか恋人だとかという括りは必要無いんだ。だから僕は君とは結婚しない」

「ああ!そうか、そうだね!わたしはなんでそんな簡単な事に気が付かなかったんだろう...。ありがとうふる兄、目が覚めたよ」

 僕が言ったのは、妹の愛への否定だけなのだが、国語が苦手なこの妹。気付かないようだ。目が覚めようと、目前が霞んでいたら意味が無いという事を知らないようだ。

「いやいや。だから僕の部屋に夜這いに来るのは、やめてくれるかな」

「あ、それはやめないよ。それこそ環境の激変、わたしには耐えられない」

「....」

 そうだったそうだった。この妹は、[ふる兄に会えなくなるから]といった理由で、中学三年生の時の修学旅行に行かないようなやつなんだ。小学生の時の宿泊学習はちょうど風邪を引いていたから、休んだという扱いになっているが(体調を崩すたびに、僕に看病してくれとせがんできたのをよく覚えている。おかげで妹の欠席日数と僕の欠席日数は同じだ)。

「正直、ふる兄と別々の部屋になっただけでも嫌だったのになー。お母さんとお父さん、そこら辺頑固なんだもん。別にいいよね?」

「よくない。環境の激変ってやつだ」

「でも、特に気にしないよね?さっきそう診断結果が出たんだもんね?」

「周囲の目を気にするから」

 ...あ、そうか。僕は周囲の期待やら、評価やらを気にしているから断るに断り切れず、状況に流されるがままになっているのか。ふむふむ。発見が多いな、妹と会話をすると。

 自分ばかりが得ていると、なんだかな。

 気が引ける。

「..........故郷ちゃん」

「なに?」

「今日くらいは一緒に寝てあげよう」

「ま。まままままじで!?ふる兄、まじで言ってるんですか!さっきまで、わたしに対して物凄く拒絶的だったのに!」

「心変わりってものだよ。それに、君にとって一番安心する場所は、僕の部屋だけなんだろう?そう言われると、この部屋の主である僕もやぶさかではない。そう言われて尚、即刻帰れと言うような冷徹な人間じゃないんだ」

 先ほど、その一番安心する場所で首を吊っていたのだけれど────そこら辺に関して、僕は後々妹に問うつもりだ。[だから]、妹にはこの部屋にいてもらった方が、良い。と、思う。

「へ...へえ。え?ほんとにいいの?朝起こすよ?起こしに行くまでもなく、隣にいるんだから起こすよ?」

「助かるよ。喧しい目覚まし時計なんかよりも、妹にそっと優しく起こしてもらいたい。低血圧だし」

 僕に部屋にある目覚まし時計は、ツマミで音量の大小を加減出来るのだが、何故か音量が最大で固定されている。ツマミの頂点が、百八十度の部分から一度も1ミリも動かせない。軽くノイローゼになってるので、1日くらいは妹の可愛い声で起こしてもらいたくもなる。それでも、妹に寝込みを襲われる危険性を考慮するとどっちもどっちな気さえしてくる。

「分かった。えーっと...優しく揺さぶる?それとも耳元で囁く?」

「君が理性を保てるような起こし方で」

「なにそれ。起こすなって意味?」

 うわあ...やってしまったかもしれないな。だが、今引こうとするならば、僕の人生はここで終わりを迎えると断言しよう。だから僕は引かない。要するに、妹より早く起きればいいだけの話だ。

 ....何故たかが起こす起こさないだけで、ここまでの駆け引きが必要なんだ?

「訂正。僕が理性を保てるような起こし方でね」

「善処するね。わたし、ふる兄の性癖をまだ熟知していないからさ。多少やり過ぎても許して」

「許す必要なんてない。妹が何をやろうと、僕は寛容になれるよ」

 寛容ではなく、胃潰瘍になりそうだが。

「おーーーーーい!あんたらー、お風呂湧いたから入んなさいよー!」

 と、ここまでか。

「はーい、わっかりましたお母さーん」

 んじゃ、行ってくるね。と妹は、一度僕に頬擦りをしてから部屋を出た。軽く背筋を冷やしながら、僕は机に乗ってる妹の荷物を持ち上げる。

「....」

 このままでいいか。どうせ、戻ってくるんだ。流石に、兄が妹の部屋に侵入するだなんて変態じみているというか、変態そのものだ。染み出ているだとかじみているだとか、そんな程度には収まっていない。屋根裏の散歩者や陰獣以上の変態性の持ち主に、なるつもりは全く無い。

「さて。僕もちょっと、勉強しておくか」

 数学、赤点ギリギリだったし。

 椅子に座り、数学のワークを広げ、いざ勉強と意気込んでいたところへ、

「私とは会話をしてくれないんですね。がっかりです。人種差別と言うのですよ、あなたのその、私に対する対応は」

「いや...今から勉強するんだし、君とは毎日会話をしているんだし、ちょっとくらいは大目に見てくれてもいいんじゃないかな」

 会話をしない程度で人種差別云々言われるとは。そろそろ廊下はしっかりと右側通行を強いられる時代になるかもしれないな。世も末だ。それでも、火炎放射器を持ったおじさんが街を徘徊するような世の中よりはマシか。

「あーあ。もうこのままだと、あなたにも見えなくなるかもしれないなー。もしかしたら、私の寂しがり屋な気持ちがこの透明化に深く関わっているかもしれないのになー」

「分かった分かった。分かったよ。分かったからそうやって、僕が悪いみたいに言うのはやめてくれ」

 見えなくなったら見えなくなったで、この子が僕に期待の視線を向ける事は無くなるので別に、一向に構わないのだけれども。

「で。なに?何を種として会話をするの?何も無ければ、君には是非とも僕に数学を教えてもらいたいんだけど」

「先ほどの、妹さんの首吊りについて、ですよ」

「....あれについて話すったって、何も分からないじゃないか。故郷ちゃんは[自殺するつもりがなかったのにあんな事をした]んだから。無意識の行動、についてまで、君は僕と会話をして意見を交換し合おうというのかい?限りがないどころか、そんなのお手上げに決まっているじゃないか。故郷ちゃんが病的な構ってちゃんだった、で話は終えようよ」

 一応の説明はつく。故郷ちゃんは風邪をひいてまで、自身を追い詰めてまで僕との交流を望んでいる。首吊りくらい、する。いや、やりかねない、という表現に留めておこう。

「あなた、本当にあれが自殺紛いだったとでも?」

「そう思うしかない。誰にだって反抗期があるように(僕には無かったけれど)、自殺の真似事をしたい時期だってある。正の数に対して負の数が存在するように、[他人に反抗する時期]の反対、[自分に反抗する時期]だってあるに決まっているじゃないか。世の中はそういう風に出来ているんだよ」

「意志がないのに、自殺なんて出来る訳がないでしょう」

「やるんだ」

 僕は仕組ちゃんの言葉に食い込み気味で。

「それが、氏弥故郷という、僕の妹だ。今までにあった妹の、奇行を挙げれば君も納得すると思うけれど、どう?聞いてみたいかな」

「はい。聞いてみたいです」

 ....何故この子は、自殺ではない他の可能性に固執してるんだ?と僕は内心首をもたげる。数瞬考え込んでみたが、答えは単純だった。[こういう事をやりかねない人物に心当たりがあるから]。

 その心当たりを問うてみたいけれど........辞めておこう。面倒そうだ。

「まず、最新例があれ。さっきの首吊り。....まあ、僕にだって疑問を抱かない部分が、無い訳じゃあ無いんだけどさ。その疑問については説明不要だ、と君と僕との付き合いの長さを信頼して言っておく。次に故郷ちゃんは、幼い頃には自傷行為をした。手首を切ったり指先をライターで炙ったり、爪を剥がしたり。そして僕に手当をさせた。あの子、泣きながら笑っていたよ。流石の僕でも、逃げ出したい気分になったね。妹の怪我の原因は、大抵兄である僕なんだと誤解を招きかねなかったからね。次、確か小学生の頃だったかな?....えーっと...プールの授業だったかな。わざと足を攣らせて、僕に助けさせた。上手いものでね、水を飲むのを承知で、水面で僕の名前を呼んだんだ。助けに行かない訳にはいかないだろう?そんな、[今際の時でさえも兄の救助を信じている妹]を、見せられたらさ。お陰様で僕は、一躍ヒーローさ。次、中学生の時が...一番多かったし、おっかなかったかな。何が怖かったかというと....ほら、そろそろ中学生って性別の違いに興味を持ち始める時期じゃないか。その頃の僕は既に、興味を寄せるものなんて無かったんだけれど、妹は違った。まず社会の授業で法律を学び、遂には既成事実婚なんてものを憶えた。そして次に身体の仕組みを....あ、君の事じゃないよ。まあ、身体の条件的な反射反応を憶えた。.....その次は何をしたと思う?あの子。可愛い可愛い僕の妹は。あろう事か、僕を犯しました。はい。怖かったですねあの時は。...で、第3の例は」

「ちょっと、待ってください!」

 仕組ちゃんは、僕の口を塞いだ。自分の手で。十字に重ねて。

「え?あなた...え?妹さんに、手を出されたのですか?あなたが襲ったのではなく、妹さんがあなたを襲ったのですか?」

 仕組ちゃんの手を退けて。

「そう言ったじゃないか。あの子、一度やったらハマったらしく、次の日もそのまた次の日も来たんだ。夜這いにね。...で、そんなある日事件?....人的ミスが発生しました。氏弥一家が住んでいるこの家、実は2軒目なんだ。それで、何のミスが発生したのかと言うと、火事。1軒目は火事で燃えた。全焼さ。僕が自分の部屋の扉に、鍵を拵えてもらったのは、2軒目を建てる時だよ」

 都合が良かったんだよ、と。

 付け加える。

「も、もういいです。結構です。分かりました、あなたの妹さんが何故、あの様な行動に出たのか、よく分かりました。もう、結構です」

「そう。案外早く、素直に納得してくれて良かった。僕は記憶力には自信が無いからね。最近の、強烈なものしか記憶には残らない。ぶっちゃけ、第3の例はでっち上げるつもりだったんだ。不要な嘘を吐かずに済んで良かった良かった」

 仕組ちゃんは床にへたり込む。女性を床に座らせて、男が椅子に座ってるというのは、なんだか申し訳ない気持ちになったので、僕は仕組ちゃんを椅子に座らせた。無論僕は床に座る。

「............強烈ですね。妹さん」

「でしょ?僕がもし、こんな性格じゃあなかったら、故郷ちゃんは既に死んでいるんだと思うと、余計に」

 こんな性格だからこそ、僕は誰からも見捨てられてはいないのだろう。妹を除いて、今まで僕に関わってきた奴らは、皆上辺だけしか見ていないんだ。浅ましく空っぽな、僕の内面になんて、気付かずに。

「やはり、誰かは誰かに理解してもらえる事を望んでるのかもね」

「そんなに汚い綺麗事は初めて聞きました。....確かに妹さんは、あなたの内面を理解してるのでしょうけれど、それでもまだ、あなたにとっては、理解している[つもり]に留まっているのですね。それでもって、あなたは妹さんを理解しているにも関わらず、今の関係を保っているだなんて、正気の沙汰ではありませんよ、それ」

「それならそれでいい。今の関係を壊してしまいたいとは思っていないんだ。....欲を言うのであれば、さっさと君との縁を切りたいんだけど」

 妹との関係なんて、今の状態だろうと構わない。歪であれ非対称であれ、崩れていないのだから。安定してはいるのだから。

「.....平然と嘘を吐くあなたが、恐ろしいと言っているのです」

 仕組ちゃんは疲れたようにそう言って、背もたれにぐっと体重を預けた。僕の所有物に遠慮が無くなっているあたり、仕組ちゃんは僕と親しくなっているとでも思い込んでいるようだ。そんな訳ないのに。

「あなたはクレタ島の住民ですか」

「それ、クレタ島民のパラドックスって言葉から引用し、僕を罵っているんだろうけれど、正直な島民だっているかもしれないよ?いつの時代も、一つの集団に一個や二個、異端因子はあるんだから」

「私の事ですか」

「僕の事だよ。仕組ちゃん、今はどこの集団にも属していないと言い張れる境遇じゃないか」

 どこにも属せない仕組ちゃんの所為で、僕は今、異端児に成り下がっている。そんな不満を言ったところで、この子の異常異変は解決されない。....せめて本当に幽霊だったらなあ。今すぐ寺に駆け込んで強制成仏させる腹積もりなのだが。

 結局最後は暴力頼り、いつの時代もそうだ。

「で、分かってくれたかな?故郷ちゃんの変態性、それと今回はハズレだって事が」

「ハズレ?どういう意味なのですか」

「君は他殺という意見を提唱したでしょう?それがハズレだって言いたいんだ」

 まあ、これもこれでまだ憶測の域を出ないし。

 果たして妹が本当に、いつもの構ってちゃんを発揮して首吊りに及んだのかも、怪しいところだし。

 それに、

「....自殺でも無ければ他者の意思が絡んだ訳でもないって、普通は疑問に思うところだと思うんだ」

 妹にあんな事をしたのは、仕組ちゃんなのかもしれないしね。

「あのさ、仕組ちゃん。いい加減に教えてくれないかな。....僕は頭が悪いんだ。ほら、見てくれるかな。さっき、故郷ちゃんが首を吊っていたベルトが伸びていた天井のあたり」

 天井の壁紙(天紙?)が剥がれている。妹は、[そこ]に何の疑問も持っていなかったようだ。というか、僕が邪魔で見えなかっただけだ。

「そして、ここにさっき故郷ちゃんの首を吊っていた僕のベルトがあります。.....首を吊っていた端とは逆の端。ベルトの尻尾の部分を見て欲しい。天井の紙がくっついているのは無視して。ほら、不自然に穴が一つ空いているだろう?普通、こんな尻尾、末端の部分にまで穴を開ける事は無いんだ」

 仕組ちゃんは目を逸らした、ので、頭を掴んで無理矢理こちらに向かせる。動かせないようにガッチリと。

「当然、僕程度の体重でベルトが切れる訳が無い。元々僕は、天井の色が1箇所変わってしまうのを覚悟でこれを引っ張ったんだから、ベルトが切れなくて良かったと思っている。で、僕が指摘したいのは、天井を見て...あ、後でいいや。天井が剥がれた痕の横にくっきりと、[見えなくなっている部分がある]」

 そこで質問。仕組ちゃんの頭を抑える手に力を込めた。

「──────この家建てたの、君のところ?」

「そんな事、私が知っている訳、無いじゃないですか。娘の私でも仕事の記録までは見せてもらえなかったんですよ」

「ここで加えよう。この家が建ったのは2年前、つまり君がそうなり始めた時期と同じなんだ。....次加えるのは...質問なんだけれど、もしかしたら、君のお母さんはこの家の工事中に死んじゃった?あるいは、君が殺したとか」

「......何故、そんな事が言えるのですか?」

 手に加わる抵抗の力が無くなったので、手を離した。

「いやね。ただの推測だよ。僕は妄想が甚だしい性格の持ち主でね。妹を自殺させようとしたのは、君なんじゃないかなと思った辺りから、妄想を広げて、さっきの質問に繋がるんだ。────この家は君の建設会社が担当したんじゃないのか────家の建てた時期は君がそうなり始めた時期と一致しているな───そういえば、お母さんとの仲は険悪だったな────工事現場というのは、事故死に見せかけた他殺には最適なんじゃないかな────....ってね。違うなら違うと言ってくれた方が良いんだよ。君の[疑問視させずにその場にとけ込む体質]が、所有物にも伝染するというのが怪しいってだけなんだから。もしも、やっていないと言うのであれば、僕はあらぬ疑いをかけてしまった事を全力で謝るよ。死ねと言われれば死ぬさ。故郷ちゃんと、同じ格好でね」

 故郷ちゃんが死ななかった最大の理由は、ベルトがたわまなかった事だ。[伸びきった状態から]首にベルトをかけられて、吊られたという事だ。器官を締め付けられていたのだとすると、恐らく正しい。

「....もしかしたら、この部屋を手掛ける際に、運び込まれた材料は、君が持ってきたんじゃないかなと。そしてこの部屋を手掛けていたのは、君のお母さんなんじゃないかなと。────そして、君は自ら暴露したね、[私には悲しんでくれる....云々]。その言葉を額面通りに受け取るのであれば」

「やめ、て下さい。そこまで言わないでください。仕掛けるのは、あなたが呑気にお母さんと会話をしている時です。私に目もくれずに、お皿を洗っている時ですよ。....あなたは、[所有物]の定義はなんだと思っていますか?少なくとも私は、自分が三分以上触れたもの、と定義しています。だってそうすると、[ある事も無い事も疑問視されなくなる]という、私の病状が伝染するのですから。つまり、三分は同じ場所にいなければいけないという事ですが、あなた以外誰も見えなくなっているのであれば、そんな事は簡単です。あなたがいない場所で触れていればいいだけなのですから。手順はこうですよ、まずはあなたの部屋の鍵を盗ります」

「ええ?」

 まじか...後で妹には深く陳謝しておかないとな。

 ってか、三分以上触れていたら、仕組ちゃんの異変が伝染するのか....さっさと手を離しておいて良かったよ。病気を移される、だなんて迷惑極まりない。

「....あなたが、ほうきさんや他の誰かと話している時に、あなたの鞄から部屋の鍵を取り出して、私の病状を伝染させます。これであなたは[部屋の鍵が無い事も、おかしな場所に置いてある事]も、疑問に思わなくなります。あなたが私と話しながら歩いている最中、部屋の鍵はずっと私が持っているという事になりますよね」

「....」

 知れば知るほど、自分の滑稽さに嫌になってくる。僕が最も警戒するべきは、この子だったんだなあと今更ながらに思う。

「もう、その後....私が取った行動は説明する必要はなさそうですね?」

「はいはい。続けてどうぞ」

「ベルトの尻尾に釘を打ち付けて、天井から垂らします。その時、当然釘を抑えていないといけませんので天井に触れます。握った形の手の側面で」

 ふーん。と、軽く聞き流す僕。もう自供を始めてしまっているという事実がある以上、この子を疑う必要は無くなっている。あるのは、この子が妹を殺そうとたという事実だけだ。手口に興味なんて無い。早く終わってしまえと、内心急かす。

「三分以上かかったんだね。釘を打つ道具は、どこから持ってきたんだい...と、問う必要は無さそうだ」

「......」

 恥ずかしそうに顔を俯かせる、仕組ちゃん。

「ええ、かかりそうですね」

 素直じゃないなあ。誰しも得手不得手があるのに。

「解せない部分が一つ。君はどうやって、ベルトで作った輪っかを故郷ちゃんの首に引っ掛けたんだい?いくら首が細い故郷ちゃんでも、頭が首より細い人間なんてのは、いないだろう?それに...ベルトの尻尾をその時既に、天井に固定していたのであれば、尻尾を金具に通して輪を作るだなんて事は出来ない」

「そこが疑問なんです」

「.......................................................................................................................................................................................................................あ?」

 人生最大の沈黙の後、僕は素っ頓狂な声をあげた。

 ん?犯人が、トリックを解明解説出来ないだと?なんだそれ。

「いや、私にも分からないのです。どうやって、妹さんの首をベルトなんかで吊ったのか。輪なんて、作った覚えがありません」

「おい。おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。おかしいんじゃあないか、それ」

 確かに、妹は構ってもらうためなら首を吊りかねない人間なんだ。そう言ったのは僕だ。紛れもなく僕だ。僕である僕だ。

「妹さんが自信で輪を作って吊ったとしか。というか私が言ったのは、自分だったらこうするぞという手順だけです」

「....いやいやいやいや。今更何言ってんだよ。大丈夫だって、僕は君を警察署に、さながらアマチュア漫画家の原稿のように持ち込むなんて事しないから」

「いやいや。あなたこそ良く考えてくださいよ。私だったら、確かに輪を作ってから、尻尾を天井に釘で固定します。ですがその釘、どこにあるんですか?」

「......あー...」

 そう言われてみると、釘、無いな。

 それに、尻尾を直接天井に貼り付けなければ、天井の紙は剥がれない。....それじゃあ、なんなんだろう?この尻尾に空いてある穴は。

「私が説明不足でしたね、私の病状について。...それについて説明する前に、その尻尾に空いてある穴をよく見てもらっていいですか?」

「うん」

 よく────

 見た。

「その穴、釘より太いじゃないですか」

「え?そうなの?」

 そう言われて、僕は眼鏡をかけた。読書用の眼鏡だ。学校では読書をする時間が無いので(文化祭の立案が遅々として進まない為)、自分の部屋に置いている。

「....あ、ほんとだ」

「目、悪いのですか?...何故今まで、かけていないのですか。あなたが最初から眼鏡をかけていれば、[私がやるであろう絞殺方法]を暴露する必要は無かったのですが」

「という事は、仕組ちゃんは故郷ちゃんを、あんな目に遭わせていないって事かい?」

 はい、と首肯する。...ああ、[かかりそうですね]ってそういう意味だったのか。なるほどなるほど、得心得心。過去形で話していなかったのは、[やっていなかった]からか。.........真に恥ずるべきは僕だった。

「でも、妹さんに対する殺意はありますよ」

 毅然とした態度の奥で、殺意を滾らせていた。怪我の功名と言うべきか?これで僕は、この子を最重要警戒対象と認識出来た、確信出来たのだし。

「....平然と嘘を吐いていたのはどっちだよ」

「私ですね。というか、あなただって、私を怪しむ事を怪しんでいたのでしょう?だから、証拠を引き出そうと、私にあんな事を訊ねた────[母親を殺したのか]と。どっちもどっちです。喧嘩両成敗」

「軍杯は君に上がっていると思うよ。....で、この穴が一体何だって?釘より太いね。うん。で?」

「その穴から、接着剤を注入したのだと言いたいのですよ。私は」

「穴から?」

 普通に塗りたくった方が、面倒では無い事は明確だ。いや、明確だからこそ、僕はあんな勘違いを吐露したのだ。犯罪というのは、二重苦三重苦を背負ってまで成功させるのが前提らしい。僕は、それにまんまと引っ掛かった訳だ。

「ふーん。....ああ、はいはい」

「天井が剥がれたのは、その所為ですよ。それにベルトの穴を見てみると...ほら、透明な塊があるでしょう?穴の周りに。それが、接着剤を用いたという根拠です」

「....いや、接着剤というか...トリモチだねこれ。人を吊るし続ける物を接着続ける事が出来るものだなんて、僕はトリモチ以外に知らないよ」

 ふーむ、首吊りに必要なもの────人を吊るす物を釣り上げる事ができるもの。見えなかったのは...ひとえに僕の視力の悪さと、天井にそれを貼り付けるという、大胆に見えて入念な準備が必要なものなのか。

「あの。一ついいかな」

「はい」

「もしも、僕と仕組ちゃんが階段で会話をしていなければ、僕は臀部を強打する事は無かったのかな?」

「どうでしょうね。私は、トリモチという物を知らないのです。ですが、それがもし瞬間接着剤、あるいはそれに次ぐような速乾性を持っているのであれば、あなたはどのみち、尾てい骨骨折のリスクを背負ってでも、妹さんを助けなければならなかったのかもしれません」

 ....今どきトリモチか..。

 盲点過ぎる。

「────あのさもう一つ」

「はい」

「もしかしてなんだけれど────故郷ちゃんに協力したのかな、仕組ちゃんは」

「はい?」

「いや...やはり、ここまで来て気にかかるのは、故郷ちゃんが言っていた[鍵かかってるよー]って言葉なんだ。言う必要、あるかなと思ってね」

 今日までに何度も、僕の部屋を訪れては開けて開けてとせがんでいた。[今日][あんな事が]起こってしまったのかと思うと、僕は、普段の慣れ、を疑わなければならない。疑り深い性格だから。

 そう、[僕の部屋を訪れては開けて開けてとせがんでいた]。室外にいる僕にせがんだ事は、1度も無い。

「君にとっては都合が良かったんじゃない?故郷ちゃんに対して殺意があると言っていたね」

「冗談ですよ。冗談」

「────いいかい?人殺しは最低の行為だ。殺意を抱いた時点で、人間は脱落するんだ。殺意無く人殺しをするやつは...失格としか言えないけどね。[人はひとりでに死んでいく]んだよ。ほうきちゃんのように」

 人の死に、私情を挟み込むまでならまだしも...人の死を利用して私情を隠すだなんて、最低だ。

「さっさと言ってくれないかな?僕は今日も安眠をしたいんだ。真実を言ってくれたら....君を押し入れには入れないでおいてあげる」

「......」

 人殺しは最低の行為だと言った手前、僕は正当防衛以上の[事]はしてはならない。だから自白を待っているのだけれど....駄目かな、これ。

「まあいいさ。君の事が見えているであろう、故郷ちゃんに訊ねれば済む話。もしくは君が、ここからいなくなってくれたら万々歳。少なくとも、僕に恨みを抱かないでおくれよ」

 まだ聞いてみたい事があったなと思い出す。聞こうが聞くまいが、当たっていようと間違っていようと、どっちでも良いのだけれど。

「あの天井の手形。あれは、ぶっちゃけ[ああ見える]だけだよ。前からあった。君のところがこの家を建設したというのは、当たっていようが当たっていなかろうがどうでも良かったんだ。君が材料を運んだくれたのかどうかもね。.......いやあ良かった良かった。良くはないか。別にどうでもいい。君が引っ掛かってくれたお陰で、僕は君の体質、病気?について知る事が出来た。君が直接触れていないと、伝染しないんだね。二次感染はしないという事が分かって嬉しくないよ。....それじゃあ質問、お母さんとは何があったの?」

「言う訳、無いじゃないですか。あなたの妹さんとの確執についてなら、良いですよ」

 身内が駄目で、他人との関係は教えても構わないのか。どれだけ、妹を恨んでいる事やら。そしてそれを妹に伝えるべきか否か。

「うん。それじゃあ、お願いするよ。何故故郷ちゃんの[構ってちゃん]を利用してまで、故郷ちゃんを殺そうとしたのか。妹を知った上で、許すか許さないかを決めるのは兄としてやるべき事だしね」

「....妹さんですよ、お母さんを殺害したのは」

「ふうん」

 いやいや、この反応は駄目なんだって。

「そうなんだ。つまり、復讐目的という意味かな?」

 生きている人間に、何かされたのであるならば、復讐という行為は何かしらの意味を持つのだろう。が、何かされた──末に──死んだ人間の為となると...その人間にとって意味はあるのかな、復讐って。自己満足以外の何物でも無いだろう。死者の声が聞こえた訳でもあるまいし。ハムレットでもあるまいし。それに、君のお母さんは、自己を満たしたくなるほど復讐の念を強めるような大切な人では無かっただろうに。

「そうですよ。復讐です」

「虚しいね、君は」

「ええ。それでも構いません。この復讐には、母親への餞だけではなく、大なり小なり、私怨が混じっているのですから。────....まあ、どっちかというと母親への餞というのは...後付けですね。私は正しかったという思い込みの為の、理由ですよ」

「最悪だねえ、君は」

 自殺を利用するだけではなく。

 既に殺された人間さえも、欲の為に捧げるだなんて。

「ええ。それでも構いません。妹さんが死ねば、私はきっと満たされるのです。私はそう思います」

「そんな杜撰な推測で故郷ちゃんを殺すな。君が故郷ちゃんを殺す前に、僕が君を殺してしまいたいよ」

 これで僕も晴れて人間失格だ。だが、[僕以外には見えない殺人鬼]だなんて、どうすればいいってんだ。法律も、[そういう人間]を殺害する義務と権利を持った人間も手を出せない。だったら僕がやるしかないが...損得で考えた場合、圧倒的に得が少ない。

 見過ごした方が、得だ。

 ただ、僕も僕で、環境の激変とやらを嫌う。それに対して鈍感なだけで、一応、嫌ってはいるのだ。

「何故、[君]は故郷ちゃんを殺そうとするんだい?母親への餞というのが、正当化の為の後付けだとするのであれば、君自身の意思は、何を、故郷ちゃんの死の先に求めているんだい?」

「それを言えば、妹さんを殺させてくれますか?」

「巫山戯るな」

「冗談ですよ。しくみちゃんジョーク。ですが.....何故でしょうね。本当に思い出せないのです。あるのは妹さんへの殺意だけなのです。....知りもしない人を私は殺したがっているのです」

 殺意発生のメカニズムに大いに反している。殺意を含めたあらゆる感情というのは、記憶があるからこそ形成されていくのだ。記憶があるからこそ、殺害対象を認識し、殺意を抱くのだ。....それが無いのに、殺意だけがあるだなんて。この子は、僕以上に頭がおかしい。妹以上に、精神に異常をきたしている。

「殺したくて仕方がありません」

「.......」

 どうすればいいんだ?

 逆を言えば、記憶が無いからこそ殺意を維持し続ける事が出来るとも言えるが...。

「理由が分からないんじゃあな...どうしようもない」

 仕組ちゃんの前頭葉に上手い具合に強い衝撃を与え、忘却させるという荒業をやるか?額が割れてしまうくらいの、いいやつを。もしくは闇医者に頼むか。

「君の家にあがらせてもらうってのは...もしかしたらヒントくらいあるかもしれない」

「良いですけれど、どのような立場と口実を以て家にあがるつもりなのですか?私の紹介、とでも言うのですか?それともいっその事、私を行方不明だと言い張って、あなたの身分を偽りますか?」

「いや、君の了承さえ得られれば、他には何もいらないよ」

「.....?....あ、あなた。まさか」

「侵入する。不法侵入だ。どうせ君のところ、父親しかいないんだろう?兄は上京中、母親は他界。君は君で、殺意の理由なんて知らない方が良いんだろう?なんたって、[満足]したいんだから。だったら侵入なんて容易さ。針の穴に糸を通すよりも。父親の生活サイクルを教えてくれ。場合によっては、明日僕は学校をサボる」

「......分かりました。私は人殺しなんてしたくありません。殺意の理由を、解明出来れば良いのです」

 殺意に抗えない、殺意の持ち主。まんま赤子だ。

 それもこれも、[思い出せない]のが原因だろう。

「それにしても妹さん。お風呂、なかなか終わりませんね。何をやっているのでしょうか」

「故郷ちゃんは結構長風呂だよ。それに、一番風呂だから満喫したいだろうし」

 ────それから、僕と故郷ちゃんは無駄話を重ねていた。物を作る事と物を扱い続ける事、どちらが難しいか、とか。正三角形と正四角形、どちらが美しい形か、とか。綾辻行人と高野和明、どちらの処女作が面白いか────とか。

 とにかく、法則性も規則もない会話をし続けた。

 取り留めもなく。

 他愛もなく。

 憶えようもない、会話。

 取るに足らない会話。

 の、末に。

「ふる兄、お風呂いいよー」

 と、妹が扉を叩きながら言った。

「それじゃあお風呂入ってくるけれど...くれぐれも、故郷ちゃんに手を出さないでね」

 釘を刺しておいてから、僕は風呂場に向かった。

 髪を洗って。

 身体を洗って。

 肩までお湯に浸かって。

 あがって。

 髪を拭いて水気を落とし。

 身体を拭って雫を取り去り。

 髪を乾かした。



 その間に。


 母が死んだらしかった。





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