表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宵の文目  作者: けら をばな
第三話 「こんなぼくでも、君の涙を拭くことはできるから。悲しみを受け止めることはできるから」
46/51

「はぁ~……」

 コノハは花屋の店先で品物と一緒に並んで溜息をついた。

「おいこらコノハぁ! 怠けてねえでちゃんと仕事しねぇか!」

 奥から親父の怒声が響いた。

「はいはーい。……いらっしゃいいらっしゃーい」

 そんなやる気の無い花屋店員・コノハの許にも客は来る。

「やあやあ、コノハちゃんこんにちは」

 と、初老女性が机に突っ伏すコノハに声を掛けた。

「はーい」

「どうしたんだい、今日は一層やる気が無いねえ」

「あ、分かっちゃいます?」「お客様に何言われてんだテメー!」

「どうしちゃったの、相談に乗るよ?」

「あー、ちょっと聞いて貰っちゃおうかな」「仕事中だろテメー!」

「うんうん、やっぱり、一緒に住んでる彼氏のこと?」

「か、彼氏だなんて……」「なんて話してんだテメー!」

「あらあら、赤くなっちゃって」

「い、いえ……あの……」「失敗に対してもそのくらい恥じらい持てテメー!」

「年の差なんて詰まらないことに縛られてちゃ駄目よ。わたしなんて、主人は八歳年上よ」

「うーん……。でも……」

「コノハちゃん、あなた、親代わりのつもりかしら?」

「う!」「図星かテメー!」

「おこがましいと思わない? 二十年と数年しか生きてこなかったあなたが、いきなり、どうやって十何年生きてきた子の親になろうって言うのかしら?」

「ぐぅ……」「耳かっぽじって聞いとけテメー!」

「まったく、半人前が大人になった気でいるんだから」

「……あいつも、多分わたしと一緒です。一人前に成りたいと思ってるんです。わたしの役になりたいと思ってるんです」「テメーはさっさと半人前くらいには成ってくれテメー!」

「あなたと一緒、ね。なら親代わりは益々無理ね」

「でもでも、わたしとは違って、あいつにはまだまだ無限の未来が」

「そんなもの無いわよ」

「…………」「お、お客様、あの、流石にそれはちょっと言い過ぎではテメー」

「〝紫鬼〟であるものが《秘宝》の世界で暮らしてきた、と聞けば、どんなことをしてきたか、一般人だって容易に想像できるわ。あの子だけじゃない……あなたたちふたりともよ。あなたたちふたりに、無限の道は拓かれていない。残念ながら。優しい人たちに囲まれてると忘れがちだけど、世界って、意外と残酷よ?」

「……わたしは……」「どーすんだこの空気テメー!」

「それだけの覚悟を持って生きなきゃならないの。あなた、自分が頑張ればニギ君だけでも普通に生きられるって、そう思ってない? 甘く思わない方が良いわ。そんなの、あなたの方からさっさと潰れてしまうわ。それか、そんなあなたに耐えられなくなったニギ君が、それなりの行動を起こす。……意味は分かるわよね」

「……だったら、どうしろって言うの? わたしがあいつを導けないことは、とっくに分かってる。その上、あいつを助けることもできないだなんて……わたしに存在価値がないって言うの?」「テメー本気で言ってんのかテメー!」

「……逆に聞くけど、あなたにとってニギ君の存在価値って何? お金もマトモに稼げないあの子に存在価値があるとでも?」

「ふざけるな!」

「あら、一丁前に怒れるじゃない。偉い偉い。もっとも、怒る対象が間違っているけどね。……ニギ君は、あなたにとって自分の存在価値がないって、そう思っているわけでしょう。なら、叱ってあげなさい。分かるまで何度も。そして、もっと頼ってあげなさい。必要としてあげなさい。コノハ。事実、あなたにはニギが必要なの。あなたが壊れてしまわないためには、あの子が必要なの。分かるでしょう。……あの子があなたの負担であるように、あなたもまた、あの子の負担になってあげるの。……長く居すぎたわね。この姿で居るの、結構疲れるのよね。それじゃ、善い報告を待ってるわ」

 女はにっこり笑うと、花を持って、お金だけを残してその姿を煙のように消した。

 コノハはむすっとした表情を浮かべ、もう一度机に突っ伏した。

「仕事しな」

 奥から出てきた全身植物に塗れた主人が、コノハの頭を小突いた。

「……うー」

 コノハは子供のように不満をはっきりと露わにした。

「あ、そうそう。忘れてた」姿もないのに先ほどの女の声がした。「ニギ君、《三原の山》に行ったらしいわよ。神同士の会議でそんな報告があったわー」

 コノハはガバッと起きた。

「仕事してる場合じゃねえぞ!」

 主人の言葉が終わらないうちに、コノハは走り出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ