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受付のミーナ その7

 ミーナは腕を振りながら叫ぶ。


「だいたいあんたたちさっきから息子が息子がって言っているけど、わかってんの!? こいつがこんな風に育ったのはどう考えてもあんたたちが甘やかしているからだろうが! ざけんなよおい!」

『えっ!?』


 驚きながら両親はのけぞった。ミーナはエレンウェをビシリと指差しなおも叫ぶ。


「だいたいなにが『本当は優しい』だよ! 本当がどうとか知らねえよ! ほとんど面識もないよそ様に対しての態度が優しくなかったら何の価値もねえだろうが! 寝ぼけてんじゃねえ、目を覚ませ!」


 今度は父に指を突きつけた。まるで獣の咆哮のようだ。


「『純粋ですから』って、純粋だったらなんだってんだよ! ていうか純粋ってなんだよ! なんで純粋だったら部屋を片付けてもらった相手に本の並び順が気に入らないからって暴言を吐くんだよ、ああ!? 純粋度合だったら気に入らない相手を感情のままにブン殴ろうとしているあたしのほうがよっぽど生物として純粋だろうが!」


 誰かが「確かに……」とつぶやいた。納得してどうするんだ、と謎の金髪の青年は思った。


「そもそも、なにが『やればできる子』だよ! だったらやってから呼べ! こっちは婚活のために来てんだ! 他人様の家の事情を嫁で都合よく解決しようとするんじゃねえ! 慈善事業じゃねえんだぞ! あたしがどんだけ、どんだけこの婚活に命をかけていたか! その想いをお前らは踏みにじったんだ!」


 そんな風に叫び続けるミーナであったが、やはりその目からは涙がこぼれていた。パンクした感情が涙となってあふれているようだ。


 とめどなく流れる涙をみっともないと思いながらもミーナはどうすることもできず、思いの丈を放ち続けた。


「あたしだって本当はこんなこと言いたくないけど! パパさんとママさんと一緒に過ごした時間は楽しかったけど! でも、だからってあんたたちの罪が消えるわけじゃないからな! 相殺なんて絶対にされないからな! あたしはあんたたちにいいように利用されたっていうこの恨みを一生忘れないからな!」


 身を切るような叫びであった。ミーナは己をブン殴るような気持ちで一言一言を叩きつけていた。自分だって言いたくないと言ったのは、本当のことだろう。ミーナは本当に両親のことが好きだったのだから。


 父も母も、うなだれていた。あのイズレンウェでさえ、目の前で両親が糾弾されている状況に、事の重大さをようやく理解したようだった。


「……わ、悪かったよ……」

「そうだよ、一番悪いのはあんただよ! あんたが悪いからあたしがあんたの両親を責めなきゃいけないんだよ! 土下座しろ!」

「は? なんで、俺がそんな……」


 イズレンウェが嫌そうに顔を歪めた途端だ。彼の前にいた父と母が地面に深々と頭を下げたのだった。


「すみません、ミーナさん……」

「この息子は私たちが責任をもって、更生させますので……」

「とっ、父さん、母さん!?」


 慌てふためいたイズレンウェは、思わず周りを見回す。周囲の女性陣も静まり返っていた。彼はごくりと生唾を飲み込む。己の行ないを振り返った彼は、泣きそうな顔をした。


 そして、ついにイズレンウェは自分の意志で頭を下げた。額を土にこすりつけ、ミーナの前で全面的に己の非を認める。


「……本当に、すみませんでした……」


 ぐっとこらえ、ミーナも静かにうなずく。


「…………うん。あたしのほうこそ言い過ぎた。ごめんなさい」


 ミーナはようやく涙を拭った。彼女は赤い目で静かに頭を下げる。


 こうして無事村は滅びることなく――、南の村での婚活体験は終わりを告げた。ミーナにとってはまたも散々な婚活体験であった。





 ***





 その後の顛末である。


 イズレンウェ家から婚活相談所に燻製肉と手紙が届いた。内容は、迷惑をかけた件に関する謝罪の手紙である。


 あれからイズレンウェは農場で働き始めたとあり、手紙の末尾にはミーナへの感謝がつづられていた。あなたのおかげで私たちは目が覚めた、と。


 両親への罪悪感でいっぱいなミーナとしては複雑な気分である。


 ともあれ、ミーナは婚活相談所に戻ってきた。一週間休んでしまったが、きょうからまた働き始めである。理想のエルフを見つけるまで、彼女の婚活はまだまだ続くだろう。


「……」


 この日、ミーナは受付に座ってぽけーっと天井を眺めていた。


 南の村から戻ってきて以来、彼女はたびたびこうして物思いにふけっている。二度目の破談がよっぽどショックだったのだろう。


 一方、ライルは気が気ではなかった。


 ミーナを連れて婚活相談所に帰る際、イズレンウェの両親から「ライルさんにも本当にご迷惑を」と謝られるところを、ミーナにバッチリと目撃されてしまったのだ。


 もともとイズレンウェの両親とは古い仲であったので、彼らがライルのことを知っているのは当然だ。そのとき、ミーナは特になんのリアクションもしなかったが、だんだんと不安になってきた。


 人間の姿をしているときのライルはそこまで強くないので、ミーナに無理矢理押し倒されたら逃げられない。猛獣とともに仕事をしているような気分だった。


「ライルさん……」


 ミーナがぽつりとつぶやいた。ライルはびくっとする。いや違う。ミーナがライルを呼ぶときは「所長」と呼ぶから、あれはエンシェントエルフのライルのことだ。


「素敵な人だったな、ライルさん……」

「え?」

「あ」


 ミーナは気づいたように顔をあげて、パタパタと手を振る。


「誤解しないでくださいね、所長のことじゃないですよ」

「あ、はい」

「エルフの村で、助けてもらったんです。すごいかっこいい金髪のエルフさまに」

「はい」

「ああ、住所と職業と既婚かどうかぐらいは聞いておけばよかったなあ……。でもあんなステキな人だったら、絶対結婚しているよなあ……。はぁ……」

「うん、まあ、うん」

「でも、もし結婚していなかったら、そのうちこの婚活相談所の噂を聞きつけて、やってきてくれるかもしれませんよね! 万にひとつでもその可能性があるなら、あたしはこれからもがんばれる気がします!」

「はい」


 ライルはなんとも言いがたい表情で頬をかき、つぶやく。


「馬鹿だな、君は……。本当に……」

「え!? なんですかいきなり!?」

「いや、助かったよ、ありがとう」

「その上お礼まで!?」


 目を白黒させるミーナと、あからさまにホッとするライルの前、からんからんと婚活相談所のドアが開いた。


「あっ」と言ってミーナは立ち上がり、ライルは振り返る。そこには新たな来客がいた。


 ミーナは少しは慣れた笑顔を浮かべ、お客さんへ元気よく挨拶をした。


「ライル婚活相談所へようこそ! あなたの理想のパートナーをお探しします!」



 やがてミーナが本当にライルの正体に気づく日がやってきて、そのときミーナがどういった反応をするかというのは、それはまた明日の物語である――。




ライルの業務日誌:ミーナくんが馬鹿で助かった。



次回更新 → 第一部完なので、いったん完結済とさせていただきます!

       応援ありがとうございますー!

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