四
A「さァさァ始まりました、『ドキドキ! 《秘宝》争奪首切り合戦!』でございます。実況はいつもの通りわたくしAと、解説はこれまたお馴染みB雄さんです。よろしくお願いしますB雄さん」
B「よろしくお願いします」
A「さて本日吉日、観客はこの通り満員御礼。球場は五万人の観客で埋め尽くされております」
B「まあ、大半はサクラなんですけどね」
Bの額に赤い点ができ血が噴き出す。これは凶弾に倒れたという表現である。
A「さてさて、相手は〝世界最強の種〟とか〝神殺し〟など言われている紫鬼の少年、名は〝ニギ〟でございます。いかがでしょうか、B吉さん」
B「世界最強の種であるか、は、議論の余地がありますが、ヒト族最強の種であることは間違いないでしょう。そして同時に彼らは相手が神族であろうが怯まず立ち向かう勇敢で馬鹿で間抜けで罰当たりな種でもあります」
A「しかしA吉さん、こちらも負けてはおりませんよ。あの妖魔・ガルバーダが、何と何と三頭同時に相手でございます」
B「妖魔・ガルバーダ。確かに、げに恐ろしい種でございます。知性の欠片もなく、とにかく食欲だけに貪欲で、目に入れば神にだって襲いかかる。図体は高さおよそ三メートル。九尺九寸。九フィートと十インチ。三点一七掛ける十のマイナス十六光年。白虎や獅子のような四つ足で身体中を覆うゴワゴワと硬い体毛は黄色、イエロー、黄土、鬱金色、山吹色とさまざまな色でカラフルに彩られております。特筆すべきはその大きな口と鋭い刃。力強く恐ろしく、蟻も象も麒麟も今年から小学三年生の隆史君も一飲みに召し上がってしまいます」
A「その隆史君から応援コメントが届いております。ご紹介しましょうか」
B「要りません。糞下らないガキの戯れ言なんざ」
A「隆史君はスポンサー様の一人息子でございます」
B、Aに喉元を太刀で突き刺される。血がドバドバと流れ出す。喉元を太刀で突き刺されたのだから。
A「さて、お、早速動きがありましたよB美さん」
B「勝負ですから、動きがあるのが当たり前です」
B、四方八方から一本の槍で突き刺され絶命。
A「ガルバーダの体毛がガサガサと音を立てて剥がれて、おお? 硬く鋭い黄色一色の毛が何と何と宙を自在に漂って、一斉にニギへ向かって襲いかかりました」
B「はい。ガルバーダの恐ろしさはその体毛にあります。牙だの大きな口だのは飾りに過ぎません。鹿のでかくなりすぎた角と一緒で、むしろ邪魔です」
A「おや、恐ろしく力強い牙が恐ろしいのではないのでしょうか?」
B「誰でしょうね、そんなことを言ったのは」
A「貴方です」
B「そうです、わたくしでございます」
B、舌を噛み切って自ら命を絶つ。
A「ニギ君は防戦一方でございます。これをどう見ますか。逆転の機運はありましょうか、B太郎さん」
B「あんな小さなナイフ一つでは、どうにもこうにも。ああ、二つですか。しかし種類という名目では、ナイフ一つで申し分ないでしょう。左右で同じナイフを持っていますから。そんなものであの硬い体毛を貫いて肉を掻き斬るのは難しいでしょうね。唯一隙があるとすればガルバーダの体毛が生え替わる瞬間ですが、三対一では絶望的です。隙なんざ見つけられません。ニギ君、短い命でした、さようなら」
A「ああ、その小さな体に次々と体毛が刺さっております。痛そうですね」
B「そうですね。ガルバーダの硬い鋭い太い体毛がそこら中に刺さったのです。ガルバーダの硬い鋭い太い体毛がそこら中に刺さったくらいの痛みがあるはずです」
A「素早い動きとナイフ捌きでどうにか致命傷は避けているものの、時間の問題でしょう」
B「ああ、天に召される。しかしそれは恐ろしいことではありません。ニギ君、貴方は神に選ばれたのです。〝己が天寿を全うした〟と胸を張りなさい」
A「足にぐさり。動きが鈍ります。次々と腕、背中と体毛が襲います。ああ、神も仏もないのか」
B「まったくでございます。然るに我々は祈る以外の選択肢はないはずなのでございます」
A「おや、しかしニギ君、笑っております。まるで初めから人生も何もかもすべて諦めている顔でございます」
B「勝利を確信している顔でございます」
A、B「「その両方でございます」」
A「諦めが敗北とは限らないのでございます」
B「いつもいつも不屈たる精神が勝利たり得ないのでございます」
A「ニギ君、ガルバーダの一匹に突っ込みました」
B「遮二無二突っ込みました。愚か極まりない行動でございます」
A「鋭い剣山を掻き分けて、何と何と、ガルバーダの頭蓋にナイフを突き立ててしまいました」
B「何と愚か極まりない戦法であることか。鋭い刀を素手で握り掻き分けると同じでございます。美の精神の欠片もない。なんたる美しさでございましょうか。美とは、精神と切り離された存在であるべきなのです」
A「全身にガルバーダの毛が刺さっております。黄色と赤の毛むくじゃらの小さな怪人のできあがりでございます。そしてニギ君、間髪入れずに二匹目に突っ込みます」
B「間髪入れてはなりません。あの紫髪はそれをちゃあんと分かっております」
A「二匹目、仕留めました。そして三匹目の方を見ます。笑っています。ガルバーダは怯えております」
B「知性も何も無い奴らを怯えさせたのです。やはり紫鬼です。こんなものが生きていて善いのか。いいえ、いけません。今すぐ規制すべきでしょう」
A「そして、ああ、ガルバーダを、我らがガルバーダを、我らがニギ君が、残らず殺し尽くしてしまいました」
B「はい。これでわたくしらの役目もご免でございます」
A「五万の観衆も静まりかえっております」
B「五万の観衆は初めから一言も申しておりません」
A「さて、こうなってしまってはわたくしどもの生きる甲斐がありません」
B「元より生きる価値などございません」
A「さあ皆さん」
B「ご一緒に」
A、B、五万人の観客、一斉に懐より拳銃を取り出して、こめかみに当てる。
A、B「「さようなら」」
同時に引き金を引くと、五万と二つの銃口が一斉に火を噴く。




