三
フヨウは雪原でひとり、かちかちとピースメイカーに弾を込めていた。彼の場合こんな風に手動でわざわざ弾込めせずとも一度に複数はリロードできるのだが、単純にこの所作が好きなので、こうして時間をかけてまで銃弾を己の手で補充する。
足許には死体が山になっている。その全部が、このピースメイカーの餌食となっている。
「そんなに殺しても良いのかい? やれやれ、コノハが居ないと途端にこうだ」
金髪の、にやにやと自信たっぷりな男がひょっこりとフヨウの側に現れた。
「何だアァラ、来てたの?」
フヨウはいつも通りの眠たげな瞳で、死体をずかずか踏み締めながらアァラへと近づく。
「単身攻め込んだお前を心配してやって来たんじゃないか」
「本音は?」
「コノハから逃げてきた。どうやら正解だったらしい。《四高翁》を半殺しにして追放されたってさ。ぼくだったら呆気なく死んでた。んで、ちゃんとニギの許へと辿り着いたって話だ」
「そう……。良かったね。あなたの思い通りだ」
アァラはにやりと、底の知れない笑みを浮かべた。
「はは……。そう。ぼくの望み通りだ。彼女は邪魔で邪魔で仕方が無かった。そしてそれは、君の望み通りでもある」
フヨウは黙ったまま、いつもの通りの眠たげな瞳でアァラを見つめ返している。アァラは更に、吐息のかかるほど近くに寄った。
「サクラなら、こんなことはしなかったろう。あの子は純粋に、自分と君のこと以外を考えたりはしない。しかし君はニギやコノハのことまで考えて、彼女らが《イゾの会》に居ることは、彼女らにとって適切ではないと考えて、彼女らのために行動を起こした。それが、君とサクラの違いだ」
「そう。ぼくとサクラでは違う。そんな当たり前のことに、随分まどろっこしい説明をする」
「ははは、性分だ。しょうがない」
アァラは顔を離して笑った。
「君のそんなところ、サクラはどう思っているのだろうね」
「サクラは、こんなぼくも含めて愛している。そしてぼくはあんな自分たちのことしか考えないサクラのことを愛している。それだけだよ」
「ははは、確かに、それだけのことだ。人生おしなべてそれだけのことで済まされてしまう。所詮、総じて他人事なのさ。自分のことだって他人事なのさ」
「どうだっていい」
「その通り。どうだっていいことさ」
「ああ、そう言えば」フヨウは銃を身体中のポケットにしまった。「コノハさんに、お金返したの?」
「ちゃんと、利子も含めて、ね。弱いから恨みは買いたくないのさ」
アァラは胸ポケットから煙草を取り出して、火を灯した。その煙草を、フヨウは奪い取って吸った。
「……マズい。よくこんなものを吸っていられる」
「奪っておいて、それはない」
「返すだけならすぐに返せたはずだ。それをせずに、利子だけ貯めて。……確かに今があなたの言っていた〝ここしかない〟という時期だ。財産が没収された後で渡すなんてね」
フヨウは煙草をぴんっと指で弾いて棄てた。
「……まったく、嫌な子だ」
「あなたには言われたくないよ」
ニギは雪の降る中、死体を足蹴にして進んだ。




