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宵の文目  作者: けら をばな
第二話 「よかったら、わたしと居てくれないか?」
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二十五

 さあさあ始まった、ニギと正体不明の軍団との大対決!

 虫の息で役立たずのコノハはさっさとフヨウに任せ、ニギは単身森の奥へと突き進む! 狙うは敵本陣、勿論《秘宝》! いかに襲いかかる敵を振り払い、なぎ倒し、目的を成し遂げるか! フヨウは後ろへ、ニギは前へ!

 ニギの許へと気配が伸びる。コノハの感じたとおり、そいつは二重に、よっつに、八つに十六に三十二にと、途端に枝分かれ。墨色の服に身を包んだ敵連中が突如として現れた!

 しかしこのニギは、コノハとひと味違う! 現れる場所も瞬間も分かっているかのように、先読みして先読みして、見事な手際で手足をナイフで以てバッサバッサと斬り落とす! 斬り落としてしまったなら、途端に大人しくなる。これをフヨウはこう推測する。

「ぼくの能力、言ってしまえば〝念力〟だけど、自在に動かせる数に限界があるんだ。一度に動かす量が多ければ多いほど、器用には動かせない。ぼくが敢えてピースメイカーなんて古くさい代物を使うのは、連射が自然と制限されて、それでいてそれが作為的に見えないから。それが理由。他人には〝好みだから〟なんて説明しているけど」

「……あれ? 滅茶苦茶ぶっ放してなかったか?」

「ぼくと君との闘いの最後で、十二台のピースメイカーで連射したとき? あれは、ほとんど方向を変えていなかったでしょ? 実の所、速さを操作するのでやっとだったんだよ。ニギなら、容易に避けられた。ニギは、先ず始めの攻撃の時点で〝コイツは自由自在にモノを操られる。いくら避けても無駄だ〟と思い込んだ。だから君は避けずに払った。今の今まで勘違いをしていた」

「…………」

「そしてコイツら。四肢を切断したら不器用にしか動かなくなる。そこから得られる答えは?」

「四肢を別々に自由に動かせるほど器用じゃない、か。そうか、動きを警戒しすぎず単純に、襲いかかってくる武器だけに注意を払えば良いのか」

「それも答えのひとつ。だけどそれ以上に大事なことがある。コイツらがつまり、誰かに使役された存在でしかない、ということ。操っている者が存在する」

「そいつを叩け、か!」

「……それとルクの能力のこと。ぼくはあのひとの能力の全貌は把握しているわけじゃないけれど、コイツらとあのひとの能力と似ているところがある。〝影〟なんだ」

「〝影〟?」

「夕暮れに伸びる〝影〟、多方面から光を当てれば容易に枝分かれする〝影〟、そのものなんだ。……普通は物体があって光があって、初めて〝影〟が存在する。ルクは違う。〝影〟があって、初めて彼女と光が存在しうるんだ。それと同じようなもの……だと推測する。断言は出来ない」

「十分だ。〝影〟を観察しろ、か。後はぼくで試す。フヨウ、コノハを頼む」

「うん。ニギも。ぼくらが生き残れるか、君に託す」

 ああ、何と美しい信頼関係か! ちょっと前まで殺し合いを演じていたもの同士だとはどうして思えようか!

「……ああ、ルベロスもね」

「あ、うん。……え、ついで?」

 さてさて、ニギはフヨウの言葉を信じてみれば、あらあら何とも簡単に、迫り来る脅威を次々退けているではないか! 影が異様なまでに濃い場所に、ヤツらは決まって現れるのだ! そして、この気配を辿れば、その操っているヤツらの許へと辿り着けるという算段だ!

 コノハは、不殺に拘るあまりに逃げたことが失敗だった。立ち向かったなら、からくりなど気づかずとも彼女の力ならば案外容易に勝利を掴み取ることができただろう。いや、コノハは誰かを殺すことを恐れたのではなく、勝利を恐れたと言い換えてもいい! 何といぢらしいことか!

 ニギは驚異を容易に退けながら、気配を辿った。そして、その果て……森の奥に、茅葺き屋根の建物がぽつりぽつりと存在する集落を発見した。

 そのうちにひとつに有無を言わせず突入。そこには三十人ほどの老婆がじっと座っていたのだった! さあ、ニギ! 総本山だ! 徹底的に制圧しろ!


 殺し尽くせッ!


 老婆の、諦めを湛えた瞳はニギに集中した。

 その瞳を前にして、ニギはナイフをそっと自分から離して置いて、膝をついた。

 彼は約束してしまった。

〝コノハの生きているうちは殺さない〟。

〝コノハを守るというフヨウを信じる〟。

 ニギは両手をついた。

「もしも非礼があったのならば、わたしが彼女らに成り代わりお詫び申し上げます。それでいて……厚かましい願いだとは重々承知でありますが……どうか《秘宝》をお譲り頂けませんか」

 老婆たちは何も言わない。ニギは頭を下げ続ける。

 ひとりが、しびれを切らしたように口を開いた。

「顔を上げろ」

 ごろり、と生首がニギの近くへ放り投げられた。

「……そいつが、初潮前の村の娘を犯した」

 それがコノハと同行したもののものだと察した。

「初潮前の娘に手を出せば極刑。村の掟じゃ。従ってもらった。そして……」

 ごろりごろり、幾つもの生首がニギ目掛けて飛んできた。

「罪人が村の外のものの場合、同行者は、逃走するものは同罪。それが掟」

「……恐らく、彼女は何も知らなかったと……」

 村の掟だけでなく、勿論同行者の犯罪行為も。しかしニギは老婆の返答を予想していた。

「関係ない」

 やっぱり……。だが続く言葉は彼の予想の範疇を超えていた。

「が、どうやら今は逃走していないようじゃな。こちらへ向かってきている」

「!」

 もしかして……あいつ!

 虫の息であるはずのコノハは、フヨウとルベロスを振り切ってニギの許へと走っていた。

 だが……

 コノハはやがて、力なく前のめりに倒れた。

「……止まった」

「コノハ!」

 ニギは立ち上がって歯噛みする。落ち着け。落ち着け。座り直す。馬鹿コノハの馬鹿な行動は、しかしコノハをむしろ安全にした。

 だがこの状況はかなりマズい。コノハらが襲われた理由は分かった。今、この老婆連中はニギらを完全に敵だと見做している。《秘宝》を譲り渡す理由が見当たらない。

 どうする? やはり無理矢理奪い取るしかないのか? しかしからだは動かない。コノハが危険な状況にあることは分かっている。殺すつもりはない。それをせずに奪い取ることは、多分可能だ。しかし……それをやってはいけない気がする。

 そうやって迷ったまま、肩を落として黙り込むニギに、更に予想の範疇を遙かに超えた出来事が降りかかる。

 何かを包んだ風呂敷がニギへと放り投げられた。中からはみ出して木の床に当たってコトンコトンと音を立てたのは、三つの灰色の珠だった。

 ……その珠は、風呂敷の外へと投げ出されると、鐘と銅鑼とを一緒に打ち鳴らしたような音を吐き出して共鳴し、七色の目映いばかりの光を発した。

 間違いない。間違えるはずがない。

《秘宝》――。

「呉れてやる。持って行け」

 驚いて顔を上げる。老婆連中は、惜しむどころかまるで穢れたものに対するような瞳でそれを見ている。何故? という言葉も、あまりの驚きにまともに出てこなかった。

「……どれだけの醜い争いが引き起こされたことか」

 察した。

「使ってしまえば消えて無くなってしまう存在。ならばさっさと、下らないことにでも使ってしまえば良いのだが……しかし、それさえもまともに許してはくれぬ。それが、どうやらヒトの欲というものらしい。どうか、わしらの前から、それを遠くへ追いやってくれ。わしらの心が変わらぬうちに」

 老婆の声は震えていて、いつしか呼吸が激しくなっていた。その瞳には、欲望と恨みつらみがせめぎ合っていた。

 ニギは深呼吸をひとつ、頭を深々と下げて、《秘宝》を風呂敷ごと、かっ攫うようにして、背を向けると振り返らずに走った。


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