七
「はーい皆さん! イッツショウターイムッ! 皆に大人気旧感覚ローカル教育テレビ番組『あによめといっしょ』の時間だよー。今日もお兄さんと一緒に世界のことを勉強しようね? 全年齢の読者の皆に優しいユトリ仕様だよ!」
「はーい、お兄さん、《秘宝》ってなぁに?」
「そんなことも知らないなんて、君は本当に屑だなぁ。生きていて恥ずかしいと思ったことはないのかい? 一緒に居るお兄さんの方が恥ずかしくって死にそうだよ。まったく勘弁してくれないかなぁ? お兄さんはね、ネット、テレビ、新聞雑誌、今やどのメディアにも引っ張りだこの超売れっ子アイドルなんだよ。一般民衆の雲の上の人なのだよ。そんなお兄さんの貴重極まりない時間を君のようなゴミの為に割かなきゃならないなんて。お兄さんの一分一秒がどれ程の価値があると思っているんだい? お兄さんの一時間でどれだけのカネが動かせると思っているんだい? どうしたってお前みたいな生ゴミ相手にしなきゃならないんだ! えェ!? 聞いているのか、この、業者にも拒否される腐臭を放つ有害指定のゴミがッ! おおッと、いけないいけない。君みたいな肥料にさえならない糞以下の存在を多少なりとも人並みに出来るようにこの番組があるわけだからね。その為の教育番組さ。さてさて、《秘宝》というのはだね、見た目はただの灰色の、拳大の珠でしかないんだ。そこら辺に落ちていたとしても、誰も顧みないだろうね。そうそう、例えば小石や君が転がっていたとしても誰もが見向きもせずに放っておいてしまうのと同じようにね。ところがどっこい、これにはものすごい価値があるんだ。一セントの価値もない君とは似ても似つかないところだね。何とこの《秘宝》、願い事を叶えられるんだ。凄いでしょう。何でも叶えられるかと言えば、それには少しばかりの説明を要する。特に君のようにただでさえ残念な脳みその脳漿が腐りきってヘドロ状態になってしまっているガキに分からせるためにはね。《秘宝》は、その数に応じた願いを叶えられる。下らない願いならば一つ二つで事足りるだろうさ。だけど世界中の皆が幸せになりますようにとかそういう願いならば、途方もない数の《秘宝》が必要となる。さて、先ほどの〝何でも願いが叶えられるか〟という問いに対しては、ここだよ、重要なのは。何をぼーっと何も考えてない牛みたいな顔をしているんだ。よく考えなさい。先ず《秘宝》が無限に存在できるならば、何だって叶えられると言うことになる。しかし《秘宝》が限られているのなら……? そう、この世界はその為に血で血を洗う争いをしている。《秘宝》が無限にあると決まっていて皆がそう信じているのなら、何もここまで我々が争うことはなかったろう。いったいどれ程の数が存在して今どれ程しか残っていないのか誰も分からず、みんなが不安で不安で、他人の滑稽で下らない願い事に貴重な《秘宝》を使わせないために、暴力で以て解決しようと必死なんだ」
「ねえお兄さん、このニギって少年は、最強の種なんて恐れられている紫鬼が、どうしてこんな非道い主人の所に仕えているの?」
「はぁ……。そんなことも分からないんだねぇ。呆れるを通り越して同情してしまったよ。いいかい? この乱世を生き抜くために必要な物、それは第一に信用なんだ。強さ以上に信用が物を言う世界なんだ。それは時に金であり、伝手であり、社会的地位だ。彼には強さがあるが、それ以外には何もないんだ。信用を持ち得ない場合、強さはむしろ害となる。枷となる」
「でも……〝これだけ強ければ、なんだってできるでしょう?〟」
「……なんだなんだ、分かっているじゃあないかい。なかなかどうして見所のあるガキじゃないか。そうだよ。その通りなんだよ。彼にはその可能性があるんだよ。その素質があるんだよ。できるだけの力があるんだよ。手段を選ばなければ。奪うことを憶えてしまえば。一歩を踏み出す勇気があれば。でもそれを拒否している。彼は人を殺したくないんだよ。他人の手足として首を斬り捨てることは出来ても、自らの意思で心臓に刃を突き立てることはしたくないんだよ。自分はただの奴隷でいたいのさ。ただの装置でいたいのさ。それが最適解だと信じ込んでいる。愚かだろう? 自分勝手だろう? でもね、そんなのは世界中に居るもんさ。世界中、そんな奴らばかりなのさ。だからこそ世界は残念ながらうまくいっているのさ。悲惨だろう? さ、分かったら続きを進めてしまおう。まったく無駄な時間を過ごしたものだ。ま、人生さ、無駄じゃない時間の方が少ないものだけどね」
「ありがとうお兄さん。世の中って呆れるくらい面白いものだね」




