六
ニギはコノハが出て行ってから街へと繰り出した。やれることがしたい。平たく言えば稼ぎたい。少しだけ潜れば……ぼくにぴったりの仕事があるかも知れない。不満、欲望、妬み嫉み、そんなものの吹き溜まりを目指して。
「はぁ~……」
公園のベンチで溜息をつく。裏通りや貧乏街やらを巡って、結局ここへ行き着いた。
稼げる仕事、あるにはあった。盗み、殺し、案外転がっていた。流石は〝紫鬼〟、需要はある。
でも、そんな仕事を受けたとして、稼いで帰ってきて、果たしてコノハはどう思うか、と、そんなことを考えると、引き受ける気にはならなかった。それにそんなことすれば、きっと前の暮らしに後戻りしてしまうだろう。
……後戻り、か。
ぼくは前に進んでいるのだろうか。少なくとも、以前の暮らしをもう一度やれと言われれば、できることならお断り申し上げたい。
苦笑。汚くなくて、ひとの生き死にに関与せずに、ぼくにぴったりの、稼ぎの良い仕事。ちょっと都合よく考えすぎた。
「でも、どっかにないかなー」
「兄ちゃん」
厳つい男が三人、ベンチに座るニギの前に立っていた。
「何?」ニギは構えることなく聞いた。
「……稼げる仕事を探しているらしいな」真ん中の、三人の中では一番背の低い男が聞いた。
「まあね。でも、殺しとか盗みとか以外でお願い。それと《秘宝》と無関係なやつ」
「まったく、贅沢なモンだ。だが……そんなアンタの要望通りの仕事が、あるにはある」
「へえ。……ちょっと聞いて良い?」ニギは身を乗り出した。
「……その前に試させて貰う」
両側の男が胸元から銃を取り出してニギへ向けたが、その銃は途端に三分割にされた。ニギの手にはいつの間にやらナイフが握られている。
「撃つつもりなくても、銃口を向けられるのはあまり良い気がしないよ」
ニギはふてぶてしく目を細めた。
「ああ、すまないな。こっちとしても、簡単に信用するわけにゃならないのさ。……さて、合格したところで早速本題だ。アンタにゃちょっと行って、確かめて欲しいところがあるんだ」
「……確かめる? それだけ?」
「勿論、問題を解決してくれりゃ尚良し。しかしそこへ行って何を見たのか、それを報告してくれるだけでも、それなりの金は払わせて貰う」
「……裏がありそうで嫌だな」
「そりゃ、裏はある」
「正直は好きだよ」
「どーも。アンタに行って欲しいのは、あの山だ」
男は北に座して、ふんわりと雪を冠する山を指し示した。頂上付近にまで木々の枝葉が覆っており、標高もあまり高そうに見えない。ニギは目を凝らして首を傾がせる。
「……あそこ? あそこに何があるの? ただの小高い山にしか見えないけど」
「他所のモンなら、そう思うだろうな。地元のモンからすりゃ、それなりに大層なことを言っているんだが」
彼の話はこうだ。
あの山の向こう側には古くからこの周辺地域を守ってきた竜が棲むという。清らかな水、豊かな自然、豊穣を実らせこの地を発展させてきたのはこの竜のお陰だという。
しかし最近になって、様子がおかしくなったという。農作物のできが悪くなったり、今まで一度としてなかった農作物の病害などが発生したり、そればかりでなく川の水が濁り、浄水器無しでは飲料水として使えなくなったりと、異変が起こっているとのことだ。
「山の頂上だって、昔は年がら年中、木と言わず草と言わず、すべて花をつけていた。それはほんの三月前まで、だ」
「竜とかなんとかに異変が起こったのではないか、それの原因を突き止めて欲しい、と。ぼくみたいのじゃないと駄目な理由は?」
「その竜はヒト嫌いだ。たとえ妖魔であってもヒトと関係が深い場合、拒絶する。その昔、ひと目見たいと会いに来たヒト族の宗教家を、跡形もなく食い殺したとか。何百年も前の話だがな」
「ああ、ヒトの為にやってるわけじゃないんだね。当然か」
「それ以後、あの山は禁足地として崇め恐れられている。立ち入ったら罰を受ける。それだけじゃない、どんな妖魔が居るか知れない危険な地帯になっちまった。つまり確かめるだけでもおれらみたいなのの仲介とそれなりに腕の立つやつの助けが必要だってこった」
「ふーん……いいね!」
ニギはぴょんとベンチを立った。
「やるよ。今のぼくにぴったりだと思う。報告楽しみにしててよ」
ニギはにっかりと笑った。
「準備はしっかりして行けよ?」
「うん、へーきだよ」
「……いくら何でも今から行くとか言うなよ? 着く頃には夜になっちまう」
「いやいや、分かってるよ」
「……でもやっぱり、十八歳未満の場合は、まず親御さんの許可を取ってだな」
「えっと、〝裏の稼業〟だよね、コレ」
「……うーん。どーも罪悪感が拭えねえ。子供でも、お前がもっと目のイッちまったヤツだったらなぁ……」
「子供じゃない」ニギはぷくっと膨れっ面を作った。
「まったく、そういう反応がオコサマだってんだよ」
男はしかめっ面を作った。




